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077⚫️火種

辺境のヤット・ラレンの朝は、いつもよりざわついていた。

駐屯所の門に立つと、街の空気が肌を刺すほどに重い。

「また税が上がるらしいぞ!」

「王は、こっちの暮らしなんて見ちゃいないんだ!」

市場から流れてくる民の声は、兵士である俺たちの耳にも容赦なく届く。

だが、王国軍の紋章を背負う以上、これらは’聞こえてはならない不満’だ。

広場の中央には、昨夜引き裂かれた王家の紋章旗が、無残に放置されていた。

風に揺れるその裂け目が、民衆の怒りをそのまま形にしたように見える。

・・・もう、止まらん。

この街は、とうに限界を超えていた。

兵士である俺たちでさえ、乾いた火種の匂いが肌にまとわりつくのを感じている。

反乱と呼ぶにはまだ小さい。

だが、ただの騒ぎと切り捨てるには重すぎる。

そんな曖昧な火種が、地面の下を這うように広がっていた。


そのとき、一頭の馬がよろけながら戻ってきた。

乾いた蹄の音に、駐屯所の連中が一斉に顔を上げる。

「急使だ! 戻ってきたぞ!」

砂まみれの使者が、肩で息をしながら俺たちの前で立ち止まった。

「・・・どうだった?」

誰かが絞り出すように問う。

使者は、乾いた唇を震わせ、短く答えた。

「軍が派遣される。

 だが規模は最小限だ。

 ’当面は、適切に対処せよ’・・・と・・。」

沈黙が落ちた。

’適切に’・・・?

その空虚な言葉が、俺たちの肩に重くのしかかる。

王都は、この街の緊張を知らない。

いや・・・知ろうともしない。

「俺たちだけで、どうにかしろってことか・・・。」

戦友の呟きに、誰も答えられなかった。

俺は破れた紋章旗を見つめた。

風に翻るその裂け目は、今や王国そのものを分かつ巨大な亀裂に見えた。

ヤット・ラレンの空は、皮肉なほど澄み渡っている。

だが、その静寂の裏側で、

目に見えない炎は確かに燃え広がり始めている。

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