28、3日目の朝
翌朝。王国歴211年3月24日。
エコーは引き続き、一昨日と同じ安宿に泊まっている。マチルダは昨日彼とした待ち合わせの時間に宿の前に来ていた。今日は日雇い労働を休みにして彼の服を買いに行く予定にしているのだ。
「お待たせ」
「おお、来たわね。朝食は?」
「昨日買ったもの食べた!」
「よし!」
彼はニコニコと笑っている。よほど美味しかったのだろうか。昨日別れる前に今日の朝食も買わせたのだ。毎朝、マチルダがホットドッグを作っていくわけにもいかないからだ。
「いつまでも私に依存してるわけにもいかないからね。とりあえずハマンで生きていけるようにはなりなさい。今日は服屋の場所を教えるわ。ついてきなさい! エコー二等兵!」
「おー!」
相変わらずの人懐っこい野良猫の様な無害そうな声で、エコーはマチルダのジョークに返した。
「あ……」
「どうしたの?」
彼は何か気づいた様に歩き出そうとしたマチルダを呼び止めた。
「二等兵より伍長の方が良い!」
「生意気にも2階級特進どころじゃない昇進要求してきた!?」
「伍長! なんかその方がしっくりくる!」
「なんで伍長にこだわりがあるかは分からないけど、まあ良いわ! ついてきなさい。エコー二等兵改めエコー伍長!」
「おー!」
エコーはマチルダより半歩遅れて付いてくる。
「まるで子猫ね」
なんとなく滑稽になって、マチルダは含み笑いした。昨日のジュリアの煽りを思い出す。そして思い浮かんだ『彼氏』という言葉を頭を振ってかき消す。これでは恋人というか、親猫と子猫だ。
そんな子猫めいたエコーととりとめのない話をしながら、二人は歩く。途中、平和祈念公園の前を通ると、中で何人かの作業員がなにやら作業をしていた。腕には三つ六枚羽の見慣れたBWIWの腕章。
昨日、まさかのエンカウントをしたシマエナガの君、もといスカイ社長の顔を思い出した。
エコーの事を調べてくれるらしいが、本気なのか、社長なりの社交辞令だったのか、マチルダはまだわかりかねていた。
――まあ、社交辞令って事にしとくか。何か分かればそれでよし。音沙汰無しでも無駄に落胆しなくて良いし。
そんな風に考えていると、エコーが声をかけてきた。
「あの人達、何してるんだろ?」
「多分お祭りの準備ね」
「祭り?」
「ほら、あれ」
マチルダは道脇の商店の壁に貼られた宣伝ポスターを指した。そこには平和祈念公園で31日に祭りが催される事が書かれていた。出店も多数出るらしい。
「3月31日で内戦終結からちょうど1年目だから。それにあわせて終戦記念祭やるの。王都ではがっつり軍事パレードやるみたいだけど、ハマンじゃゆったりとした祭りやるみたいね」
「ふーん……」
「……3月31日」
「どうしたの?」
マチルダのつぶやきに、エコーは疑問の声を上げた。
「いや、この日に終戦したの、皮肉だなって」
「何で? 31日になんかあったの?」
「……私が一人ぼっちになった日だからさ」
マチルダはため息を一つついて、静かに言葉を続けた。




