何にでも不満は出るよね!
お久しぶりでございます。
年内には、年明けにはと思っていたのに、気が付いたら二月です。
時の流れが早すぎるのか…。
いいえ、全てにおいて私の手際が悪いだけでした。
七話程のストックですが、見直ししてアップ予定です。
またよろしくお願い出来たらと思います。
私の手には、子供用のカトラリーが握られている。子供用と侮るなかれ、曇り無く磨き抜かれた銀器。さすがトルエン辺境公爵家。
ルー様養子入りの最初の顔合わせから晩餐まで、何となく同席してしまっている私です。
目の前には、小骨の心配も要らないだろう私の手よりも大っきい白身魚の切り身。緑色と橙色のソースが綺麗。我が領地では、お目にかかった事が無いくらいの大物のお魚なんだろう。羨ましいなと切り分けて口に運ぶ。橙色のソースが口内で広がる。白身の淡白さに、柑橘系の甘酸っぱくて爽やかなアクセントに、思わず美味しいと言葉にでた。緑色のソースは香草系の何か。香草や塩で味付けした魚は散々食べていた。新しさと好みで、橙色のソースに軍配が上がる。
空から見えた湖みたいな所のお魚かな? いいな、大きな魚。私が見た事のある魚で一番大きいと思うのは、私の指先から肘くらいの魚。私の食卓に上がるのは丁寧に小骨の取り除かれたものだけど、その下処理に時間と手前がかかる事を知ってる。何で知ってるかって、厨房を覗いてたから。
お祖父様もお母様も、知る事は大事と何処にでも足を運ぶから、私も自然とそうしてた。領地改善のヒントは、何処に転がっているか分からないからね。だから、お料理できますとか調子に乗って言わないけど、どうやって出来るのかは知ってるよ。
「ミシェイラ様のお口にあいまして?」
斜め向かいの席からディ様の上のお嬢様が話しかけてきた。ドルレンさんのお嫁様になられる、ディ様が花嫁衣裳を用意したいお嬢様のロアナ様だ。
私のお隣のルー様は、ディ様と義母になるディ様の奥方様と良い感じでお話しをしてる。家族とは程遠いお客様対応だけど、これからだよね。だって、聞こえる奥方様の声音は柔らかい。まぁ、王子様を邪険に扱う人なんていないだろうけどさ。
「はい。とても美味しいです」
にっこりと笑って答えれば、ロアナ様のお隣から微妙なため息が聞こえた。もう一人のお嬢様のミアナ様。
思わず無作法だったかと手が止まる。
ミアナ様が慌て気味にカトラリーを置いてからごめんなさいと言う。そんなお隣を見てロアナ様は苦笑い。
「分かってるの。分かってるけど、仕方ないじゃ無い」
貴族の令嬢とは交流を持った事の無い私は、目の前の似た容姿でも雰囲気の違うお二人の様子をじっと伺う。
ロアナ様は目元きりっの美人さん。ミアナ様はほんわか口元の美人さん。そんなお二人の「こらっ」ってお顔と「ごめんなさい」ってお顔。ミアナ様は甘えん坊さんだ。兎に角、姉妹の仲の良さが伝わってくる。
「ミシェイラ様。誤解しないでね。貴女が何かという訳では無いの」
特に私は誤解するような何かを考えたり思ったりはして無かった。単にお二人を見ていただけ。そんな私の何に対してなのか、ロアナ様の言葉に戸惑った私は、何でと首を傾げる。
「ふふっ。美味しいと言って貰えて嬉しいわ。この魚はウッドフィッシュと言ってね、三年ちょっとでミシェイラ様の背丈くらいに育つ魚なの。領地の特産なのよ」
「三年で?」
私は何となく頭の上に手をかざしてみた。
私は十年。ウッドフィッシュとやらは三年。我が領地のお魚は、三年経ってもちみっこい。ここのお魚の住処は、よっぽど育成の条件が整った場所なんだろうね。何を食べてるのだろう?
「そう。大きいでしょう?」
「大きいだけよ」
大きくて、美味しいお魚だと思いますよ?
私達のやり取りを何となく聞いてただけのルー様は、大物のお魚に興味を持ったのか、魚の詳しい大きさや生体、漁の様子を知りたがったのでディ様とドルレンさんに質問タイム。
網に追い込んで取るのが普通だけど、食料調達としてじゃなくて楽しみとして釣りを嗜むそうだ。
釣り上げる時の手応えを語るディ様。自身と同じくらいのウッドフィッシュがかかった時の竿のしなり具合を手振りで示して、ちょっとドヤ顔。
針から逃げられたり、竿ごと持って行かれたり、竿が折れる事もあるとか…危ない。そんな大物談議に盛り上がった男性陣は、釣りの予定を組み出した。
私は…釣りは遠慮したい。魚に興味はあれど、そんなのと対決したら絶対勝てっこないのは分かりきってるからね。
兎に角話を戻すと、ウッドフィッシュは一年を通して安定して取れる領地内一押しの食材。湖は凍らないんだって。だから漁が出来る。胸を張れる領地全体のメイン食材。
どんな時でも供給出来るって大事。私にはこっちの話の方が大事。
ただね、お腹が満ちても飽きるというのが悩みなんだって。顔に出してしまったのはミアナ様だけど、一日の内二品はこれなので飽きてしまうんだって。ロアナ様も同じお気持ちなのかもしれないね。
目の前のトルエン辺境公爵家の食卓は、庶民の食卓と違って肉もあり、野菜も彩り盛り沢山。でも、メインはウッドフィッシュ。
私からすると何となく羨ましい。そうです! 贅沢な悩みですよ!
領民全体に行き渡るだけでも素晴らしい事なのです。それに、ただ焼いただけじゃ無い。頂いてるのはバターソテー。バターは新鮮なミルクがあって出来るもの。我が領地産の菜種油では、この美味しさはでない。我が領地で牛の飼育をしてても、肉もミルクも貴重食材。別に、家が貧乏貴族って事じゃ無いよ。公爵家だもん。おにょ、お魚さんから牛さんに逸れちゃった。領主、貴族の食卓事情より、領地領民全体で安定して食べられる食材と考えたら、羨ましいの一言。贅沢だよ。
二度の野営で出されたスープ。お魚のお出汁のそれを思い出す。干し魚にしてあった物を入れたのだろうけど、美味しかった。
ルー様は一本釣りの話しに興味津々だけど、私は違うよ。
「他は、どの様にして食すのですか?」
食いしん坊だからの質問じゃ無いよ。ご当地を知る為だもん。
「他は…すり身?」
考え込む様に呟いてみても、具体的にはロアナ様も分からない。で、夫人が料理人を呼んでくれた。
聞けば、何時でも手に入るから煮るか焼くのみ。
流石に公爵家の食卓には出ないけど、賄いで中落ち(中央の背骨)利用。残った身を削いでお団子スープかお魚バーグ。使うスパイスは特に変わったものは無い。
保存食はと聞いたら、燻製くらいなんだって。
勿体ない。塩漬けは塩が豊富に使えないから一般には難しいけど、オイル漬けならそれほどでも無いんじゃないかなと口に出したら、料理人もロアナ様も興味を持って話を聞いてくれた。
ロアナ様のお嫁入り先はここよりも更に北の山地。『北嶺の一族』と言われるだけあって、お住いはここよりも、もっともっと高い山の上。飛竜と共に暮らす一族。竜の目覚めを、そして眠りを守る人達の暮らす場所。
ドルレンさんの貰っていいか発言は、まず『竜に好かれる』『竜を恐がらない』というところから出た言葉。竜がストレスを感じないように、竜の好む人間をスカウトしたいって事みたい。
それは取り敢えずお断りをしたよ。
私はお祖父様の所に帰って、お祖父様の手助けをするんだもの。
ちなみにロアナ様の場合は、竜に好かれちゃう以前にドルレンさんに好かれちゃったのですって…。
お嫁様になっちゃうと、ロアナ様は、今と同じ暮らしは出来ない。里は、立ち入る人を選ぶかららしい。なので、お料理なんかも自分でしなきゃいけないから、色々お勉強してるんだって。
貴族令嬢がお料理をこれから身に付けるのって大変だよ。それでもっていうのは愛だよね!
頬を染めて、美味しいって言って貰えるくらいにはってロアナ様が呟いた時、ドルレンさんはロアナ様の手をそっと握っていた。
お話聞いていたのね。
仲良しいいな。
そうだよね。結婚するなら、やっぱり想い合った人とだよね。
ミアナ様は、領内でお医者様をしてる人に嫁ぐんだって。勿論、恋愛からの婚約。
何方も入婿にはならないからルー様の養子入り。
ルー様も、政略で無理強いしないって約束してるんだって。
…いいなぁ。
お読み頂きありがとうございました。




