②
ご満悦のディ様とドルレンさんを見送って、厨房へと戻る。
料理長さんを初め、こっちで大人しく試食していた大人は、ご馳走様した食器を洗ってた。
「それで、お嬢様。残った米どうするんだい?」
炊いたお米は、半分無くなってた。
想定内? 想定外?
「ロアナ様。食べてみてどうでした?」
「お魚は、ごめんなさい。でも、それ以外は美味しかったわ。お米も、たくさんは無理だけど、好きよ」
「私も、白い米は初めて食べたが美味しかった」
私が聞いたのはロアナ様。何でルー様も答えるの?
王子様が食べたお米。どんなの食べたの?
「トマトとチーズで、もっとベタベタしてた」
言い方! 美味しいものだったとは思えないよ。でも、人好き好き。
「ドナさん。天日干しに使うザルありますか?」
「あるよ。どうするんだい?」
「干します」
「炊いた米を態々かい?」
「はい。幻のお米です!」
きりっとドナさんを見て、拳を握った。
「早くて三日。だいたい五日くらいで、お米がかちかちになります」
「それって、食べられるの?」
「心配ありません。美味しくいただけます」
ロアナ様と一緒に、お米を広げていく。
ここに来て、初めての作業。何をするでもなく、口だけ動かしていた私に、それくらいさせてもいいだろうなって事? まぁ、いいですよ。楽しいですから。
「そ、そんな疑わしそうな目で、見ないで下さい」
残ってたお米の半分が広げ終わった。
駄目にしたらもったいないって目で見られてるけど、これくらいは必要だと思うのよ。だって絶対食べたがると思うもの。
「乾燥したら、油で揚げるんです。揚げたてに、とろみのあるスープをかけると、じゅわじゅわぁってして、美味しい間違いないです」
「ねぇ、どんなところが幻なのかしら?」
「食べれば、きっと美味しいのが分かってもらえると思うんですけど、そのためにお米炊くところからしないでしょ? 炊きたて食べて、残ってたら焼き飯やリゾットしたりで、そこまでお米が残ってないからですよ。滅多に出来ないから幻」
「まぁ!」
「もしお米が手に入るなら、パンだね捏ねるより早く食べられるよ!」
ドナさんも頷く。
「そうだね。浸してる時間におかずなんて出来ちまうからね」
ですよねぇ~っで同意しておく。
お話しながらお米ぺたぺたきゅっきゅっする。平たくしたのをフライパンに並べて焼いてもらいます。焼くのは、駄目みたいでした。
甘いのと香ばしい匂いが再びですね。
両面に焼き色がついたら、お醤油をひと塗り。じゅじゅぅって音がしてわくわくします。
「お焦げせんべいです。幻のお米は、これとは違う美味しさです! 冷めてもいいですけど、私は出来たてが好きですわ!」
音を立てて食べるのは、淑女としてはどうかと思われるでしょう。ですが、ぼり、ざくっと音を出しながら食べるのは、親しい間なら許されると思います。音がする度に、お母様と笑いあってしまったのを思い出します。
物思いしてたら、ルー様が、ぺたぺたきゅっきゅっしてます。これも気に入ったのでしょうか? というか、まだ食べられるの?
ルー様を見てたら、おかしくって笑っちゃいました。
「あぁ。米は片付きそうだね。なら、他も片付けちゃっていいかい?」
「そうですね。もうお腹いっぱいです」
ぽんっとお腹を叩いたら、ぽんっといい音がした。
「ドナさんっ! いい匂い!」
「駄目! もう腹減ったぁ」
お開きにしようと思ってたら闖入者です。
見習いのお兄さん達でしょうか、わらわらと五人、食堂に入ってきました。
「あんた達、騒がしいよ!」
「えっ?」
「あっ!」
「ロアナ様?」
ピタッと起動停止して、すぐさま謝りだしました。
思いもしない所に、ご領主さまのお嬢様が居たからびっくりですね。この場合の闖入者は、私達ですけど。
ルー様が、焼けたお焦げせんべいと素揚げ蓮根を運んで行きました。
「何これ、見た事ない」
皿を置いたルー様が、一つ取って「ぼりっ」。
「あ、あの、俺達…」
「美味しいわよ。召し上がってみて」
戸惑いと好奇心。で、好奇心が勝った。あっ、食い気かな?
「しょっぱ美味い!」
「美味いけど、満たされないっ!」
半端に刺激された食欲を満たすのは、やはり食べる事しか無いと思う。
残りのお米でレタス巻きを作りましょう。
ドナさんに材料をお願いしたら、ロアナ様が楽しそうです。
レタス。お米。スティックきゅうり。甘い卵焼き。湯がいた三葉。魚のオイル漬け。
順番に乗せて、くるくる巻き巻きですよ。
残ってたスープとお皿をカウンターに乗せて、ドナさんが取りに来なと声を掛けた。
おっかなびっくりの一口。味わいながらも無言の咀嚼。良い食べっぷりです。
「ミシェ。私の分は?」
「えっ? ルー様、まだ食べるの?」
「ミシェが作って」
何でと思いながらも背中を押されては仕方がない。
ぽんぽんぽんっと乗せてって、巻いたら終わりよ。
皿にも乗せずに渡したら、ありがとうって言って食べ出した。
カトラリーを使わないで食べてるルー様って、何か可愛いんですけど…。
お行儀は悪いが、ルー様は、見習い達の中に入っていく。「お前も見習いに入るのか?」なんて聞かれて、「そうだ」なんて答えてるよ? その答えって合ってるの?
嘘言っちゃ駄目でしょって見てたら、竜騎士団の見習いに入るからだって。
まぁ、いい。私の事じゃないもんね。
兎に角。お米は片付いた。
「ドナさん。今日は、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げたら、頭を撫でられた。
「料理は、好きかい?」
「作らせてもらえないので、好きかどうかは分からないけど、食べるの好きですよ」
「私は好きの前に、作れるようにならないといけないわ。でも、こんな風になら、料理好きになれそう」
ロアナ様に両手を握られた。
嫌。だから、私お料理してませんからね。
お読み頂きありがとうございました。




