083⚫️光が差し込むのは
バルハインは逃げていた。
王は、やはり抜かりがなかったのだ。
謀反勢力をあぶり出していたのか。
くっ、名役者だな・・・。
まんまと罠にはまったということか。
逃走のさなか、妻は背後から放たれた無慈悲な矢に貫かれ、
その場に崩れ落ちた。
嘆き、抱き上げる暇さえ与えられない。
彼はただ、血を流し息絶えた最愛の人を後に残し、
泥濘の中を突き進むしかなかった。
わずかな手勢と共に退路を探すが、
行く手には深い闇と冷気だけが立ちはだかる。
ひとり、またひとりと仲間がはぐれ、闇に飲み込まれていく。
互いを呼ぶ声すら、追っ手を招く死の合図となるため許されない。
体力も、そして支えとなっていた気力も、一歩ごとに削り取られていった。
期待したラスカルの蜂起は、鉄の結束を誇る近衛兵の前に霧散した。
密かに動かせたはずのヤリスギら’影の軍団’も、
今や狩られる側の獣に過ぎない。
王は武力と懐柔という双頭の蛇を巧みに操り、反乱の火種を鎮圧した。
国内を再び、冷徹な掌の中に収めつつあった。
バルハインも、ラスカルも、ヤリスギも
彼らは皆、王国の深淵へと叩き落とされた者たちであった。
やがて、夜が明ける。
闇が去り、白々と朝が来る。
だが、その光は泥にまみれ、逃げ惑う者たちの元へは届かない。
唯一無二の光が降り注いでいるのは、ただ一箇所。
すべてを冷酷に見下ろす、
レグナス・ザルン・エイン王の玉座の上だけであった。




