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お留守番のお嬢様 ①

 ルー様が、魔獣退治に行く事になった。

 二箇所で魔獣出没被害の報告。動き回る木と、ワイルドボアの群れだって。

 動き回る木の方の討伐補助に、参加するかとディ様が軽く声をかけたのにはびっくりだ。

 動き回る木には、動き回る茸がセットらしくて、空から茸の無効化支援。ワイルドボアの肉弾戦と比べたら、気を抜き過ぎなければ初戦として問題無いって。本当ならディ様も出向くまでも無い魔獣なんだって。

 茸は麻痺や幻覚で生き物の動きを止めて胞子を植え付けて増えるし、木は生気を吸い取るんだって。木は物理的に燃やせば済むけど、茸とセットだった場合、燃やす前に胞子を吸い込んじゃったら人間の方が危ない。だから空から茸を速やかに見付けて無効化が優先。

 自立歩行する木や茸と聞いて、私は「メルヘン?」って思ったけど、どんなを聞いて考えを改めた。生気を吸い取られた動物(人間もあり)をぶら下げたまま移動して来て、それを武器にして振り回されたら…全然メルヘンじゃ無い。

 で、ルー様は、説明を聞いて、何れ辺境公爵家を継ぐのだからと、同行を決めちゃった。

 物凄くもやもやする。

 緋色の騎士服に双剣を下げたディ様と、黒の騎士服に胸当てとかの装備と弓を持ったルー様を見送った。

 竜に乗る姿はかっこいい筈なのに、お気を付けてという言葉が喉に引っかかって、もやっともやもやする。

 ここは、その為の場所だって分かってたのにね。

 楽しく過ごさせてもらってたから、ぴんとしてなかったみたい。

 湖や散策した森も、何となく平和そうに感じた。でも、本当に平和なら、砦を出るのにあれだけの護衛なんて必要無かった筈だよね。立ち寄った集落も、石積みの壁で囲まれてたし。

 我が領地とキエナ領は、同じ様に山も森もあるけど、全然違う。城塞都市の南側から北西に向かって広がる背の高い針葉樹の森。私が竜の背で『緑の海』と例えた綺麗な緑なのに、『黒の森』『魔の森』『迷いの森』なんて言われるくらい恐い物が居て、何処に居るのか分からなくなるくらい深く暗い森だと聞いた。

 魔獣が出るのはそっち側。

 魔獣の被害を抑える為に砦があって竜騎士団がある。

 分かっているつもりだけど、複雑だ。

 この城塞に来た時。空から竜に乗ってきて、その竜から降りたこの場所。小さくなった竜の影を追うのを止めて、森からこの街に視線を向ける。

 この城塞都市は大きな岩山を切り出して傾斜を利用して出来た街だから、上からの見晴らしはいい。

 領地暮らしがほとんどの私からすると、石ばっかりで土に根をおろした立木も草花も無いのは味気ない。

 それを凌駕するのは、この見晴らしの良さなんだろうな。

 この高い場所にある領館は、はっきり言ってそのまんま石造りのお城。石の建物と階段や坂道。要所を繋ぐ渡り廊下や物見台なんかは、木で出来てるから面白い。

 切り出した石で森の中に点在する集落を囲む壁にして。切り出して切り出して、今の状態になって、少しでも便利にって建物を繋ぐ木の橋を作ったりしたんだね。木だけは、色々な種類がいっぱいあるから。

 ここから見える壁に近い所なんて、丸太のお家で可愛いし。

 道の横。窓枠。ベランダ。所によっては屋根の上。色んな所で見かける丸太を縦半分にしてくり抜かれたプランターには、花もあるけど手頃に収穫出来るお野菜やハーブが植わっていたりする。

 そんな所を通り抜けて、私は、竜のお母さんの所に寄り道をした。






「ドルレンさんは、行かなかったの?」


 竜のお母さんの所には、ドルレンさんが居た。


「基本的に、戦闘は不参加なんだ。スタンピードで四の五の言ってられない時や巻き込まれた時は別だけどな」


 そういうドルレンさんの足には、斧が装備されてたなって思い出す。うん。標準装備だね。


「卵…孵る?」

「ロアナから、聞いたのか?」


 こくりと頷く。


「こればっかりは、誰にも分からない。竜にも色々あって、駄目でも卵を抱え続けるやつと、卵を捨てるやつもいるからな」

「卵を捨てるの?」

「野生で暮らしてるやつに多い。生存がかかってると、構っていられないんじゃないかな? 反対に一年でも二年でも抱えてる事がある」


 ドルレンさんと一緒に、お母さん竜の所にいく。

 今日も元気っ? と、お母さん竜は鼻先をほっぺたにすりすりしてくる。擽ったくて顎の下をぺちぺちして返す。

 挨拶みたいなそれが終わると、どうぞと羽を持ち上げた。卵の隣に招かれて、ゆっくり近付いてそっと座った。

 黄色の卵は温かい。この卵は生きてるって思う。コッコツ。ザリザリ。音にはならない振動が伝わってくる気がするの。

 なら、二つの卵は?

 お母さん竜の温もりが移ってるから、触っても冷たいとは思わないの?

 二つの卵に手を伸ばす。お母さん竜と離れないようにしながら膝に抱えた。黄色の卵は抱えられないから、お母さん竜と私の間に。

 何時もは持ち上げたり膝に乗せたりしなかったから、ドルレンさんが慌てた声で名前を呼んだけど『頑張って!』『産まれてきて!』て気持ちを卵に伝えたかったの。


「どうして卵を捨てる竜がいるの?」

「育たないって、分かるからじゃないのかな」

「分かるの?」

「放棄されて直ぐの卵を保護しても、孵った事例は無いんだよ」

「そっかぁ。でも、この卵達は孵るね」

「どうしてそう思う?」

「えっ? 『精霊のゆりかご』って言ってる卵。中で動いてる感じがするよ」

「本気で?」

「うん。卵、触ってみれば?」


 背中向けてるから、ドルレンさんは見えないけど、わたわたぶつぶつ何か言ってる。何だかうろうろもしてる様子。


「どんな感じの音だ?」

「ん? 何かぶつかる感じだったり、擦る、ような?」

「んぁ~っ。本当かよ」


 そう言った後。物凄く大きなため息が聞こえた。ほっとした感じのため息。


「なぁなぁ、ミシェイラちゃんよ。本気で、里の子にならない?」

「お断りしますけど、何で?」

「普通、そんなに卵にゃ触らせてくれないんだよ。だから、他所で産まれた卵を、里に運ぶ事も出来なかった」


 なるほど。卵は無事に孵って欲しいって思うけど、里の子になるのは、やっぱり嫌かな。私はお祖父様と領地のお仕事をする気満々なのだ。


「なかなか孵らないから駄目かと思ってたが…。それが本当なら、良かった」


 ガシガシっと頭を搔く音と、またため息のドルレンさん。


「ねぇ、ドルレンさん。しばらくここに居てもいい?」

「んぁ? ルー坊居なくて暇なら、ロアナが居るだろ。料理とか一緒にしたらいい」


 料理を一緒に? そんな気分じゃ無いの。そもそも、料理に立ち会うだけで、料理して無いもん。

 返事をしないでいたら、放っておいてくれるらしくて、ドルレンさんはお留守番の竜のお世話に戻っていた。






 カリッ。

 コッ、カツカツカツ。


「キュ~ッ」

「キュッ」


 パキッ!

 うぁ? 何? 音、何?

 起き上がろうとしたら、ぽふっとぶつかって体を起こせなかった。

 何でってパニックになりかけて、竜のお母さんだと気付いた。

 クッションと毛布。

 寝落ちしちゃったんだ。

 パリッ、カシカシ。

 何だか暗い中、目を凝らしたら、卵にヒビが入ってた。


「ドルレンさん! ドルレンさん! どうしよう。大変! ドルレンさん!」


 わたわたと身動ぎして気が付いた。

 竜のお母さんだけじゃなくて、スーリャとキファも多分他の竜もいる。


「慌てるな。どうした?!」


 案外、ドルレンさんの方が慌ててるんじゃないかなと思える様な声。

 お嬢様と呼ぶジークの声も近い所から、っていうか、すぐそこに居た。びっくりだ。


「卵割れてる!」

「全部割れはじまってるのか?」

 卵二つに手を伸ばして撫でてみる。


「うんん。一つだけ」

「そうか、一つだけか。…一つだけでも孵ったんだな」


 始めは安堵。その後には、諦めの様な残念さが滲んでる。

 何でそんな諦めた声を出すのだろう。

 お母さん竜は、三つの卵をちゃんと守ってるんだよ! 全部孵るに決まってるじゃない。 

 お願い、生きて。お願い、出て来て。

 少しでも卵の中が分からないかと卵に耳を当てる。

 割れない卵を、改めて抱え直した。

 お願い! お願いっと思うほど胸が詰まって熱くなる。

 少しでも音が聞こえたら、卵を割ってしまおう。交互に耳を当てる。

 何度目か分からないくらい『出て来て』って思って、願った。


 熱く、熱く、熱くなっていって、プツンっと何かが切れた。

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