23、フォロー
「親父〜やってる?」
「おお、あんたか。いつも忙しくなる前に来るな」
「待たされるのヤダもん」
ハマンに帰ってきた二人は、早速雪風屋までやってきた。いつも通り、日本風(?)の店内には香ばしいスパイスの香りが漂っている。厨房ではテリーがこれからのピークタイムを前に、一息ついていた。嵐の前の静けさ、というやつだろう。これから厨房は忙しくなるはずだ。
「トーキョーカレー二つね。一つは甘口」
甘口を頼んでくれた事に、エコーは満面の笑みになった。
「なんでそこまで嬉しそうに出来るのよ」
「覚えててくれたんだ、って」
「そりゃ、2日連続で辛味が苦手な相手に辛口カレー食べさせるほど、こっちも鬼畜じゃないって……それに、今日の料金、自分の分は自分持ちよ?」
「もちろん分かってるって」
エコーはどこか誇らしげに胸を張った。食事代を自分で払うことにここまで誇らしそうにする人間も珍しい。
「トーキョー二つ、片方は甘口ね!まいど、少し待っててくれ」
注文を聞いたテリーは愛想よく言うと、二人を少し見つめた。
「どうした? 今日は。二人ともだいぶ疲れているようだが」
「あ、分かった? 今日の現場、きつくてさ」
マチルダは疲労をごまかすように微笑んで、今日受けた依頼のことを話した。
「バタナの森で破壊されたT-55戦車の撤去。これがなかなか難儀な仕事でさ」
「バタナ……バタナ森林?」
テリーは念を押すように聞いた。
「ええ、そのバタナだけど。何か?」
「いや、現役時代にそこで戦った事があってね。懐かしくなった。王国歴200年のハマン撤退戦の時だったか……」
テリーは店の一角に飾られた、戦車の前で戦友たちと撮ったと思われる写真を指した。以前、ジュリアから、テリーが政府軍で戦車乗りとして戦っていた事を教えられたのを、マチルダは思い出した。
「まさかの当事者」
「戦車撤去とか言っていたが、どんな戦車だった?」
興味が湧いたのか、テリーはマチルダに尋ねる。
「えーっと、森の真ん中らへんの小道のど真ん中で大破したT-55で……砲弾が貫通した跡があって……砲塔も吹っ飛んでた」
「そりゃ……マイケルのだな」
テリーは、少し声のトーンを落として言った。
「……え」
エコーは言葉を失った。
「俺の所属してたクラリーチェ王女麾下の第8強襲機甲師団の、若い、見込みあるやつだったよ。無口だが真面目な奴でな……後退中に横から敵戦車に不意打ちで一発食らって、そのまま……」
テリーはそれ以上は語らなかった。マイケルなる人物がその時どうなったかは、彼の口調と表情を見れば一目瞭然だった。
「……」
ふと、マチルダはあの戦車の上に置かれた花束を思い出した。あの花束も、もしかしたら彼を偲ぶ誰かが置いたのかもしれない。そう思うと、どこかやりきれない気持ちになる。エコーも同様だったのか、表情は曇っている。
「……だが」
そんな二人を見たテリーは、言葉を選ぶように続けた。
「あいつにとっての戦争がこれで終わったのかもな……」
「え……?」
「どこかでもう戦争は終わったんだと、残った人間もあいつ自身もケジメはつけなきゃいかん。それに彼の墓自体はあるんだ。誰かが、いずれはやらなきゃいけなかったんだ」
二人がこのままだと、変に自分を責めかねないと判断しての言葉だった。だが、それは二人の心を少しだけ軽くした。
「マイケルも喜んでる……かどうかは分からんが、あいつの性格なら多分責めてはいないと思うぞ」
テリーはそう言うと、「さて、立ち話してる暇はねぇな。注文作んねぇと」と言って去っていった。
「……ああ見えて、フォローしてくれたのかしら?」
「多分……そう」
「……ま、今更くよくよしても仕方ないか」
マチルダは少し沈んだ気持ちを消すように、軽く頭を振った。
「気を取り直して、カレー来たら食べましょうか。疲れた時は栄養入れないとね」
彼女がそう言った直後だった。また、カレー屋のドアが開いた。




