21、木陰
「お疲れ様。よく頑張ったわね」
昼休憩の時間。マチルダは設営された簡易給水所で水を飲んでいたエコーに声をかけた。
「結構、疲れたね」
エコーは汗を拭いながら言った。まだ3月でこれだ。これが夏の時期に出された依頼でなくて良かったと今更ながら思った。
「早速肉体労働の洗礼を受けたわね……けど、このペースなら今日中には終わりそうね」
マチルダは戦車を見る。すでに脱落した砲塔部分の発掘作業は終わり、後は車体部分のみだった。作業員達も休憩時間ということで各々昼食を広げ、休憩をとっていた。
「私たちもご飯にしましょ」
「スシ!」
「そう、お待ちかねのブラックバニアスシ。そこで食べよう」
マチルダは木陰を指した。ちょうどお誂向きに伐採された木の切り株がいくつかある。二人はそれにベンチのように腰掛けた。
「はい。これがあなたの分」
マチルダはラップにくるまれたブラックバニアスシをバッグから出して、エコーに与えた。
「わぁ……」
目を輝かせるエコー。マチルダは相変わらず野良猫の様な印象を受けた。
「おいしい!」
包みを開いて早速頬張るエコー。はじめてのスシで酸っぱさは大丈夫かと思ったが、辛さと違って、酸味への耐性はあるようだ。
「気に入った?」
「気に入った!」
「良かった」
笑みを浮かべるエコーに、マチルダは思わず頬が緩む。
一見クール系の外見に似合わず、魚を美味そうに食べていることも相まって、本当に人懐っこい猫の様な男である。
「……」
しばらくスシを美味い美味いと言いながら食べていたエコーだったが、やがて少し浮かない顔になってきた。
「どうしたの?」
「……あの戦車、本当にどけて良いのかな、と思って」
半分ほど掘り起こされた戦車を見ながら、エコーはつぶやいた。
「あのおじさんの話、気にしてるの?」
うなずくエコー。
あの元反政府軍戦車兵だったというおじさんの言葉を思い出す。
――この戦車、相当ひどくやられてる。砲弾は貫通。弾薬庫誘爆痕。砲塔脱落。おそらく、中で誰か死んでるよ
――多分、この戦車に乗っていたやつの戦友とか、上官とか、部下とかが手向けたんじゃねぇかな……
「……でも、撤去しなきゃ、道、通れないよ?」
「うん……でも……」
そうマチルダも言ったものの、彼女もまだ内心では割り切れていなかった。
あの花束はおそらく、あの戦車に乗っていた誰かに向けたものだろう。障害物であると共に、あれは誰かにとっては墓標なのだ。
「結局さ、物語みたいな綺麗な正解があることなんてそうそう無いんだよ。とくにこの国みたいなところじゃ」
マチルダは自分に言い聞かせるように言った。
「あれが誰かの墓標であることと、道を塞いでいること、溶かせば資源に生まれ変わる事は全部正しいことで……どれかが間違ってるってことはない」
「うん」
「生きてる以上、選択はし続けなきゃいけない。それが痛みを伴うものであってもね」
マチルダはそこまで言って、自分に対して軽く笑った。
「ま、偉そうなこと言ったけど、私も割り切れないけどね」
「マチルダも?」
少し意外そうな顔になるエコー。
「私だってまだ21年しか生きてないもん。そんなかっこいいこと言えるほど人生経験積んでないって」
なんとなく照れくさくなって、マチルダは言った。
「食べたら少し楽にして少しでも体力を回復させよう。午後からも重労働だし」
「うん」
ブラックバニアスシを食べ終えた二人は、木陰でくつろぎながら、他愛のない話に花を咲かせた。




