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世界から見捨てられた国で、元貴族令嬢は初めての恋をした  作者: 九十九BARRACUDA


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7、ハマン市

 市内に入ると、これまでいた郊外と違い、市街地特有の喧騒が響いていた。バスを降りて、街を歩いていると、エコーは興味深そうに視線を移ろわせていた。


「ハマンは初めて?」


 マチルダは若干挙動不審気味になっている彼を見ながら聞いた。


「今までダールエイ市の難民キャンプに居たから。……ただ、大昔に来たような気もする」


「ダールエイ市……ああ、南の方から来たのね……まさか、歩きで?」


 エコーは無言で、軽く足を叩いた。そういう事、と言いたいのだろう。マチルダは頭の中で地図を広げる。ダールエイ市はハマン市より南方にある街だ。ハマン市からはそれなりに距離がある。


 彼はその距離を歩いて一人旅してきたという事だ。悪意ある人間に遭遇せず、怪我もなく踏破したのは幸運と言って良いだろう。


「さっき地雷原にいた事といい、貴方、ずいぶん幸運持ちなのね」


「さっきも言ったけど、なんとなく分かるんだよ。危ない奴や場所」


「ぽややんとしてる割に、観察力が高いんだ。あなた」


 マチルダは笑みを浮かべた。


 少し歩くと、街の中心から少し離れた位置に、一棟のビルが建っているのが見えた。現在のブラックバニアには珍しい廃墟ではない新築ピカピカのビルだった。


「あれは?」


 早速、エコーが聞いてくる。


「あれ? このハマン市の新名物、ダラ・タワー」


「ダラ・タワー?」


「内戦後に急速に成長した企業、ブラックウィングアイアンウォーズ、通称BWIWの本社ビルよ」


 やや、複雑そうに笑みを浮かべつつ、マチルダはダラ・タワーを眺めた。


「内戦の英雄の第9王子が建てた会社よ。初めは内戦終結で余った武器や車両を第三世界に輸出したり、傭兵まがいの事をしてたけど、時流に乗って1年もせずに自社ビル持てるまでになった」


「ふーん……」


「凄いよね。社長の第9王子様、まだ26だって。私と大して歳は変わらないのにさ。こちとら毎日日雇い仕事でヒイヒイ言いながら飯食ってるのに、向こうは今やハマン市を企業城下町にしちゃった。……ほらあのロゴがBWIWの『配下』ってのを示す目印だよ」


 横の車道を1台のトラックが走っていく。日本製の車体の荷台にはアスタリスク状に並べられた鳥の羽の紋が3つ。計18枚の羽と『B.W.I.W』の文字。


 よく見ると、通りに出ている店の看板にも、6枚羽×3つのロゴを掲げている所がいくつかあった。


「ま、今のハマン市からすると神様みたいなもんだよ。あれがあるから、ハマンには金や物が集まってくる。今や王都より賑わってるんじゃない?」


 マチルダはおどけながら、「ありがたや〜」と言いながらダラ・タワーを拝んだ。


「……なんで、ハマン・タワーじゃなくてダラ・タワーって言うんだい?」


 エコーの疑問にマチルダは少し気まずそうに言った。


「……あの建ってる場所さ。内戦時代にハマンが戦場になった時に激戦地になった場所なんだよ。元はダラ通りっていう細い道。そこで反政府軍の兵士が何千人も死んだらしい」


「……」


「鎮魂と、王党派の勝利宣言の象徴らしいよ。第9王子は当然、王党派の人だしね」


「……鎮魂と、勝利宣言。同じ建物なのに二つの意味がある」


「効率的なんだか、悪趣味なんだか……まあ、BWIWの事はいいわ。とりあえず夕食にしましょう。お腹ペコペコよ。昼飯は全部食べられちゃったし」


「……ごめん」


 少し気まずそうにするエコー。それを見て、マチルダは吹き出した。


「冗談よ! ちょっと困らせたかっただけ。こちとら地獄の内戦時代を生き延びた女よ。一食二食抜いたくらいじゃピンピンしてるわ」


 そう言ってマチルダはエコーの前に立つ。


「......ついてきて。美味いカレー屋がある」

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