③
【属性】ゆえか【魔力】ゆえなのか。そんな難しい事は、専門家に任せるのが一番よろしい。
私程度の頭で考えたって、分かる筈も無い。
魔力測定用のシャーレの仕組みだってどんな魔法陣が書かれているのかとか、属性試薬は何故検知出来るのかとか、それを知りたいと思えばその時調べればいいと思う。
今は、それで何が分かるかという事で十分だ。
何より、素朴だがケーキは美味しい。
そう結論づけたのを、ルー様が、首を傾げながらも納得をした。
ケーキを焼いた瓶も茶器も手際良く片付けてもらったついでに、絵本の返却をお願いする。
ルー様の目が、面白そうに部屋から持ち出される絵本を追ってる。
そして絵本の話になり、感想を求められた。
感想? 感想ねぇ。この場合は何に対して述べればいいのかな? ディ様が、私に必要だと言った情操教育的感想? 十歳の私に絵本の感想なんてと、一瞬子供らしからぬ縦じわが。ゔぅぅんと考え込むのは仕方ないと思って欲しいわ。
「見事な刺繍に触るのにも躊躇しました」
ここは最初に感動した事からがいいだろう。
うんっと頷いて言葉にする。
銀糸の髪と金糸の髪の二人の女神様の姿を刺繍された表表紙。中身の挿絵も、綴られた文字さえも刺繍だ。その手工業の見事さよ。綺麗なものは綺麗と言おう。
内容は女神神殿に祀る二人の女神様のお話。神殿で口にされる説話を絵本にしたものと認識しました。
今の私には、夜の女神様と言われる銀糸の髪の女神様の方が心にあると思う。魂の安寧を守る女神様だから。対になる金糸の女神はと言うと、昼の女神で、現世での生命を見守る女神様。
二人の女神様の神話があって、教え諭しているというのが神殿なだけ。奇跡とか聖女とかの話もあるけど神殿で聞かされる話は好きじゃ無い。
あ、これは絵本には関係無かったね。
「兎に角。刺繍も見事なら、ここまでの状態で保管されてるのも凄いです。大切に読まれてるんだなって。ルー様も思いますよね」
「そうだな、状態も良いし、私もこの女神達の表情の表現は素晴らしいと思う」
「ですよねぇ。この刺し手って、男の方と女の方、どちらだと思います?」
刺繍の刺し手と言えば女性が一般的だけど、刺繍絵画では男性も当たり前に居る。
「分からない。ミシェは、そういう事が気になるのか?」
「気になるというか、女性ならコンプレックスを写すだろうし、男性ならロマンをと聞いた事があったのです。でも、そんな感じは受け取れなかったから」
「コンプレックスとロマンか…」
「…はい」
それは一言で言うと、薄衣の下のお胸やお腰。女性の美を追求するならここに視線が行ってしまう。表現のあからさまなものを見た時は、何処を見たらいいのか困る時があると思いませんか? だけどこれは、子供の目を意識したものなのか、そんな感じは受けなかった。だって絵本だもんね。でも子供から見た目的にも柔らかい感じが好ましい筈。お母様とか乳母とかほわぁんと柔らかいでしょ? 柔らかさイコール温かさだと思う。そういう要素を一切省いて表現されてるのが凄い。双子神で持ってる色が違うだけ。なのに個別の女神だとはっきり分かるのも凄い。いやらしく感じないのも凄い。本当、男性女性のどちらが、どんな気持ちで描いたのかが気になるよね。
「まぁ、男女どちらであれ、聖心性を強調しての作品と見たらいいんじゃないかな」
言われてみてそうかと納得。どんな意図でというより、綺麗の一言で済む。そしてこの刺繍絵を好きか嫌いかなら、好きだ。どう言おうかと考えたが、難しく考える必要はなかったのかな?
ならば後はもう一冊の感想ね。
これは普通に紙の絵本。挿絵もちゃんとあって可愛いものだった。
「もう一冊は、はっきりとした明言は本には無くても、魔石とかの話ですよね」
「あぁ」
「自然に出来た魔石自体を神聖視するのも分かるんですけど…。私としましては、助け合いは出来無いのかとか魔石がそれ程の力を持つのかとかそれだけの力を有するのにどれだけの年月なのかとかその魔石が出来る場所とかそれだけの魔石が出来るのならそもそもその土地で飢饉とか疫病は流行らないだろうとか」
くっ、苦しいっ! 兎に角、早く深呼吸。そして、言い切れなかった言葉を付け足す。
「そんな事ばかりが気になるのです」
「ミシェ?」
「はい。何でしょうか」
目を合わせると、ルー様が笑った。
「私もそれは気になるよ」
「ですよね。父親が出稼ぎで母親が病気。出稼ぎの時点で裕福ではないのかもしれないけど、周りの人達なにしてるのって事が一番気になっちゃって」
はふぅ~って息を吐き出した。
あらすじは極めて簡単。食べ物もろくに無い家で、病気の母親に元気になってもらいたいと冬の森に食べ物を探しに行った息子の話。
蜂蜜を取りに行く話も別にあるよね。
兎も角この話は、森を彷徨うように歩き回って見付けたのが、来た事も無い場所と見た事も無い不思議な木の小さな木の実一つだって事。腹の足しにもならないだろう事は分かっていても、せめてと持ち帰る。それを食べた母親の病気が治ってめでたしの孝行息子の話。
冬枯れの中で唯一実ってたそれは、魔力を含んで結晶化した木の実で、病を治す程のものだったとしたのは精霊教会。自然発生の魔石は精霊の恩恵だと、精霊教会はどや顔で教えを説いている。
この絵本に収録されている他二話も、雪山の中で魔石化した花のおかげで死を免れる事が出来た話とかで、魔石不思議話なの。
たとえ精霊と呼ばれるものの力だったとしても、教会は関係ないんじゃないのって思うのは、私だけじゃない。我が領地で神官をしているおじいちゃんも言っていた。
不信心じゃ無いよ。精霊や女神様に祈るのは、神殿や教会に強制される事では無いと思っているだけ。だから、余計に頼る人は? 助けてくれる人は? って思っちゃうだけだった。
「病気や怪我で不自由なのは譲りますよ。でも、食べ物が無いっていうのはどうかと思っちゃいます。領主は? 国は、何の対策も取らないのって。それに、ご近所さんは冷たい人達なの? それとも、この家族が嫌われ者だからなの? 魔石の奇跡より、そんな事がきになっちゃいます」
「貧富の差が当たり前と言いたくは無いけど、絵本だからそれでいいという事でも無いからな」
「そうでしょう? お母さんの病気が治ってめでたしじゃ、何か、悶々とします」
そういう見方もあるなとルー様はソファの背に添う様に背中を預けて上を向く。そして私は何となぁく膝の上に肘を置いて頬杖をついた。
「良かったねって思えない私は、良い子ではないのかな?」
はふぅっと溜息。
「否。良い子だろ? 有るか無いかの奇跡任せが民の希望で、そんな暮らしが当たり前の治世だとしたら、国としてどうかと思う」
「ルー様もそう思うならいいや」
そしてもう一度溜息だ。
「ディ様は、この絵本で何が言いたいのかなぁ? 私には分かりません」
そうこぼしたら、くすっと誰かの笑うのが伝わった。
ルー様じゃ無い。
顔を上げたら、柔らかい笑みを浮かべたロアナ様だった。
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