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蹴られるから、邪魔しちゃ駄目ですよ!

 湖まで馬車で一時間。傾斜のある道だけど、毎日お魚を乗せた荷馬車が通る整備された道。通りすぎる木々は、竜の背から見た針葉樹とはちょっと違う。

 そう思いながらで着いちゃった。

 白い岩場と背丈の高い水草の向こうに、波打つきらきらが見える。桟橋と繋がれた船。そのずっと先に二層の船が浮かんでる。

 馬車から降りた私達に気付いたのか、誰かが手を振ってる。私も大きく手を振ってみる。桟橋の先まで走っていって、もう一度手を振る。

 向こうから、笑い声が聞こえてきた気がした。


「あそこからですと、戻りに二十分程かかるかと思われます」


 親切な騎士さんの言葉で、船から視線を外す。

 ジークも居るけど、危ないと思って着いてきてくれたんだ。でも、二人も騎士さん要らないよ。

 足場を見遣りながら私の周りを警戒する二人を見上げる。


「あの! もしも自分が恋人さんと湖を眺めるなら何処からですか?」


 勢い込んで質問をする私に身を引きかけた騎士さんだったけど、騎士さん同士で顔を見合わせて、ゆっくり周りを見回してから、お互いがここって思った場所を教えてくれた。

 ありがとうございます。

 あちらと指さされたのは、岩場じゃなくて、柔らかそうな下草と白いお花が咲いてる木陰だった。

 うん。いい感じ。安全確認お願いしちゃう。ほら、行ってみたら水溜まりだったり、何か居たりしたら困るでしょ?

 大丈夫だよてサインがあって、ロアナ様の所に戻る。

 皆と一緒の場所で食べるつもりなのか、用意された椅子にすわっちゃってるのよ。それ、駄目でしょ? 何の為にお二人ご飯にしたのか、分からなくなっちゃうよ。船から降りてきて、改めてって思ってるのかもしれないけど、それ、私が許しません。合流してからの別行動は、言い出すタイミングが難しいですよ。


「ロアナ様。あっち! あっちがいいです!」

「えっ? でも…」

「何の為にお二人用のバスケットにしたと思ってるんですか? ほらほら、行きましょう!」


 ロアナ様の手を引いた私の意図を察した侍女さん等が、馬車から敷物やクッションを運んでくれる。

 座り心地の良い様に配置してロアナ様を座らせた。

 もう直ぐ船が桟橋に着く。後はお二人でとにっこり笑ってから、私は

お出迎えに桟橋へ。

 朝早くからお昼までのこの時間で大物は取れているのでしょうか?


「ミシェっ! 家の娘は何処かな?」


 近づいてきた船からディ様が問う。あちらですよって手の平で示せば船からの視線が移る。と、「うわっ!」とか「危ないっ!」って声が上がる。何かと思えば、ドルレンさんが船から飛んで、桟橋に着地したところだった。

 結構…あるよ? 距離も微妙に開いてて低い所から高い所。良く飛び移れたものだと、その身体能力に知らず拍手をしていた。


「ロアナ、頑張ってた?」


 にかって笑顔で答えれば、口元が緩んだドルレンさん。

 もう言葉は要りませんよね。はぃは~ぃ! 早く行ってあげて下さいよ。

 ドルレンさんの後ろ姿にお船組は苦笑い。

 桟橋に立ったディ様は笑いを取った苦い顔。

 まぁまぁ! ほらほら! こっちこっち! と、トレイに一人分ずつ配膳されたテーブルへと手を引いて行った。

 何にディ様が驚いたのか分からないけど、私も驚き! 私のパンは他のトレイの上と同じ、大っきいパンだった。私用にちっちゃいパンじゃなかった。

 …ロアナ様のいけず。

 後、一つは野菜のクレープ包みだろうけど、もう一個は何かな? 並ぶレースペーパーに首を傾げる。一つはリボン付き。これは、私の前にだけだった。ほら、二個のクレープ包みは、ロアナ様のバスケットだけでしょ? こちらのテーブルのトレイには基本パンが二個、クレープ包みが一個、骨付き肉が一本に温かいスープ。だから何かなって気になるんだよ。

 兎も角。ほらほら食べようってディ様を見る。だって、ほら! ディ様が食べ始めないと、ルー様も食べられないよ? 勿論他の人もね。


「ん? 温かい?」


 はぁーい! パンを手にしたディ様から『温かい』を頂きました!

 そうなのよ。スープのお鍋もだけど、馬車から下ろして直ぐに温めてって、お願いしておいたの。その横でフライパンに乗せて温めてもらったのさ!

 にこって笑ってディ様を見て、ルー様を見た。


「中身…。玉ねぎと、魚か?」

「こっちは芋? トマト?」


 驚きでしょ? ビックリでしょ?


「パンが柔らかいと思ったが…」


 パクッとかぶりつくディ様。「悪くない」と言いながら二口目。

 そしてちょっと離れた所からドルレンさんの「美味い!」って声。

 あっちを見て、時間が止まる皆様。羨望の眼差し。ディ様のため息と、誰だかの「…羨ましいな」の呟きで、それぞれが自分の目の前の事に意識を戻す。ご飯に意識を向け直して、見なかった事にしただろう方々の「美味い」を聞いて胸を張ります。作ったのは、私ではないですけどね。

 私としても美味しいのなら良かったです。ほら、王都からキエナ領までの間、出てきたパンはサンドイッチか、ちょっと固い丸パンだったからね。こういうのも有りだって思ったの。ただの白パンだと思ってたところに、かじって具が出てきたらびっくりするでしょ? えへへっ。

 耳で上々の評価を拾いながらリボン付きを手にする。何かなぁ? リボンがスルッと解けて、閉じた口が広がる。


「甘い匂い!」


 覗き込んだら、カスタードクリームが見えた。


「料理長から、お嬢様とロアナ様にと」

「うわぁ~っ! 嬉しい!!」


 何か足りないの足りないだった。そう、甘いのは考えてなかったよ。料理長さん、ありがとう! ちゃんと食べて、最後にいただくね。

 トレイに戻して、私はスープから食べる事にした。


「ロアナが、ここまで料理が出来るとは…」


 飲み込む度に感無量のディ様。パパフィルターって凄いんだなって思った。そうだねって同意を込めてにっこり笑っておくよ。だけど、木陰の二人をチラ見して、しょっぱい顔になってる。かっこいいディ様の、残念な顔だ。

 もぐもぐしてると、運ばれて来たのは海老と貝の串焼き。

 採れたて! 焼きたて! こっちの方が美味しいんじゃないの?

 ついつい海老をおかわりしてしまった。


「お魚、釣れました?」

「釣れたと言えば、釣れた」


 話題をふってみれば、拗ねた声のルー様。これは、思った当たりが来なかったという事ですね。そうですよね、釣れてたら開口一番で言うもんね。だからお顔は見ない様にして、もごもごと言葉を濁しておく。


「午後は、ミシェも船に乗るんだろ?」

「お船には乗りたいけど、釣りはいいです」

「どうして?」


 思った様に釣れない所に居るのも…。


「うんと…揺れるの、恐い、からです」


 と、いう事にしておこう。

 知らばっくれる様に、もぐもぐとカスタードのクレープを食べる。マーマレードが入ってて、ほわほわのスポンジケーキがサイコロみたいにコロコロ入ってて、料理長! おいしゅうございます!

 食事の締めに大満足です。







 リベンジに繰り出したディ様とルー様。

 仲良く散策を楽しむロアナ様とドルレンさん。

 雰囲気は甘々ですよ。

 釣りのお船に乗りたくなかった私。甘々お二人の邪魔をしたくない私。なので、別のお船で遊覧を楽しませてもらいました。

 したい事をするので気にしないで下さいね。

 岸を離れた船から、木枠にガラスをはめ込んだ箱を渡されて覗き込む。

 くっきりと見える水底。とても綺麗で、興奮しすぎて、船から落ちそうになってしまった。

 鮮やかな水草。並んで泳ぐ小魚。変な塊は何かと聞けば、それは貝。お昼に食べたのじゃ無いって教わって、アレは食べれないのと聞いたら、すっごく固いんだって。やすで取ってもらって(自分の頭と同じくらいの大きさだったから私には持ち上がらなかった)わくわくしながら目の前で貝がこじ開けられるのを見る。目が離せないのは、中身に期待してるから。この貝から、時々真珠が取れるのだって。ぷるんっとした身を渡されて、ぐにゅぐにゅと固い手応えが無いか探しす。ハズレだった。一生懸命に覗き込んで探しても、その後、ドデカ貝は見つからなかった。…残念だ。でも、気になるものは見つけたので良しとする。

 そんな小一時間。釣り船一行に合流する事なく、箱を覗きながら岸へと戻った。

 船の上で転落防止にロープを巻かれた私。身を乗り出しすぎて危なかったからは理解してる。私も落ちたくはないからね。それなのに、今の私もロープはそのまま桟橋に居る。因みに腹ばい。落ちる気は無いんだけど、ちょろちょろしすぎるから念の為…だって。外してくれない。失礼だよね。だけど、ジークが譲らない。私、お嬢様ですけどって見上げても、『安全対策です』って騎士さんまで味方につけて外してくれない。

 時間潰しの小海老釣り。

 不貞腐れて桟橋の上をゴロゴロする。私に巻きついて紐が短くなるでしょ? だから、外してくれればいいと思うの。

 そうやって抵抗してみても駄目だった。

 短い竿に、ウッドフィッシュの燻製を縛り付けてちょいちょいと。ちょっと転がって場所を動いても直ぐにかかる。

 面白かったのは十匹までよ…。

 垂らせば直ぐに引っ張られるのに、半ばやけくそで釣り上げ続けた。

 釣果? 大量に決まってるじゃない!

 

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