12、申し出
そんな話をしていると、ジュリアの懐から着信音が鳴った。彼女は内ポケットからスマホを取り出し、耳に当てる。
「は〜い? 何さ、誰かと思えばミカエラじゃん。こっちは退勤済みだぞ? 666時代からの付き合いがあるあんたじゃなければシカトしてたところだ」
ラッシーを口に含みつつ、ジュリアは続ける。
「……退勤した後にくる仕事の電話ほど萎えるもの無いって……なに?」
ジュリアの顔がやや険しくなった。
「ふーん……新しい『被験体』発見ねぇ……。タイプは? W-2かあ……まあ、そういう事ならしゃーないか。連絡ありがとう。今から行くわ。今いるPMC部隊は武装して待機」
ジュリアは電話を終えると、いそいそと支度を始めた。
「何? 騒がしそうに。なんか物騒な事言ってるけど」
「はは……仕事の話だ。退勤後も呼び出しとはとんだブラック企業よ。ブラックウィングアイアンウォーズって、そういう意味なのかしら」
口ではそう言って軽く笑いつつ、ジュリアは真剣な目だった。その瞳はハゲワシを思わせる鋭いものだ。
「テリーさん、お代テーブルに置いとくから。お釣りはチップって事で良いから」
「おお、ありがたい。毎度あり!」
厨房で忙しそうに動き回るテリーは露骨に上機嫌だった。
「じゃ、マチルダ達も達者で! ……あ、そうだ!」
ジュリアが席を立ったところで、何か思い出した様に、マチルダの方を見た。
「もしさ、背中に人魚みたいなタトゥーを入れた奴を見かけたらさ、BWIWに通報して欲しいんだよね……」
「何、それ? 人魚?」
ジュリアからの突然の妙な申し出に、マチルダは少し困惑した。
「BWIWで追ってるのよ。……ま、ちょっとした『戦争犯罪』に関わりのある連中よ。割と危険な奴らだからさ」
「戦争犯罪ねぇ……なんかの部隊章?」
ジュリアの手の甲にはまさに、かつて所属していた第666特別大隊なる部隊のものと思われる『鳥籠に入れられた小鳥』の紋章と『666th SPECIAL FORCES BATTALION』と書かれた部隊章が彫られていた。マチルダはまさにこういうタトゥーを連想する。
「ま、当たらずとも遠からず、かな?」
内戦時代はそりゃもうブラックバニアの治安は終わっていた。略奪や虐殺など、しょっちゅう起きていたのだ。それに関わった部隊の人間を探しているのだろうか? 戦後に改めて罪を償わせる為に捕まえている、とか。
マチルダはそう勝手に結論をつける。
「ふーん……まあ、分かったわよ。覚えておく」
「助かる。じゃ、またね〜」
ジュリアは手を振ると、そのままいそいそと店を出ていった。
一方のエコーはというと、カレーと格闘の末にそれを食べ終えて、肩で息をしながらラッシーを口にしていた。
「大丈夫……?」
「大丈夫。……多分」
どう見ても大丈夫そうには見えなかった。




