第8話 本戦出場者16名
本戦に進む闘士16名の発表が行われた。
対戦カードはこれからランダムで決められるとのことで、まずはエントリーナンバー順に紹介されていく。
エントリーナンバー3。イヴ・ヴァールハイト。年齢24歳。出身はドイツ。謎のヌーディストにして、超人的な身体能力を持つ美女。
エントリーナンバー4。レザ・プラタマ。年齢32歳。出身はインドネシア。シラットを使う、元警察の潜入捜査官。
エントリーナンバー6。レオニード・カシモフ。年齢41歳。出身はウズベキスタン。コマンド・サンボを使う凄腕の傭兵。
エントリーナンバー16。劉鳳鳴。年齢78歳。出身は中国。中国武術界の至宝であり、八極拳を使う好々爺。
エントリーナンバー27。シェーン・オコナー。年齢20歳。出身はアイルランド。ベアナックル・ボクシングを得意とするテロリスト。
エントリーナンバー29。ヴィディヤット・シン。年齢39歳。出身はインド。カラリパヤットを使う、漆黒の殺し屋。
エントリーナンバー35。イザベラ・サントス。年齢28歳。出身はブラジル。ブラジリアン柔術の名門サントス一家の末端。
エントリーナンバー38。ルカス・ウェーバー。年齢43歳。出身はオーストリア。CQC(軍隊格闘術)を使いこなす、元軍人。
エントリーナンバー42。エイタン・ベン・ダヴィッド。年齢は36歳。出身はイスラエル。クラヴ・マガを使う、元軍人。
エントリーナンバー65。アレクセイ・ボルガチョフ。年齢は40歳。出身はロシア。ロシアプロレス界の英雄。
エントリーナンバー74。帝釈鵬。年齢は30歳。出身は日本。元々は角界の横綱であったが、暴力事件で資格剥奪となった力士。
エントリーナンバー131。アウン・コーミン。年齢は27歳。出身はミャンマー。全身傷だらけの狂気のラウェイ戦士。
エントリーナンバー181。レディ・ジャガー。年齢は不詳。出身はペルー。自由自在に空中殺法を繰り出す、華麗なるルチャドーラ。
エントリーナンバー200。オリヴィエ・ベルナール。年齢は26歳。出身はフランス。サバットを使いこなす、中性的な顔立ちの美青年。
エントリーナンバー242。前蛇百合。年齢は36歳。出身は日本。日本で育まれた独特の拳法「竜虎道拳法」の使い手で、異常な跳躍力を武器とする。
エントリーナンバー243。草薙礼司。年齢は36歳。出身は日本。同じく竜虎道拳法の使い手。予選でナンバー1のラオを撃破したジャイアント・キラー。
「というわけで、ここで本来なら、16名の皆さん一人一人に、ここまでの感想と抱負を伺いたいところですけどぉ」
アリスは腰をくねらせて、コケティッシュな笑みを浮かべると、パチリとウィンクした。
「このトーナメントを早く見たい、とウズウズしているVIPの皆様方をお待たせするのは申し訳ないので、さっそく始めたいと思いまぁす♪」
16名の誰もが、ざわめくことも、動揺することもなく、粛々と進行の流れに身を委ねている。余計なパフォーマンスに時間を費やすことよりも、一秒でも早く戦いたい、というのが本音のところだ。それに、誰かがこの闇試合を観戦しているであろうことは、もうみんな察していることだった。いまさら驚くことでもない。
「ここに、皆さんのエントリーナンバーが刻まれたボールの入った、ボックスがありまーす。今から、私が二つのボールを取り出しますので、それでトーナメントの一試合目を決めますね♪」
「組み合わせを一気に決めないのか?」
ナンバー6のレオニード・カシモフが手を上げた。浅黒く焼け焦げた肌に、サングラスをつけた、スキンヘッドの男。傭兵らしく、アーミー仕様のジャケットとパンツを着こなしており、見るからに百戦錬磨の雰囲気を漂わせている。
「だって、面白くないでしょ? 先の予想がついちゃうかもしれないじゃないですか。一試合終わるごとに、次の試合の組み合わせを決めます♪ もちろん、トーナメントなので、一試合目と二試合目の勝者は、自然と次に当たることにはなりますけどね」
そう言って、アリスはボックスの穴に手を突っ込んだ。
少しばかり間をもたせて、含み笑いを浮かべたまま、みんなを焦らせた後、エイッ! と一気に一つ目のボールを取り出した。
「ナンバー38! ルカス・ウェーバー!」
スポットライトが、ルカスに当てられる。
鋭い目つきの、無精髭を生やした壮年の男は、眩しそうに目を細めながら、とりあえず仕方ないからやるか、といった感じで、めんどくさそうに右腕を上げた。彼なりのアピールなのだろう。
異様なのは、彼が着ているのは、ネイビーブルーのスーツということだ。普通のオフィスワーカーのようなスーツを着ているのは、元オーストリアの軍人という肩書きには似つかわしくない。
「で? アリスお嬢ちゃん。俺の相手は誰がするんだい?」
早く次のボールを引け、と言外に促す。
アリスはニッコリと微笑むと、ボックスに手を突っ込み、今度は瞬時に二個目のボールを取り出した。
「ナンバー65! アレクセイ・ボルガチョフ!」
「いよぉぉしっ!」
さっき予選の激闘を乗り越えたばかりだというのに、アレクセイはそんなことは気にしないとばかりに、喜びの声を上げ、ゴリラのドラムのように両胸をドンドンと叩いた。たまたま横に立っていた百合は、あまりのやかましさに顔をしかめる。
「ちょっと、喜んでいる場合じゃないでしょ。あなた、連戦になるんだよ」
百合の日本語に対して、内容は理解していないながらも、アレクセイは大意を掴んだようで、グッと親指を立ててきた。
「Все в порядке, девочка. Я непобедим.(大丈夫だぜ、お嬢ちゃん。俺は無敵さ)」
「何言ってるのかわかんないけど、まあ、脳筋な返答ってことだけはわかるわ」
やれやれ、と肩をすくめる百合。予選においては、アレクセイのお陰でなんとか生き延びることが出来たので、ちょっとばかり肩を持ちたくなってくる。見るからに豪傑風の見た目の、いかにもプロレスラーらしいプロレスラーであるアレクセイに、好感を抱いていた。
「第一回戦の開始は10分後です!」
テキパキと進行するアリスに対して、「ちょっと待ってよ」と百合は止めに入った。
「説明が全然足りてないって。会場はどこでやるのよ。私たちはどうすればいいの」
「皆さん、次の会場へと移動してもらいます」
「次の会場?」
百合が首を傾げた直後、建物のシャッターが一斉に上がり始めた。外には、月が浮かぶ夜空と、黒く塗りたくられた海が広がっており、そして、船尾らしき影が見えた。大型客船のようだ。
「次の会場は、あの大型客船となります!」
アリスは16名それぞれの言語に合わせて、同じアナウンスを繰り返した。その説明を聞くのと同時に、誰ともなしに、移動を開始した。
これまで戦っていた場所は、臨海の展示場用大型施設だったようだ。百合は、特に見覚えのある場所なので、ポツリと地名を呟いた。
「お台場だったのね……」
港湾に鎮座するように、大型客船がそびえ立っている。目立つのを避けるためか、一切の明かりをつけていない。
乗り口はすでに開かれているし、アリスもそれ以上は余計な説明をせず、スタスタと先に立って歩いていくので、仕方なく、16名の本戦出場者達も船へと乗り込むことにした。
全員が乗船してから、10分後に、大型客船は埠頭を離れた。
いよいよ、本戦第一回戦が始まろうとしていた。




