24、シマエナガの君
「……ジュリア。ここが噂のハマン一美味いカレー屋なのか?」
「そうそう。きっと気に入ってもらえると思いますよ?」
そう言いながら入ってきたのはジュリアと、もう一人、サングラスをかけた知らない男だった。
男の方はエコーと対極的な雲の様な白い長い髪をはためかせつつ、サングラスごしに瞳を興味深そうに動かして店内を見回しているのがうかがえた。頭からは二本のアホ毛がぴょこぴょこと頭の動きにあわせて揺れている。
身長はかなり小柄で、一見、中高生くらいにも見える。だが、佇まいは彼が相応に経験を積んだ大人なのだと主張している。
そしてなにより目を引くのはその美貌だった。
サングラスごしにも分かる、中性的……というより、一見美少女にすら見える整った容姿。実際、彼が言葉を発するまで、マチルダ自身も可愛らしい少女かと思ったほどだ。
「いらっしゃいま……なぜ、あなたがこんな所に……?」
テリーは彼を一目見た瞬間、困惑の色を強くした。白髪の美形男は、口の前で人差し指を立てた。
「……ちょっとしたお忍び、さ。あんまり騒がないでくれるとありがたい。空いてる席、座って良いかな?」
「ど、どうぞ!」
あの豪放磊落なテリーがいささか動揺している。
珍しい事もあるものだ。とマチルダが思っていると、ジュリアと美形男は、ちょうど空いていたマチルダ達の隣の席に座った。
「お、マチルダと彼氏くんじゃん! 隣、失礼するよ」
ジュリアはマチルダに気づくと、いつもの陽気な口調で席に座った。美形男もニコニコしながらジュリアの対面に座った。
「彼氏くんじゃないって!」
「照れてら〜。2回も一緒に食事にきてそれは無理あるって。まぁ、そういう事にしておこう!」
ニヤつきつつ、ジュリアはエコーを見る。
「彼氏くんもマチルダの事、好きだよね?」
「うん。好き!」
「ちょっとぉ!?」
あっさりと言うエコーに、マチルダは素っ頓狂な声を出した。マチルダ自身、彼を憎からず思っていたが、本人から直球で、かつそんなに軽く言われたら焦ってしまう。
「Likeでしょ!? LOVEじゃなくて!?」
「うーん……」
エコーは少し迷いつつ、すぐに口を開いた。
「よく分からないや……でも、マチルダと一緒にいると安心する!」
「〜っ!」
なんと返して良いかわからず、マチルダは思わず顔を赤らめた。
――……エコーは少し、純粋過ぎる……!
今更ながら、そんな事をマチルダは思った。
「おー、初々しいカップルじゃないか」
ハハハ! と気持ちのいい笑いをしているのは、ジュリアが連れてきた白髪の美形男である。
「……ジュリア、この人は? あなたの知り合い?」
マチルダはそう言って話題をそらした。実際に気にもなっていた。
「知り合いも何も……私の大切な人、かな?」
「なによ。そういうジュリアも色っぽい話持ってるじゃない!」
「うーん……ある意味、恋人以上の関係、かなぁ?」
「ジュリアにそう言ってもらえるとは、光栄だな」
意味深に言うジュリア。白髪の美形男は満足そうに言った。
「自己紹介が遅くなった。ジュリアの大切な人、だ。皆は俺を『シマエナガの君』なんて呼ぶな。君もそう呼んで良いぞ?」
そんな胡散臭い自己紹介をした彼を、マチルダはますます訝しげに眺めた。
「なんか……独特なテンションの人ね」
「今日、ハマン一美味いカレー屋を紹介する、って言ったらテンション上がっちゃって……普段はもう少し冷静な人なんだが」
ジュリアはやれやれ、といった具合に彼を見ている。とはいえ、その視線には熱っぽいものが混じっている。同時に、マチルダにはなんとなく、それがやや危うさを含んだものにも見えた。




