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 恥ずかしくて俯いた私の頭に、ぽんっと温かい手がのった。

 誰だかなんて見なくたって分かる。ルー様よ。

 ぽんぽんってされて、何となくもっと下を向いたら「ぐにゅぅ」って空気が抜けた。

 何たる失態っ! 知ったかぶりは、知らないよりタチが悪いと思う。思うが、勘違いしないくらいのルー様の情報は欲しかったよね。だってさぁ、貴族階級の子供(王子だけど)なんてルー様が初めてなんだもん。

 拗ねた私のご機嫌をとるかのように下ろされるその手。

 ルー様! 優し過ぎでございます。


「どうしたら多くの恵がとかは、考えた事も無かった。これからは、もっと身近に考えていかなくてはならないうえでは、今、知って良かった。ありがとう。だから、早くそのテーブルの上の物がどういう物なのか、教えてくれ」


 先を促されて、うんって頷いて、すんって息を吸い込んだ。

 ルー様は凄いね。ちゃんと知ろうとしてくれるんだね。昨日の森で、ちょっと邪魔って思ってごめんなさい。

 気を取り直して瓶を手にする。


「このガラスには、【土属性】を混ぜてあるの」


 このくらいの粒のをねと、採取した瓶を持ち上げて見せる。

 そして手渡して、よくガラスを見比べてもらう。

 持ったからって手触りが違うとか、見た目が極端におかしいとか、無いでしょ? 曇りガラスでも無い、気泡も無い。とても綺麗なガラス。

 ルー様が目を見開く。

 分かったかな? すごぉっくガラスが薄い事。


「ルー様。立って」


 瓶を持ったまま早くと急かす。


「そのまま上まで上げて、おっこどして下さい」

「おっこどすって?」

「言葉通りです。ぱって!」 


 なかなか手から瓶を離さない。ので、上へと伸びた肘を持って揺さぶってみる。

 でも、ぱってしてくれない。

 どうしてって顔を見ると、眉が寄ってる。


「おっこどしても割れないから、落として下さい」

「だが、な」

「大丈夫ですよ。何で割れないんだって驚いて下さいよ」

「割れない?」

「はい!」

「落とす以外は、無いのか?」

「落とすのが、一番分かりやすいかと」


 ジークを見るルー様。目を瞑り、口を閉ざしたジーク。

 何で、周りを気にするの? はっ! 床に傷がつく事が心配? それは大丈夫って言えないわ。


「あのね。本当に割れないの。大丈夫なのよ?」


 おろおろ侍女さん。護衛騎士さん。

 分かりました。割れた破片でルー様が怪我するのが心配なんでしょ?

 しょうがないなぁと瓶を取り返して、もう一つも手に持った。そして二つをぶつけてみせた。

 キィーィンと、ガラスとは思えない硬質で高い音が室内に響く。


「んふっ。やっぱり綺麗な音!」


 にっこりと笑ってルー様を見るも、唖然とした視線とぶつかる。

 えっ? もっとこう…声を上げてびっくりするとか、綺麗な音に反応するとかしてくれないの?

 侍女さん(半歩下がって両手を口にあててる)や騎士さん(前傾姿勢で一歩前)の方がよっぽどよ? 直ぐ、何事も無かったように戻ってけどね。

 首を傾げてコメントを待つ。待つ。待つ。


「割れない、もん、なのか?」

「これくらいでは、割れた事は無いですよ」


 一見にしかづでやってもらいたかったけど、考えにはまり出したルー様は知らない振りをする事にした。

 聞きたい時は口を開くであろうと思ったし、何より、思ったようにびっくりしてくれなかったのが、私にはダメージだったんだもん。

 瓶を洗ってもらって、用意してもらったケーキ生地を流し込んでもらう。予め部屋の暖炉に火を入れてもらってあったので、五徳の上に並べて置く。

 厨房の、オーブンの前に居るかのように、甘い匂いが漂うよ。

 透明なガラスの向こうで、ぷくぷくと気泡が見えて生地が膨らんでいく。

 直火といってもメラメラ強火じゃ無くて、じわじわぁの火加減。ケーキだから、その程度の火加減調整は必要なの。

 ルー様。甘い匂いの正体分かるかな? メープルの香りよ! あの木は砂糖楓で間違い無かったの。


「直火でも使える優れ物でしょ? これって、お嫁入りのお道具にいいんじゃないかと思うのだけど、どうかしら? お湯がわかせればお茶も入れられるし、スープも作れるよ。後ね、温度の変化にも強いのよ」


 ねぇ、ルー様? 考えるのはいいけど、そろそろ戻ってきてコメントくれないかな? 馬車でのやり取りを知ってるのだから、意見が欲しいわ。そう思って、つんつんと組んだ肘をつつく。


「ねぇ、どうかしらルー様」

「悪いが、嫁入り道具自体分からないから何とも言えない…。義父上に、それよりも義母上に聞いた方がいいんじゃないか?」

「そうか、そうかもね」


 よし、聞こう! 保険代案も問題無く作れそうだものね!

 そして、粗熱がとれたケーキ入りの瓶が、テーブルの上に運ばれた。

 そしたらやっぱりお味見だよね。

 これは、こんなのも作れるよって瓶に入れただけだから、型と違って取り出してお皿の上っていかないのでスプーンの出番です。


「これは、絶対割れないのか?」

「んと、あれくらいじゃ割れない」

「何処まで強度があるのか分かってるのか?」


 分かんないって首を傾げた。

 お口はもぐもぐ中。で、ごっくん。

 ルー様も食べればいいのに。兎に角食べて。


「分からないよ。そもそもね、割れガラスを溶かして作り直そうとした時に同じガラスだと思って魔石を混ぜちゃったのが最初なんだけど」


 誰が入れたって? 私だよ。もちろん職人親方に叱られた。こってり叱られました。あの時はお母様にも叱られて、お外に行けないでおやつ禁止でお留守番は辛かったな。

 混ぜちゃったものは仕方が無いって取り敢えず瓶を作ってもらって、不純物のせいで廃棄かと思ったけど、「あらっ?」て程思わぬ物になったんだよね。それからは【属性】の組み合わせとか比率とか、お祖父様もお母様も忙しくなっちゃったんだよね。


「強度だのの詳しい事は、お祖父様か親方に聞かないとかなぁ。ガラスの事だとメビルさん(ガラス工房の親方)? それとも、魔石関連で伯父様かしら?」


 分かるかなってジークを見たけど、にこやかに私を見てるだけだった。まだ短い付き合いだから、そこまで知って無いよね。


「伯父様って、子爵の事?」

「そうですよ」


 私は半眼になって当時からこれまでを思い出す。

 半裸の親父やグレーのローブを着た目付きの怪しい人達が、火の前でてんやわんやしている様子を。「何を入れた?」「どれくらい入れた?」「どこから(魔石を)持ってきた物だ?」って矢継ぎ早に詰め寄られたのに対して、順序だてて答えられる筈が無い子供。もちろん泣いた。夜が来て眠くてぐずっても、自分達がある程度納得するまで大人に囲まれてた。…今は平気だけど、あの時は本当に恐かった。


「強度云々は聞けば分かる事なのだけど、何で強度が出たかは分からないんです」

「魔石を入れてそれなら、魔石の【属性】だからだろ?」

「【属性】だから無条件になのか、【属性】の魔力ゆえなのか分からないって事です。魔力ゆえなら、魔力が無くなったらパリィンって割れちゃいますよね。そういうのも含めて、試行錯誤中なんですけど」


 そして私はもぐもぐとする。この甘味は至福を運んでくれるよ。早く食べようよと促せば、ルー様もようやくスプーンを手に取った。

 美味しいから、早く食べるといいと思うよ。

お読み頂きありがとうございました。

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