27、正体
「ごちそうさまでした」
「まいどありー!」
カレーを食べたマチルダ達は、雪風屋を後にした。今回はエコーも甘口だったおかげで問題なく完食出来た。入口を見ると、すでに混み始めた辺りで、何人かが列に並んでいた。
「ギリギリピークタイムを避けられたわね。おかげでゆっくり食べられたわ」
「うん。シマエナガさんとも話せたし!」
エコーはシマエナガの君と自分の事について覚えている事を話していた。シマエナガの君の方は、彼の話をよく聞いてくれて、可能な限り調査すると約束してくれた。
「親切な人だったね。シマエナガさん。俺の事、調べてくれるらしいし!」
「うーん……」
素直に嬉しそうなエコーに対し、マチルダは浮かない顔だ。
「どうしたの?」
「いや……都合良すぎないか? と思って」
「……?」
よく分からない、という顔をしているエコーに、マチルダは続ける。
「シマエナガの君さん、多分BWIWの偉い人よ。そんな人がたまたま会った人にここまで親切にしてくれるの。あまりにも都合良すぎない?」
「……」
「疑うわけじゃないけど、何かBWIWにとって利益にでもなるのかしら? エコーの過去が……」
「……まずかったかな?頼ったの」
「まずいってわけじゃないけど、少し気になったから」
単なる彼の親切心と信じるには、マチルダはこの国の闇を見過ぎていた。
「……それに、シマエナガの君。どっかで見た事ある様な気がするのよね」
そんな風に思いながら通りかかったのは、電気店の前だった。例のごとく、入口にはBWIWの三つ六枚羽の紋章。ショーケースにはテレビが展示され、ニュースが流れていた。
戦後直後で、まだ庶民の娯楽といえばラジオが中心で、テレビは貴重品である。ショーケースの前では何人かが足を止めて、映像を見ていた。
「……次のニュースです。アメリカで開催される軍需品の博覧会に、BWIWの軍需産業部門が出品を検討している事を発表しました」
マチルダはニュースを流し見する。
「……ほんの一年前まで内戦してたのに、BWIWは本当に儲かってるわね」
そのまま通り過ぎようとした所で、マチルダは足を止めた。
「……どうしたの?」
訝しげに尋ねるエコーに、マチルダは画面を指さした。
「あれ……」
「BWIWは本博覧会に新型偵察ドローンを出品する予定で、本日午前、BWIW社長、スカイ・キャリアベース氏は記者会見を行いました」
淡々とキャスターがニュースを読み上げる中、映像に映っていたのはBWIW社長の記者会見の映像である。そこに映っていたスカイ社長は、白い長い髪に小柄な身体。名前の通り空色の瞳をした、中性的な男性だった。
「……あれ? この人、シマエナガさん……?」
「……こんな事って、ある?」
エコーは息を飲んでいる。マチルダも唖然としていた。
映像の中のスカイは、情熱的にブラックバニア復興の為の外貨獲得と自社の技術力を強調していた。先ほどまで話していた声優を思わせる美声そのままだった。
「……」
「……」
二人とも黙っていた。どちらが先に口を開くか、双方相手の出方を待っている様だった。
「……エコー、私達、思ってたよりヤバい人に目をつけられたかもね」
辛うじてマチルダは、それだけ言った。
「BWIW社はブラックバニア有数の大企業として、納税額は国家財源の3割に達しており、元老院ではBWIW社のさらなる影響力拡大を懸念する声も上がっています……」
キャスターは淡々とニュースを読み上げていた。
***
同時刻
「いやぁ、美味かったな。ハマン一美味いカレー屋というのも過言じゃなかった」
シマエナガの君こと、BWIW社長、スカイ・キャリアベースは店から出た後、満足げに言った。
「気に入ってもらえた様で何よりです」
ジュリアは心酔する元666大隊隊長にして、社長が喜ぶ姿をうっとりと見つめる。
「うむ。午前中の記者会見の気疲れが吹っ飛んだ」
辛さで出た汗をハンカチで拭う。白いサラサラの髪が揺れた。
「それより、隊長……いえ社長。あの男ですが……」
「……ああ。それよ」
それまでの軽い雰囲気から一転。二人は真剣な雰囲気になった。
「あの男も我々の求める『被験体』かもしれん。タイプは分からんが……」
「研究施設と記憶喪失。本人の証言的には、それっぽい感じがビンビンします」
「……確証が欲しいな。しばらく泳がせて諜報部に探らせよう。どっちにしろ俺はしばらくアメリカに行かなきゃいかんし……」
「留守の間、調べておきますよ。うちの諜報部は優秀ですから。社長はアメリカ出張、楽しんできてください」
「……ただの観光ならもう少し気楽なんだがな」
そう軽口を言いつつ、スカイのサングラスの奥の空色の瞳は、小鳥というより猛禽を思わせるものになっていた。
「……なんとなく、今回も『本物』っぽい気がするな。可能なら生かして確保したい。W-2は制御不能でやむなく射殺したが……」
スカイはあっさりと物騒な事を言った。ジュリアは続けた。
「内戦で培った勘、ですか?」
「……いや」
スカイは一呼吸置いて、続けた。
「俺の中の邪神が、そう言っている。あれは『本物』だって」
強い風が吹いた。スカイの白い髪がはためく。日はとうに暮れて、辺りは薄暗くなっていた。




