20、戦車
マイクロバスに揺られることおよそ30分。撤去作業員を乗せた車はバタナ森林に到着した。
作業員はマチルダとエコーを含めて8名、全員斡旋所で支給された作業着に着替えていた。
「つなぎってなんか変な感覚あるね……なんかごわごわする」
「まぁ、なれるまでは独特よね。上下つながった服って。でも似合ってるわ」
「世辞は良いよ」
服装に慣れていないエコーを、マチルダは苦笑しつつ眺めた。
現地につくと、すでにクレーン車や回収した戦車を載せる大型トレーラーなどの他の作業車は到着しており、すぐに作業を開始できそうだった。
「戦車を持ち上げてトラックに載せる仕上げ作業は我々が行います。皆さんには、その前段階の作業を担当してもらいます。内部の不発弾はすでに撤去済です」
雇い主であるスクラップ業者の社員がそう説明した。
「早速ですが、状態を見てもらいます」
彼に連れられ、一行は問題の戦車の前に歩いてきた。
戦車は破壊されて相当な年月放置されていたのか、至るところがサビだらけだった。車体部分には砲弾が貫通した跡か、大穴が開いており、砲塔は吹き飛んだのか、近くに転がっている。
そしてなにより、森林の未舗装の道という不安定な足場に重い戦車がずっと載っていたせいか、自重で車体が半分、土の中に埋まっていた。
「……こいつは難敵になりそうね」
思わずマチルダはそうつぶやいた。ここまで放置されていたのも頷ける。
「作業としては、まずスコップで車体の周囲を掘り起こします。その後、ワイヤーを用いてクレーン車で引き上げ。トレーラーに乗せて作業完了です。皆さんには最初の周囲の土を掘り起こす作業をしていただきたい。その後はワイヤー取り付けの手伝い。そこから先は我々が行います」
作業員の何人かは思いのほか重労働になりそうで、辟易しているものもいた。
「早く作業が終われば定時でなくともその場で解散出来ます。もちろん、日当は額面通り払いましょう。協力をお願いします」
スクラップ業者の社員に言われて、作業員達はスコップを手に各々の配置について作業を開始した。もちろん、マチルダとエコーもそれに混じる。
「ねぇ、マチルダ、これ……」
作業を開始してすぐに、エコーが何かを見つけた。
「なに? なんかヤバそうなもの掘り当てた? 地雷?」
マチルダはエコーに慎重に近づく。
「この辺りの地雷原は軒並み撤去済のはずだけど」
「いや、そんな感じじゃない」
「油断しないでよ。PFM-1空中散布地雷みたいなのは一見、いかにも地雷です、みたいな形状はしてない。下手に手に持ったら、ドカン! よ」
「そんなもんじゃないって」
マチルダがエコーの指さした先を慎重に見る。するとそこにあったのは怪しい物体ではなく、花束だった。それが車体の上に乗っかっている。まだ花弁はみずみずしく、最近置かれた事が見て取れた。
「花束……?」
マチルダは訝しげにそれを取った。なんの変哲もないただの花束だ。
困惑していると、別の作業員が声をかけてきた。初老のいかにも人生経験をつんでそうなおじいさんだ。
「そりゃ、手向けの花かもなぁ」
「手向け?」
エコーがこれまた疑問を口にする。
「この戦車、相当ひどくやられてる。砲弾は貫通。弾薬庫誘爆痕。砲塔脱落。おそらく、中で誰か死んでるよ」
「え……」
思わずエコーは絶句した。そんな曰く付きの車両だとは思わなかったのだろう。
「ここまでやられていると、下手すると乗ってた全員死んだかもしれん」
「それは……」
「俺は元々反政府軍で戦車に乗ってたが、だから分かる。こうなったらもう助からん」
マチルダもなんと言えばいいかわからず、口をとじる。
「多分、この戦車に乗っていたやつの戦友とか、上官とか、部下とかが手向けたんじゃねぇかな……」
「「……」」
マチルダもエコーも何も言えなかった。おじいさんは「政府軍か反政府軍か分からんが、墓荒らしみたいな真似します。勘弁してくだせぇ」と手を合わせると、そのまま作業に戻っていった。
「……どうしよう。これ」
「その辺に捨てるのもあれだし、道の脇に置いておきましょうか……」
そう言って、踏まれないところに花束を置き、二人も作業に戻っていったが、気分は晴れなかった。午前中、二人とも黙々と作業を続けた。




