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049⚫️王国艦隊 vs 公国艦隊

海は穏やかだった。

だが、その静寂を切り裂くように

ラグナ王の高速艦隊が海面を滑っていく。

海獣皮を纏った船体が陽光を反射し、きらめく。

波を切り裂くその速度は、従来の艦艇の常識を完全に超えていた。

海面に白い尾を引きながら進むその姿は、まさに’海の刃’。

その進路上に、エンジェラム公国海軍、ブラッドが率いる艦隊が立ちはだかる。

ブラッドは帆柱の上で風を受けながら、迫り来る高速艦を見据えた。

「来たな。あれが工廠の’高速艦’か。」

その目に宿るのは、恐れではなく、獲物を見極める戦術家の冷静な光だった。


「正面突破だッ!!」

ラグナ王の号令と同時に、高速艦は海面を裂くように一斉加速した。

海獣皮の柔構造が波を吸収し、揺れは最小限。

海兵たちは大型弩を構え、刺突戦に備える。

狙いはただ一つ!ブラッド艦隊の中央突破!

北の大陸、ラベンダー公国への上陸だ。

距離、まだ千。

八百。

六百・・・。

高速艦は、海を切り裂く刃のように迫った。

ブラッドは静かに右手を上げた。

「全艦、横一列、第一斉射、発射ッ!!」

ヒューンッ!!

空気が裂けた。

巨大スリングショットから放たれた石弾が、放物線を描く。

高速艦の海獣皮は衝撃を逃がす。

だが、マストは柔構造ではない。

ズガァァン!!

骨が砕けるような破砕音。

先頭の艦のメインマストが、根元からねじ切られたように折れた。

「なっ・・・!」

甲板が跳ね上がり、海兵が宙に浮く。

速度が一気に落ち、後続艦が慌てて散開する。

ブラッドは間髪入れず叫んだ。

「第二斉射、焼夷弾ッ!!」

ヒュオォォォン!!

赤い尾を引く弾丸が飛び、着弾した瞬間、

ボウッ!!

海獣皮が悲鳴を上げるように燃え上がった。

炎が甲板を舐め、ランニング・リギングを焼き切り始める。


「距離を詰めろ!刺突戦に持ち込めば勝てる!!」

ラグナ王の叫びに応じ、高速艦は炎をまといながらも加速した。

距離、四百。

三百。

二百。

大型弩が火を噴き、海獣骨のボルトがブラッド艦の舷側を貫く。

ブラッド艦隊の一隻が大きく傾いた。

「やはり近距離は危険だな。」

ブラッドは、冷静に状況を見極める。

「全艦、右へ回頭!敵の鼻先を塞げッ!!」

投射艦隊が弧を描き、高速艦の進路を’壁’のように塞ぐ。

ラグナ王の目が見開かれた。

操舵員が叫ぶ。

「まずい!舵が!」

高速艦の素材では急旋回に耐えられない。

船体が悲鳴を上げ、舵が折れた。

その瞬間。

「第三斉射、集中射撃ッ!!」

ヒューン!ヒューン!ヒューン!

石弾が空を裂き、怒涛のように降り注ぐ。

一本、また一本とマストが折れ、舵輪が吹き飛び、

甲板が裂け、海兵が悲鳴を上げて転がる。

高速艦は、まるで’海に叩きつけられた獣’のように動きを失った。

ラグナ王は、燃え盛る煙の向こうに、横一列に並んだブラッド艦隊を見た。

なぜだ。

我が艦が。’海の刃’が!

喉の奥が焼けるように熱い。

怒りか、焦りか、恐怖か、自分でも判別できない。

海獣皮は衝撃には強い。

だが、火には弱い。

マストや甲板は柔構造ではない。

舵は急旋回には脆い。

その弱点を、敵は最初から理解していたというのか。

「馬鹿な!」

だが、現実は容赦なく迫る。

舵は壊れ、速度は失われ、刺突戦に持ち込む前に、すべての優位が奪われた。

ラグナ王は拳を握りしめた。

その右手が、震えている。

「・・・海域を離脱する!」

炎に照らされた海面には、沈みゆく高速艦と、

冷静に救助活動を行うブラッド艦隊の姿があった。


戦いの音が消えた海は、嘘のように静かだった。

焦げた帆の匂いと、波の音だけが残っている。

ブラッドは甲板に立ち、遠ざかっていく高速艦の残骸を見つめた。

「終わった、な。」

海賊だった頃なら、勝利のたびに胸が高鳴った。

奪い、逃げ、笑い、酒をあおった。

だが今は違う。

炎に包まれた高速艦から、次々と海へ飛び込んだ海兵たち。

漂流する全員に救命艇が近づいていく。

ブラッドは、救助されていく海兵たちの顔を見つめた。

恐怖、安堵、混乱・・・。

どれも、かつて自分が見てきた顔だ。

「あの王は、どうするつもりだろうな。」

ラグナ王の艦が炎に包まれた瞬間、

ブラッドは望遠鏡越しに、その表情を確かに見た。

’理解できないもの’を目の前にした子どものような顔だった。

勝利した。

だが、胸の奥に残るのは誇らしさではなく’重さ’。

戦いは、これで終わりじゃない。

ブラッドは空を見上げた。

雲の切れ間から差し込む光が、海面に揺れている。

ラグナ王の暴走は、これで止まるとは思えない。

かつて海賊だった男は、静かに息を吐いた。

その横顔には、提督としての覚悟が宿っていた。


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