15、街の闇
「ほら、作ってきたから、食べなさい」
マチルダはそう言ってエコーにラップで包んだホットドッグを差し出した。
コッペパンに焼いたウィンナーと、レタスを挟んでケチャップを塗っただけの簡易なものだ。朝から仕事がある日の彼女の朝食は、いつもこれだった。
「貧乏飯だけど、贅沢言わないでよ」
「言わないさ。ただでもらったものにケチつける程、性格悪くないよ」
一口、エコーはホットドッグをかじる。彼は美味そうに口を動かしていた。
「美味しい」
「当たり前でしょ。市販材料を組み合わせただけなんだから。これで不味く出来たら逆に才能だって」
そう言いつつ、満更でもないマチルダである。
「ほら、歩きながら食べて」
「歩きながら?」
「時間節約。朝の時間は貴重なのよ。朝の一分は100ブラックに匹敵する」
まだ内戦の傷跡の残るハマン市街地をホットドッグを食べながら歩く二人。BWIWがあって、その恩恵を最大限受けられるとはいえ、去年内戦が終わったばかりである。市街地には、破壊されたり、焼けた建物の廃墟がそこら中にあった。
「今日は日雇い労働斡旋してくれる場所に連れて行くわ。国の復興局の斡旋所とBWIW系の斡旋所。今後は仕事は必ずどっちかで受ける事! とりあえずこの二つからきた依頼は、裏取りはしてるから安全よ」
マチルダはホットドッグを食べながら言う。ほどよい塩分が舌に心地よかった。
「そこ以外の場所は?」
「たまに個人で仕事頼んでくる奴もいるけど……ま、十中八九訳ありのヤバい仕事か罠ね。ハマンじゃ日雇い労働はどっちかのプラットフォーム使って仲介するのが普通だから」
「そんなにやばい?」
「そんなに。皆が利用するものは相応に信頼性があるってことよ」
マチルダは当然のように答えた。
「前に知り合いで個人契約で報酬の良い運び屋の仕事した奴がいてね。好奇心に抗えず、ブツの中身を見たら、違法薬物ってオチでさ。……ビビって挙動不審だった所を当局に捕まって、今は牢屋いる」
「……」
「別の知り合いは、建築の手伝いとして集められて、そのまま集められた連中ごと、どこかに連れてかれて行方不明。今頃は強制労働させられてるか、臓器を売られてるか……」
さらりととんでもない事を言うマチルダ。彼女にとって、知り合いが消えることなど日常茶飯事であった。
「……とんでもない所だね。ハマン市」
「ハマンに限らず今のブラックバニアなんてどこもこんなもんよ。一歩踏み込めば、簡単に闇と遭遇する。道徳が存在しない世界なんてすぐそこにある……世界は悪意と危険に満ちている」
マチルダは何でもないように語った。
「長生きしたきゃ、目を養う事ね」
彼女は自身の瞳を指差して不敵に言う。
「依頼文の違和感とか、報酬が相場より異常に高いとか。……復興局やBWIWの日雇い労働でも危険度の高い仕事はあるからさ。昨日私がやってた地雷探しみたいな……。ほら、ついた。目的地。復興局の日雇い労働受付所。今日は復興局側に良い依頼がきてると賭けてる」
マチルダはある雑居ビルの前で止まった。1階を指す。そこには入り口に沢山の人々が並んでいた。
「あれ、全部仕事を探す人……?」
「そうよ。私ら含め、大半は戦争で家も仕事も失って、人生狂わされた哀れな人達。……ほら、見物してないで並んだ並んだ!仕事は早いもん順だから! ボヤボヤしてると安全で割の良い仕事持っていかれるよ! そのために朝早くから来たんだから!」
元侯爵令嬢とは思えぬ勢いで、躊躇なく列に並ぶマチルダ。それをエコーは、やや唖然としつつ眺めていたが、すぐに彼女と共に列に並んだ。




