④
ルードルフ様。執拗い。
どうして坊やか? どうして坊やなんだな!
お母様やお祖父様を困らせた事があると言ったって、他人に困らせられていい事でも無い。因果応報という言葉があるが、具合いの悪い時はやめて。
「つまり、出発間際に異母妹に謝罪の機会を与えたのは、公爵家としてあるべきという理念からか?」
「どうでしょう?」
おでこに乗せられた冷たいタオルをちょっとどかして、隣に座るルードルフ様を見上げる。
眩しっ! 木漏れ日の下でもキラキラだ。
「お祖父様を困らせるのは、駄目です」
色々言葉を探しても、あの時も今もそう思う。
はっ! 私も、十分お祖父様に心配を掛けてる。
歳を重ねて白い物が殆どのお祖父様。心労で抜けるって聞くけど、寂しくなっちゃったらどうしよう? どんなお祖父様でも好きだけど、直視出来るかは自信無いよぉ。
兎に角。今は休みたい。ルードルフ様を黙らせないと。
だけど、どうしてそんな事、一々口にしなきゃならないの? どうしてルードルフ様は聞きたがるの?
お願いだからあっち行って下さいって、言って大丈夫かな? 駄目、だろうなぁー。
「ねぇ、ルードルフ様」
「何だ」
「……」
「だから、何だ」
考えると、もっと頭痛くなりそ。
「何故、ルードルフ様がご養子に選ばれたんですか? 選んだのディ様? それとも王様?」
「おいっ!」
「私が聞けない何かはあるのでしょう?」
だるくて、息を吐き出す。
そもそも、私にだけどうしてだって聞くのは理不尽よ。
「養子入は自分で決めた。何で私に声を掛けたかは、本人に聞いてみたらいい」
「…それ」
「あ?」
「それですよ。本人に聞いて。お父様達は、私が嫌いだからああなんですよって言えばいいですか? 跡取りとして能力が無かったから、お母様を娶ることになった鬱憤を、十歳の私に向ける馬鹿者って言えばいいですか? そう思ってますよ、私。でもね、嫌いや八つ当たりの理由って、それくらいしか思い浮かばないけど、本当はなんて私に分かる訳ないじゃないですか」
一気にしゃべって、大きく息を吸い込む。
「曖昧に聞かないで、はっきり聞いて! だけど、分からないものは、分からないんです。それで納得して下さい!」
ジークの送ってくれてる風が止まった。
ルードルフ様が息を飲む。
「わ、悪かった」
何故に、謝る?
謝るなら、最初から絡むな!
「お前は…。ミシェイラは、あれらに、腹が立たないのかと聞きたかった。立ってるだろうと思ったから、それを聞きたかった」
ぐずっと鼻がなる。私がべそっかきになったから、ルードルフ様が謝ってきたんだと分かる。
ジークが目元をちょんちょんと拭いてくれる。濡れタオルだから気持ちいい。
「ごめんな。考え無しだった」
ルードルフ様は、泣く子には優しくなるのかしら? 王宮でもそうだったよね。
「…ちゃんと謝ってくれたから、許してあげます」
「私が卑怯だったのが悪い」
「ひきょう?」
「あぁ。愚痴を言わせて共感する事で仲良くなろうとしたんだ。悪かったな。ミシェイラは、義父上とどんどん打ち解けるから、焦った」
タオルをどけて、ジークに助けて貰って体を起こす。
気まずそうな顔。整った顔が台無し。
「私。ルードルフ様と仲良くなってると思ってました。まだ、仲良しじゃ無いんですか?」
「…」
「そうですね。ルードルフ様の言う通り、ルードルフ様は卑怯者です」
「容赦ないな」
「だって、自分の事は言わないのに…でしょ?」
「そうだな。それがすまなかった」
「それだけ?」
じっとりと見つめる。
「後は、執拗かった事、か?」
「そうですね。考え過ぎて、頭ずくずくです」
頭は痛いのに、思わず笑ってしまう。
「ルードルフ様? 私、ルードルフ様がお迎えに来てくれた時には、仲良し出来るって思ってました。だから、仲良しして下さい」
ぺこりと頭を下げると、「まいったな」と呟いて、顔を半分隠したルードルフ様がいる。
「ルードルフ様の事。ルー様って呼んでいい?」
「なら、私もミシェと呼ばせてもらおう」
「はいっ!」
聞き出そうとされたのは迷惑の一言につきるけど、子供相手に謝る事が出来るのには花丸をあげましょう。
私は、ぽふんと枕がわりのクッションに転がる。
ルー様は、照れたのかはにかみさん。
えへへっと私も笑う。けして、でへへじゃ無いよ。だけどさ、仲良ししてって自分で言うのって恥ずかしものですね。
「ルー様。私、あの人達の事は、馬鹿だなって思ってる」
「そうか」
「そうです」
つい力が入った口調で言ったら、ルードルフ様改めルー様が、だよなって納得した顔で私を見た。
ルー様も、あの人達馬鹿だって思うでしょ? と、確認で聞いたら、やっぱり馬鹿だと思うとお返事。その馬鹿に対して、私が良い子過ぎて我慢しすぎてるって心配したんだって。毒吐きですっきりを予想してたって言うけど、毒吐き慣れてないと難しいみたいですよ。
今話も、お読み頂きありがとうございました。




