②
3月24日
お留守番のお嬢様 ②(sideジーク)から魔術師を魔法使いと変えました。
あっ、詳しい話!
はっとして目を開けた。
カーテンがされてても、昼の明るさに思える
あれから、また一日過ぎていたみたいです。
起きてすぐ。おじいちゃん先生に診てもらって、リクエストのチーズリゾットを食べてからお風呂に入れてもらいました。
ベッドからの解放宣言(仮)も、無理をしないようにと言われましたがもらいました。
ほかほかさっぱりしたら、ルー様とかドルレンさんやロアナ様と面会だ。
ドルレンさんは両脇にヒョイっと手を入れて持ち上げると、「元気になって良かったなぁ」って、高い高いしながらくるくる回る。遠心力で頭と足がほぼ同じ高さかもって思うくらいだから、勢いがありすぎるでしょ。けぽっとしちゃったとしても、私は悪くないと思うくらいの勢い。
ロアナ様に止められて、バツの悪そうな顔をしながらソファに座らせてくれた。が、機嫌はやっぱり良さそうみたい。
「卵。全部孵ったぞ」
「本当? 子竜ちゃん達に会える?」
「あぁ。あ、あぁ。ぅん…」
いいの? 駄目なの?
歯切れが悪すぎる。
むぅっと見上げたら、こめかみをぽりぽりしてた。
「その事だが、ミシェ」
魔法使いさんと一緒に入ってきたディ様が、私の向かいに座る。
「竜に会うだけじゃ無く、幾つか注意がある。さて、今回の話をしようか…」
私が極度の(ディ様は[極度]をとっても強調して言ったよ)魔力欠乏になった原因は、無意識に魔力を放出した事。本来ある筈の危機回避のリミッターが無い事。その二点。
魔力に関しては、過去に、私が魔力過多になった事があるという。
それは初耳だ。
私の事を知らされたお祖父様からの手紙で分かった事。それは、私が四歳の時だったそうです。
因みにその過去の時点で、魔力暴走をも起こる可能性もあったが、一週間程で落ち着いたという事実。
その時の詳しい話は、帰ってから聞くようにだそうです。
リミッターが無いという事。過多と欠乏の関係は詳しく調べないと、と、この場での明言を避けた魔法使いさん。私が帰る時には、付いてくるそうです。
何の為? 事実確認の為だそうです。
…うん。あんまりいっぺんに言われても、だよ。
体が出来上がる前の魔力の乱用は成長や健康を害する。だから魔力を使う魔法を教え始めるのは、その家によってまちまちだけど、だいたい慎重。ちゃんと先生を用意したりしてね。
ある意味、特殊な状況で過多になった私が、魔力を使ったり興味を持つ事を、お祖父様達は忌避していたらしい。けどそれ以前に、話題にしなくても当の私が魔力を使う行動に興味を持たなかったので、問題無く沈黙していたんですって。
でもね、とぼける気は無いよ。無いけど、私自身は魔力を使ったつもりは無い。気持ちを込めただけ。
その私見に対して、私から無くなった魔力や卵のその後の状態は、魔力譲渡を示していると魔法使いさんは断言する。
そのうえで体力低下と、食欲低下の後遺障害が出なくて良かったなと言われました。目が覚めた後に、なかなか体調が戻らない事も有り得たのだそう。
「体が出来上がるまで。きちんと魔術を理解するまで。魔力を使わない事が最重要。竜に会うのもいいが、単独で会うのは禁止事項でしょう」
「ミシェ。従者や騎士が居ればいいって事では無いからな」
それはどういう事? って、首を傾げたら、魔法使いさん付じゃ無いと駄目だって…。
「どうしても?」
ただでさえ、騎士さんも付いてくるのよ?
「竜を見て、同じ事が無いとも限らない」
「欠乏どころか、命さえ危なかったんだよ」
「もう…。あんな思いはごめんです」
ルー様だけじゃなくて、本来は口を挟んじゃいけない筈のジークの呟きまで続いた。
それは、反省しているよ…。起きたら具合が悪くて、大事になってたんだもの。
「竜に会うなとは言わない。むしろ、会いに行っていい。魔法使いと、ドルレンは、必ず立ち会いだ。分かったな?」
これに関しては「うん」と言うしか無いよね。言い聞かせる感じの語気の強いディ様に、渋々と同意した。
「じゃ、ミシェイラ・エイブ・マクラーレン。今一番我々が知りたくている事だが、頭の上のものは何かと知っているか?」
はっ! そうだ、鏡で見た白いもの。まだくっついてるの? お風呂入って、頭洗ったんだよ?
せっかくとかしてもらった髪の毛を、ぐちゃぐちゃと掻き回してみる。
「まだくっついてるの?」
支度を手伝ってくれた侍女さんを探して聞く。
侍女さんに聞くまでも無く、ディ様が私に聞く時点でくっついてるのだろう。
わたわたと髪に触っても、指先が触れるのは、自分の髪の毛と頭皮。
私を見てる皆と視線は合わない。上だったり、横だったり、誰を見ても目が合わないの。
再び鏡で確認した。
確かにへばってる白もこ。
「何でくっついてるのぉ?」
鏡の中では、私の髪を治してくれている侍女さんの手を、絶妙に避ける白もこ。白もこって言ってるけど、たんぽぽの綿毛みたい。綿花の繊維の曲線じゃなくて、逆だった毛? みたいな。
「恐れながら、入浴の時も、お支度の時もこうでございました」
「お水平気なの? へちゃってならなかったの? ディ様、これって何? 早く取って! 寝てる間に、どうして取ってくれなかったの?」
「…ミシェ。我々も、それに気付いてから、取り除く努力はした。が、無理だった」
腕を組んで瞼を閉じるディ様と、組んでいた片腕を崩して口元を押さえる魔法使いさん。頼れる筈の大人が頼れない? まさかの事態!
恐る恐る鏡を覗き込めば白もこ。じっと見れば、白もこも、こっちを見てる気がする。
「それに関してはだが…」
ディ様に促されて、ジークがトレイを持ってきた。トレイには、お守りの様に身に付けていた袋が乗っている。
思わず手にとった。だって破れてるんだもの。
「外した時がどうだったか、気が動転していて。申し訳ありません。ですが、引っ掛けたりとかした覚えも無いです」
竜の厩舎も廊下も探しましたと、俯いたジークが申し訳なさそうに言う。
急いで外したとしても、外した後、袋を雑に扱ったとは思わない。そこは短い付き合いでもジークを信頼してる。それに、破れたというか、縫い目が解けたが正解。袋に刺された刺繍は無事だった。
それだけは良かった。刺繍は、お母様の手のものだから。
「頭のそれは、この袋に入っていた物じゃないかと推測している」
魔法使いさんが、思ってもいなかった事を言った。
「魔石の様で魔石でない。魔石でないのに魔力があった。ルードルフ様から聞きました。間違いは?」
そんな話、確かにしたよね。魔術師さんに頷いてからルー様を見る。ルー様は、黙って私の頭の上を見てる。皆、話を聞きながら私の頭の上を見てる。私もちらちら鏡で見ちゃう。
「一魔法使いが断定出来る根拠も無いが…」
「どうして魔法使いさんはそう思うの?」
「頭のそれは魔獣で無いのは明らか。魔力を持っていても、魔獣とは異なる魔力」
そう言って、モノクルに触れる。魔力可視化のレンズが、キラッと光った気がする。
「じゃあ、何だって言うの?」
魔法使いさんの視線にたじたじ。
「成体の竜も惹かれてたとも聞いた。聖獣の…もしかすると幼聖体かと。白の綿毛にも似た記述が文献にもある。幼聖体と伝承されるのには理由があって、聖獣が現れる前兆に、たんぽぽの綿毛に似てる、それよりもはるかに大きいものが見掛けられたとある。見た者には、何がしかの幸運がと書かれていたが」
「えっ? 別にそれほど幸せでも無いよ? それに、私が持ってたのって、本当にぶにゅぶにゅだったんだよ?」
「…休眠していたと仮定する」
「そんなの変だよ? それにくっついてる理由になってないよ?」
「くっついてる理由? それも推測の域だが、過去において、ミシェイラ嬢と魔力の共生関係になったのではないか? 我々が魔力譲渡をしていた時。それからもミシェイラ嬢に向かって魔力の流れがあった。それはとても自然で同種の魔力。取り除こうとしたが、取り除く事をしなかった理由はそれだ」
? ? ? ? ? ? ? ? …。
疑問がいっぱい。
ぼんやりとした私は、急いでベットに戻された。
魔力欠乏とか体の不調とかじゃないよ。自分の事は良く分かる。考えて、疲れちゃったんだ。
ルー様に、「ごめんなさい」と「ありがとう」言って無い。寝てる間に、お世話になったのに。
話をするとこんがらがりそうだから、お手紙でも書く? だって、会話は疲れそう。
そもそも、幸運って何? 凄く不幸だとは思ってないけど、幸運? 本当に分かんない。昔から伝わるってもので、意味が分かって役に立つのは、おばあちゃんの知恵くらいだよ!
私が運に恵まれてるなら、幸せだって言うなら、お母様は死ななかったよ。不幸な落馬事故と言われなかった筈だよ。軽い怪我で済んでよかったねなんて、誰も言わなかった。
幼聖体(?)だったとしても、身に付けてたんだよ。そんな事が本当だったら、私がお母様を取り上げられる不幸なんてある訳ないじゃない。
ぼんやりとしたのは、頭の中で考え事したから。不貞寝する事で、考える事をシャットダウンよ。
お読み頂きありがとうございました。




