18、初仕事
「何か良い仕事ある……?」
エコーはやる気が出たのか、自分で役人に聞いた。
「オススメなら、これとかどうでしょうか?」
役人はファイルから一枚の求人を出した。
「なになに……?」
マチルダも求人を読みこむ。さすがに初心者のエコー一人に読ませるのは酷だ。
「破壊戦車撤去の手伝い 危険度低 日当9000ブラック」
求人の見出しはこうだった。典型的な内戦期に破壊された瓦礫の撤去仕事だ。斡旋所でもよく出る依頼だった。
国中でやった内戦で破壊された戦車や車両は膨大な数に及ぶ。一部は回収されているが、大半は放置され、朽ちるに任されているのが現状だ。昨日の平和祈念公園でモニュメントになっていた装甲車など、本当に一例でしかない。
戦車1台に使われている素材は膨大だ。
銅、アルミ、ゴム、鉛、各種合金。そして大量の鉄。溶かして再利用すれば一つだって無駄にならない。戦後ブラックバニアにとってはあるか分からない埋蔵金伝説よりも、はるかに現実的な宝の山だ。だからこういう依頼はスクラップ業者がよく出す。今回も依頼主はハマンのスクラップ業者だった。
続いて詳細を読む。
「ハマン近郊のバタナ森林の道に、内戦期に破壊されたT-55戦車が放置されている。これの撤去作業の手伝い。本車両はこの道を塞ぐ障害物になっており、この道が開通すれば、より効率的な物資輸送も可能になる。ランク指定無し。9時から18時。1時間休憩あり」
マチルダは下部に書かれた備考欄に目を移す。重要情報はここに書いてあるのだ。
・作業具貸与
・周辺地域の地雷は撤去済
・周辺地域に害獣は確認出来ず
・昼食不支給。飲料水支給。
・現地までは復興局の車で送迎
だいたいこんな事が書いてあった。環境は悪くない。昼食不支給も別に珍しくない。
「ま、良いんじゃない? 待遇や給料も相場並み。なにより現地まで送ってくれるのが良いわ」
「これにすべき……?」
エコーは特に可も不可もないという顔で、マチルダを見ている。
「戦車撤去か……中に不発弾があったら怖いけど」
少し心配しつつ、エコーを見る。どうやらやる気になった様で、瞳は燃えている。
「……地雷も危険生物もいないし、良いと思うわ。道が開通すれば人助けにもなるし」
「人助け……!」
どうやら完全にやる気になった様だ。マチルダは頷くと、役人に言う。
「これにするわ。受けるのは彼と私の二人」
「わかりました。では、マチルダさんにエコーさん、二人で受注という事で。しばらく、その辺りの分かる場所にいてください。この仕事を受ける連中、まとめてマイクロバスで送りますので」
「契約、成立」
満足そうなエコーを見つつ、マチルダは笑みを浮かべた。やる気になってくれた様でなによりである。
「と、まあ、こんな感じにハマンでは仕事を受けられる。BWIWの所もだいたい同じ流れよ。金が欲しけりゃ自分でここに来て仕事しなさい」
「一人で……? マチルダは?」
「私がついていかなくてもなんとかなるわよ。多少危険な仕事や割に合わない仕事はあるけど、やばい依頼やらされる心配や報酬踏み倒しが起きる事は無いから」
「いや、そうじゃなくて……」
エコーは一瞬言葉に詰まりつつ、続ける。
「一人だと寂しいなって」
「一人じゃ寂しいって、ガキかあんたは」
予想外の言葉に、マチルダは反射的に返した。口の悪さは今に始まった事ではない。
「……」
まずい事言ったかと、少し気まずそうにするエコー。マチルダはそれを見て、言葉を続けた。
「……ま、今まで一人だったわけだし、気持ちは分かる。始めのうちは私が仕事受ける時は付き合ってあげても良いわよ」
「……!」
露骨に嬉しそうになるエコー。本当に野良猫みたいだと思った。
「毎回は無理よ。こっちも予定があるんだから」
そう言いつつ、マチルダはなんとなく、満更でも無かった。自分が誰かに必要とされることは、意外と新鮮な喜びであった。




