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「これかぁ!」


 そう言って両脇に手を突っ込んで私を持ち上げたのは、黒髪のお兄さん。

 見下ろせば、ぶらぶら揺れる私の足が間抜け。

 子供と言っても、十歳児です。二年もすれば、昼の社交にデビューです。高い高いをされて、喜ぶ年は過ぎました。

 竜も気になるが、このお兄さんだ。

 背の高いお兄さんに持ち上げられた私は、ルー様を見下ろす。ディ様とほぼ同じ視点。

 兎に角。目を逸らしたら負ける。そう思った私はじっとお兄さんを見詰める。ぽっとなりそうなお顔をしてるけど、重要なのは、そこでは無い。

 乙女にこの様な振る舞い…。私は、報復の機会を伺う。

 脳内シミュレーション。

 頭突きは遠い。届かない。

 腕を振り上げる。リーチが足りない。

 蹴りを入れる。上手くすれば腹に一撃だが、それ程のダメージを与える事は難しそうだ。

 その他、暴れるを脳内選択するも、びくともしなさそうな腕に負担をかける事は難しい…と、判断。

 く、悔しい。どうしたら一矢報いる事が出来るのだろう。


「舅殿。この子供は何だ? 貰っていいだろうか?」


 ゾワッと鳥肌が立つ。


「名前はなんて言うんだ?」


 この人は、私を貰ってどうする気? 竜のご飯?

 目の前で藍色の目が細められて、笑って口角が上がる。

 私は、負けた。視線を逸らしてジークに助けを求める。


「お嬢様をお返し下さい」

「ドルレン。令嬢をそんな風に扱うな」


 ディ様の手が伸びて、抱えられてから下ろされる。

 良かった。

 地に足がついて安心するも、まだ捕獲圏内。じりじりと後退しながら怪しい言動のお兄さんから距離をとる。


「駄目です。お嬢様っ!」

「ミシェっ!」


 不覚であった。

 ジークとルー様の声があがった時。外套のフードが引っ張られて、後ろにひっくり返ってた。

 どんっと尻もちをつくかと思ったけど、お尻、痛くない。そもそも、地面まで倒れて無い。ひっくり返って見えた青空が、灰色に覆われた。竜? って、思ったら鼻先だろうか、顎だろうか、上から胸を押さえられていた。


「いったーいっ!」


 叫んでじたばた。

 噛まれた、訳じゃ無い。でも痛い。


「痛い! 痛いからっ!」


 私のささやかな胸の上を、重くて硬い何かが擦ってる。ごりごりに。


「スーリャ、やめろ!」

「キファっ!」


 ディ様とお兄さんが、叱りつける様に声をあげる。

 私? 悪くないよぉ?

 っと言っても、呼ばれたのは私じゃ無い。

 ごりごりがすんすんになって、ぴとって胸の上に乗せてるだけになった。


「スーリャ」


 お兄さんが呼んだら、顔の上の竜が退く。

 青空…。私、生きてる。

 大袈裟に感動してた。


「ミシェ。竜に背を向けない。走り出さない。ゆっくりだよ」


 分かるかって、ディ様。

 瞼をぱちぱちして、分かったって合図する。


「ジークも、皆も、いいな」


 ディ様に抱き起こされると、私のお尻下にも竜がいた。

 ディ様は、お尻の下の竜に触れて、「待て」をさせてるのかな? お兄さんも、竜から目を離さない。ドーウェルさんが近付いて来て、抱っこされた。あえてジークでないのは、どっしり抱えられないからだろう。私より大きくても十五歳。でも、直ぐそこに居る。

 ジークの伸ばした手に…触れる事は出来なかった。ドーウェルさんが後ろに下がろうとしても、下がれなかった。…お尻の下の竜が、私の外套の裾を咥えているのです。


「キファ、離すんだ」


 ディ様が竜に話し掛ける。目を見ながら。「駄目? 駄目なの?」「駄目だ! 離せ!」みたいなやり取りが行われてるのかしら?

 静かにジークが近寄ってくれて、大丈夫ですと手を繋いでくれた。


「ググゥル」


 スーリャと呼ばれた竜が唸る。


「ほら、舅殿。竜が落ち着かない何かだ」


 お兄さんが私を指差す。

 ディ様が、ため息をついた。

 私のファーストタッチングは、お尻からだった。…悲しい。

 

今話も、お読み頂きありがとうございました。

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