17、六色
「では、不肖ながら私が説明させていただきます。まずはこれを」
役人は書類の役所欄に何かを書き込んだ後、一枚のカードを差し出した。
「これは?」
「あなたの登録者カードです。これがあればここで仕事を受ける事が出来ます」
「名前書いただけなのに登録出来たの?」
エコーは改めて疑問を口にする。普通、役所の書類といえばもっとしっかりした手続きを想像したのだろう。
「さっきも言った通り、今日日、自分の身分を保証出来る人なんてほとんどいません。役所としては心苦しいですが……審査はザルです。食うに困って犯罪に走られる方が困るので」
「自分でザルっていうのか……」
「事実ですから。現場の都合ですよ。現場の」
マチルダの苦笑に役人は頭を掻きながら言った。
「それで、このカード、色がついてるでしょう? これはブラック級。これは要するにあなたの信頼度を示しています」
「信頼度?」
エコーはカードを眺めながら聞く。
「要するに、報酬だけ持ってバックレないか。備品を横流ししたりしないか。雇い主や他の労働者とトラブルをおこさないか、仕事は正確か。そんな他人から見た評価を示しています。要は「こいつにならこのくらいの仕事を任せても良いだろう」という指標みたいなものです。一部の仕事は高ランクでないと受注出来ないものもあります。例えば、これとか」
役人は例として、労働受注票の見本を見せた。
そこには「害獣駆除 危険度高 報酬日当3万ブラック。駆除害獣一頭につき追加報酬。熊3万ブラック。毒蛇2万ブラック。イノシシ1万ブラック。アライグマ5000ブラック。AK-47および弾薬貸与。要射撃経験。要レッドランク以上。元兵士歓迎」と書かれている。
「この要レッドランクってのが必要なランク?」
「そう。理解が早くて助かります」
役人はラミネート張りの書類を見せた。それには各カードの見本がプリントされている。
「最初は言葉は悪いですが、信頼度0のブラック級。そこから仕事をこなして信頼と評価を稼いでいくことで少しずつランクが上がっていきます。黒、白、黄色、赤、青、紫の順です。日本の冠位十二階という制度からインスピレーションをえました」
「色で信頼されているかが分かる、と」
「ランクによっては報酬に色がつく時もあります。高いに越した事はありません」
エコーは「黒、白、黄色、赤、青、紫」と口の中で反芻している。
「ちなみに私はブルーランクよ。大半の仕事は受けられるわ」
マチルダはさらりと言った。「凄い」と小声で言って、少し驚いた様なエコーを尻目に役人は続ける。
「もっとも問題行動が確認された場合、降格される事もあります。……ま、悪い事はしてはいけませんって事です」
「仕事を受けたい場合は?」
役人は机のラックから、ファイルを取り出した。
「ここに現在求人中の依頼が載っています。安全なものからハイリスクハイリターンなものまで。働き手の希望する仕事を探して、我々が斡旋処理し、あとは自身で現地まで行ってもらうなり、働き手が多いようなら雇い主の所までバスで送るなりします。そこで一日働き、雇い主から給料をもらって現地解散が基本です。基本的に早いもの勝ちなので割の良い仕事はすぐに受注されてしまいますね」
「だから早く来る必要があるの。楽で稼げる仕事なんて皆やりたがるからさ」
マチルダはそう補足した。
「報酬を踏み倒したり、仕事内容に明らかに齟齬がある悪質な業者はブラックリストに入ってるから、ここかBWIWの斡旋所は、とりあえず信頼して良いわ」
「あ、そうそう。BWIWさん。そっちの斡旋所とも提携してるので、このカードは共通で使えますよ」
役人はさらりと言った。
「BWIW、BWIW。どこにでも出てくるわね、あの会社」
「女王陛下の弟君かつ、内戦の英雄が社長で、なおかつ稼いでますからね。そりゃ役所としてもひいきにしたいですよ」
彼はそう言って、少し真剣になった。
「だいたいの説明はこんな感じです。他に疑問があれば答えますが……とりあえず、何か、仕事受けますか?」




