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068⚫️退化か進化か
「ネットの引用記事? けっ、なんじゃあ、それは!」
老人は忌々しげに新聞を広げ、活字の海に視線を落とした。
『AIの即時回答は、思考の粘り強さを奪う。自動化が進むほど、プロセスを理解しない専門性の空洞化が起きる』
「そうじゃ! わしゃあ、常々そう思っとったんじゃ!」
杖を突き、老人は四畳半の部屋で、震える足で立ち上がった。
「なぜ手間を惜しむ! 歩けるうちは、自分の足で歩かんかい!バスだの電車だの、甘えるんじゃねえ!自転車がギリギリの線だろうがあ!台所で一発点火あ?錐揉み式とは言わんが、せめて火打ち石を使って火花に感謝せんか!水も湯も、蛇口一つで垂れ流し!それが無駄!心を殺すんじゃ!」
老人は荒い息を整え、奥深い山の小屋の窓から空を見つめた。
竈には、まだ火種が残っていた。
テレビが世に広まり始めると、一億総白痴化を招くと叫ばれた。
漫画は頭を悪くし、ゲームは人を引きこもりにさせると。
新しきが来れば、必ず否定の礫が飛ぶ。
これは、変化に追いつけぬ者の負け惜しみなのだろうか。
それとも、文明の進歩は、ヒトという種を緩やかに堕落させ続けてきたのか。
豊かな森に生きた縄文人が、もし今の世界を覗いたならば。
彼らはこの’便利’を、さぞや奇妙な光景として笑うに違いない。




