13、一日の終わり
「さて、腹ごしらえもしたところで、今日の宿をなんとかしないとね」
雪風屋をあとにした二人。マチルダは、エコーを今夜どこに寝かせるか考える。
流石のマチルダも今日会って仲良くなったばかりの相手を自身の家に泊める勇気は無かった。
「……宿?」
「ここまできて、その辺に野宿させるのはねぇ」
「良いよ。そことかで」
エコーは真顔で脇にある公園の一角にあるモニュメントを指差した。
公園入り口にはハマン市平和祈念公園と書いてあった。彼が指差した先にあったのは慰霊碑である。
ただの慰霊碑ではない。破壊されたBMP-3装甲車の上に石造りの慰霊碑が建っている。本来あるはずの上部砲塔は吹き飛んでおり、中に入れるようになっている。なるほど、中に潜り込めば一夜を明かせるだろう。もっとも、本来、このモニュメントは人が中に入る事は想定されてないだろうが。
「やめときなさい」
「なんで? 雨風はしのげる」
「『出る』らしいわよ? 幽霊。あれ。実際に内戦で破壊されたやつらしいから」
曰く、あのモニュメントのBMP-3は、元は激戦地だったダラ通り――現在BWIW本社が建つ場所で破壊されたものを再利用したものらしい。恐らく、中で誰かが死んでいるだろう。
この慰霊碑は曰く付きの場所として知られている。昼間はともかく、夜間に立ち入ろうとする者はほとんどいない。何があるか分かったものではない。
そして慰霊碑には例のBWIWの三つ六枚羽の紋章。本当にどこにでも投資しているな、とマチルダは思った。
「幽霊が怖いの?」
エコーは少し意外そうに言った。
「怖いっていうか……嫌いだね。人なら殴るなり蹴るなり撃つなりすれば無力化出来るが、幽霊にゃ効かないからね」
マチルダはそうあっけらかんと答えた。
「ハマンじゃ内戦時代、何千人も死んでるからね。そりゃ中には成仏出来ない奴もいるさ。危ない所に自分から行くもんじゃないよ」
「意外とゲンを担ぐんだ」
「そりゃ担ぐわよ。こんな時代だからこそ、少しでもツキが向くようにしなきゃ!」
「じゃあ、やめる」
「よろしい。安い宿知ってるから、悪い事言わないから、今日はそこに泊まりなさい。お金は出すから」
「…………」
エコーは少し怪訝そうにマチルダを見る。
「マチルダは、どうして俺にそこまでしてくれるんだい?」
「ん?」
「記憶を無くした男に食事を分けたり、街まで連れてきたり、宿まで手配したり、どうしてこんなに入れ込むのかと思って」
マチルダは返答に困った。何故? と、問われても酔狂としか答えようが無かった。強いて言えば顔が良かったから。
「そうね……なんとなく、かな?」
「なんとなく?」
「野良猫に急に餌をあげたくなる感覚、というのが一番近い」
「野良猫……」
少し面食らった様な顔をするエコー。
「本来、もう少し気の利いた事言うべきなんだろうけど……そうとしか言えないのよ。別に人間、常に深く考えて行動してるわけじゃないのよ」
マチルダはそう言いつつ、一瞬考えてから続ける。
「あえて言えば……。普段冷徹に生きてるから、他人に親切にしてバランス取りたかったのかもね〜」
「バランスねぇ……」
マチルダは、軽く笑みを浮かべた。
「ふふ……単なる物好きよ。それにこれは貸しよ? 返してもらうわよ」
「え?」
「明日からは日雇い仕事斡旋してるとこに連れていくから。借りたものは返す。当たり前でしょ?」
「ま、まあそれはそうだけど」
あくまで現実主義的なマチルダにエコーは少し押されていた。
「それに、ずっと根無し草ってわけにもいかないでしょ。何、今までこんな国で生きてきたんだから何とかなるわよ。拠点がハマンに移っただけ」
マチルダはあくまで明るく言う。
「今日はもう休みなさい。明日からは忙しいわよ」




