11、縁
「テリーさん、また会社来て出張販売やってよ〜。あれ結構うちの社員でウケてるんだよ」
一足先にカレーを食べ終えていたジュリアは厨房のテリーに話しかけていた。どうやら過去にBWIWで出張販売をした事があるらしい。
「出張販売か……。地味に準備に手間がかかるからなあ」
「なんならうちで人や車出すよ〜」
ジュリアはそう言って微笑む。
「良いの? そんなの勝手に決めて」
マチルダがジュリアに尋ねると、彼女は得意げに胸をはる。
「良いの良いの。私、こう見えて結構偉い立場なんだよ? だから食後にラッシーまで気兼ね無く注文出来る。テリーさん、追加注文でラッシー一杯ね」
「はいよ!」
「大企業勤めめ……若いのにエリートなんだ」
「エリートとは少し違うんだけどね〜。社長からの覚えがめでたいからね」
彼女の胸元ではBWIWの三つ六枚羽紋の社員章が輝いている。
「いつも思うけど、だいぶ攻めたデザインよね。そのロゴ」
「何が?」
「6つの羽が3つ。666。悪魔の数。普通、そういうの連想させるの、普通は避けるんじゃない?」
マチルダの言葉に、ジュリアは少し得意げになった。
「あー、パンピーには分からないかあ。このロゴの隠された真の意味が」
「何よ、隠された意味って」
「聞きたい? 聞きたいよね?」
「何もったいぶってるのよ……」
ジュリアはそれを発言許可と受け取り、口を開いた。
「うちの社長、第9王子で内戦の英雄ってのは有名でしょ? で、率いていた部隊の部隊番号が666なんだよ」
「へぇ〜」
意外な裏話に、マチルダは関心した様に声をあげた。
「正式名称、ブラックバニア政府軍第666特別大隊。通称666大隊。それもただの部隊じゃない。学徒兵部隊。10代半ばのガキンチョ達を集めて銃の撃ち方だけ教えて前線に投入した、そりゃもう雑な部隊。……凄いよね。そんな部隊率いて10年間戦い抜いて、180人も生かして帰した」
ジュリアは一拍置いて続ける。
「……内戦時代の私の古巣でもある」
「それは……」
マチルダは言葉を失った。彼女が元少女兵士だった事は、彼女自身が先ほど言っていたから。
「そのツテで、私は今BWIWにいる」
ジュリアはにやりと笑みを浮かべた。
「戦場から生きて帰ってはきたけど、銃を撃つくらいしか出来ない元学徒兵にゃ、駐車場の誘導員の仕事すら無かったからさ。絶望してアル中になりかけてた時に、隊長……いや、社長から「会社作るから来ないか」って誘われてさ。それからトントン拍子に大成功して今やブラックバニアいちの大企業の幹部の一人ってわけ!」
楽しそうに彼女はケラケラと笑った。
「いやぁ、持つべきは有能な上官だね! 社長は私らのヒーローさ!」
「なんだよ。要は自慢話か」
マチルダはそう言って、カレーを口に運んだ。元侯爵令嬢なのに、日雇い仕事で糊口をしのいでいる現状、嫉妬しないと言えば嘘になる。つい、口調もぶっきらぼうになった。
「ま、あえて教訓めいたオチをつけるなら、人の縁は大事にしろってことだよ」
ジュリアはラッシーのストローを持って、エコーを指した。彼は涙目のまま辛口カレーとまだ格闘している。
「彼氏くん、大事にしてやりなよ? 元学徒兵からのアドバイス」
「彼氏じゃないってば!」




