9、過去
「……」
訝しげに女性を見るエコー。対して、マチルダはフランクに返した。
「誰かと思ったらジュリアか。仕事帰り?」
「まあね。今日忙しくてさ、外食で済ませちゃおうと思って。……うちの社長、割と無茶振りしてくるからさあ」
ジュリアと呼ばれた女社員はわざとらしく伸びをした。
「紹介するわね。この人はジュリア・ハリアーさん。BWIWの社員でここの常連。私にとっては顔見知り以上、友達未満かな」
マチルダがエコーにそう紹介すると、彼女は人懐っこい顔になった。
「よろしく。ジュリア・ハリアーだ。君はマチルダの彼氏? ついにマチルダにも春が?!」
「違うわよ。ちょっと訳ありでね。付き人してる」
「ふーん……まあ、そういう事にしておこう」
ジュリアは品定めするようにエコーを眺める。
「顔は……悪くない。マチルダ、良いの捕まえたね」
「だから違うってば!」
そう茶化されて思わず、2人とも少し気まずくなった。そんな空気を切り替えるように、マチルダは先ほどの話題に戻った。
「あの親父、元々軍にいたの?」
「そう。戦車乗り。しかも第3王女クラリーチェ様麾下の直属部隊でエースだった。『ブラックバニアのミハエル・ヴィットマン』と言えば、あのテリー・アイランズの事だ」
やや興奮気味に語るジュリア。
「ミハエル・ヴィットマンって……第二次大戦の戦車エースじゃない。それに例えられるってそんな凄腕だったの?」
「凄腕どころじゃないよ。王国歴200年のハマン撤退戦ではT-72に乗って、攻め寄せる敵戦車をちぎっては投げちぎっては投げ……!」
「まるで見てきた様に語るじゃない」
マチルダにそう言われ、ジュリアは軽く笑みを浮かべる。
「見てきたもなにも……実際いたからね。その戦場に、私」
「「えっ?」」
思わぬ返答にマチルダとエコーの声が重なった。
「私、元学徒兵だから。あの頃は……まだ15、6だったかね」
ジュリアはしみじみと、懐かしそうに言った。
12年戦争では政府軍、反政府軍共に、未成年の少年少女兵を大量投入した過去がある。……つまり、あっさりカミングアウトしたが、彼女はその生き残りというわけだ。
「……まじで言ってるの?」
触れてはいけない所に触れてしまった感じがして、マチルダの声が低くなった。
対するジュリアは大して気にしていない様に、むしろ、どこか誇らしげに、あっけらかんとしながら続けた。
「マジマジ。ほんの数年前まで戦場にいたよ。内戦時代は私も何百人も敵兵を倒したもんだ」
「流石にそれは盛りすぎ」
「盛ってないって〜部隊でもちやほやされて、あの頃は最高だった〜」
口調的に、ジュリアのはどう考えても話を盛っているとしか思えなかったが。
そうしているうちに話題に上っていた親父、もといテリー・アイランズがカレーを持ってきた。
「なんだなんだ。人を面白芸人みたいに語って」
「親父、本当なの? 元戦車エースって」
「なに、昔の話さ。お待たせ、トーキョーカレー二つね」
テリーはそう、何でもないように言って、湯気が昇るカレーを二つ、マチルダとエコーの前に置いた。




