3、装甲車の上に
「……よし、3つ目。Type72A!」
マチルダは順調に地雷を撤去している。
これで3つ目。しばらくは懐の心配をしなくてよさそうだ。思わず笑みを浮かべる。
「さて、あと少し欲張るか、余裕をもって撤収するか……」
少し考えた。1個地雷を見つければ、5000ブラックの追加報酬がでる。
ブラックというのはこの国の通貨だ。レートは160ブラックで約1ドル。日本円なら1ブラックは約1 円だ。
日当は20000ブラック。単純計算であと少し頑張れば報酬が倍になる計算だ。とはいえ、相手は地雷。ミスすれば当然、代償は大きい。
ある意味、この仕事は博打だ。引き際を誤れば破滅が待っている。
「決めた!」
あと一つ見つける。今日はそれで退く。あまり深追いしすぎると、それだけ焦りと欲望で恐怖も緊張も減る。
地雷撤去で一番必要なのは恐怖心と緊張感だ。何度もこの仕事を受けて、手も足も失わずに『勝ち逃げ』しつづけた彼女の持論だった。
復興の為、また失業者対策の公共事業と言えば聞こえは良いが、これは実態はファンタジー小説に出てくる冒険者の様なものだ、とマチルダは思っている。一攫千金を成した者の下には無数の死体が埋まっている。その一つになるのは彼女もごめんだった。
「こちらは手つかずね」
マチルダはまだT-55戦車を改造した地雷撤去車が入っていない草原を一瞥する。こちらでは、ローラーに踏み潰されるのを免れた無数の名も無き花達が咲きみだれていた。かつてこの地で行われた凄惨な戦闘の事など忘れたように。
「…………」
マチルダは一層慎重に、臆病に、だが大胆に金属探知機で地面の下に潜んだ悪意を探し始めた。
***
どれくらいたっただろう。数分が数時間に感じられる緊張感だ。
いくつか金属反応はあったが全てハズレ。錆びた銃弾、薬莢、砲弾の破片。そんなものばかりで、本命の地雷はない。
「……?」
ふと、地面から前方に視線を向けると、視界の端に妙なものを見つけた。人だった。
本日の仕事で雇われた人間ではない。金属探知機も、不意の起爆に対する申し訳程度の防御用のプロテクターもつけていない。
1人の男がぼんやりと、破壊されたBMP-1歩兵戦闘車の黒焦げの残骸の上で黄昏ていた。
「なんだ……? あいつ」
そう、思わず第一印象がそのまま口に出た。
地雷原にはあまりにも似つかわしくない光景があった。
「…………綺麗」
似つかわしく無さすぎて、思わず、そんな言葉が口から出た。まったく変な話だった。
仮に、彼が明らかに狂気に陥った人間であれば、彼女もすぐに目線を離して見なかった事にしただろう。
実際、地獄の内戦で精神を患った人間など、この国には掃いて捨てるほどいる。地雷原でぼんやりしてる人間など、珍しいが、まったくいないわけではない。
だが、その構図。そして男の容姿はあまりにも完璧だった。花畑の中にある破壊された装甲車。その上に座る物憂げな青年。偶然だったが、不気味なまでに美しかった。
――きっと、訳ありの問題ある人間に違いない。声をかけるべきではない。
10歳で家族と生き別れになり、以来天涯孤独で生きてきた。そのおよそ11年間の経験が、彼に関わってはいけない! と警告を発していた。
だが、それ以上に、マチルダの中ではムクムクと好奇心が膨らんでいた。
「……そこのあんたー!そんな所にいると危ないぞ!!」
口が勝手に話した。警戒心より好奇心が勝ったのだ。
――この一言が、彼女が、恐らくこれまでの人生で一番の面倒事に巻き込まれるきっかけになったのは、言うまでもない。




