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ドラゴン・レイジ  作者: 逢巳花堂


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第2話 243番

 トーナメントに参加する、と決まってから、すぐに迎えのリムジンがやって来た。


 矢沢とともに車内に乗り込んだ草薙は、すでに中で待機していた黒服の男からタオルを渡され、それで濡れた体を拭き始める。


 グショグショに濡れているのは矢沢も同じだったが、彼にはタオルは渡されない。草薙と、矢沢の間に座っている黒服は、矢沢のことをあえて無視している。それが何を意味するのか、草薙にはわからなかったし、わかろうともしなかった。


 いま重要なのは、賞金額のことだ。


 今夜ひと晩限りで開催される闇トーナメント。これに優勝すれば、2千億円の賞金が手に入る。


 2千億円。サラリーマンの生涯年収がたしか約2億だったか。それの千倍。途方もない金額だ。ジョークじゃないかとすら思えてくる。


 しかし、テストとしてけしかけられた五人の暴漢達は、どれも本気で自分を殺しにかかってきていた。冗談では無さそうだ。


「お前、矢沢と言ったっけ? 電話貸してくれ。息子に一本、連絡を入れたい」

「ダメです」


 キッパリと、矢沢は断った。


「招待状に書かれているでしょう? 参加を表明した時点から、外界との繋がりは一切遮断させていただきます。まあ、心配なさらずとも、試合は今夜だけですので、明日の朝には何事もなく帰れますよ」


 と言いつつ、矢沢の目は意地悪く輝いた。


 それほど頭のいいほうではない草薙でも、矢沢が言わんとしていることは、何となく読み取れた。五体満足で帰れるとも、命あって帰れるとも、保証は無い。


 招待状に書かれている、トーナメントの各試合の勝利条件はただ一つ。


「相手を戦闘不能にすること」


 禁止事項は何も書かれていない。武器の使用が駄目とも、急所攻撃をしてはいけないとも――相手を殺してはいけないとも――一切、何も、書かれていない。


「大事な息子さんのためにも、大金を持ち帰らないと、ですね」


 ニヤニヤと笑う矢沢。


 その面構えを見ているうちに、草薙は矢沢の顔面に一発蹴りを入れたくなったが、我慢した。


 中間に座っている黒服だ。肌の色や、彫りの深そうな顔立ちからして、おそらく中東の人間。サングラスをかけているから、目線がどっちに向いているのかわからないが、何が起きてもいいように、常に全身を「リラックス」させている。


 食えない野郎だ、と草薙は思った。素人であれば、常時身体をガチガチに緊張させて、有事の際に備えて身構えていることだろう。だけど、それでは、肝心のタイミングですぐにアクションを起こすことが出来ない。


 黒服はあえて、全身を脱力させている。ゆえに、草薙が何かを仕掛けようとすれば、その瞬間、カウンターで攻撃してくるであろう。無論、草薙は負ける気はしないが、腕の一本くらいは犠牲になってしまうと踏んでいる。であれば、無駄な行動は起こさないに越したことはない。


「俺の息子のことを、どこまで知っている」

「リサーチさせてもらいましたよ。あなたの息子は、初真はつまさん。いま高校一年生ですね。彼の学費をまかなうために、草薙さん、あなたは様々な裏の仕事に手を染めています。法に触れるようなことにも、ね」

「俺ぁ、学も技術もねえからな。やれることは戦うこと、それだけだ」

「元奥様は、碧井白湖あおいしろこさんでしたかね。押しも押されもせぬ有名ファッションデザイナーだ。しかし、あなたと息子さんを見捨てて、離婚した」

「そのあたりの話は放っておいてくれ。気分が悪くなる」

「これは失礼。では、お口直しに、会場へ着くまでの間、シャンパンでもいかがですか?」

「酒は好きだ。けどよ、これから命懸けの戦いをしようっていうときに、酔う気はしねーよ。優勝した後の祝杯に取っておけ」

「優勝! ははは! 優勝、と来ましたか!」


 妙に癇にさわる高い笑い声を上げて、愉快そうに、矢沢はパンパンと手を叩いている。気のせいか、中間に座って、ずっと黙りっぱなしの黒服まで、口の端を歪めて笑ったように見えた。


 カッとなった草薙は、座席をドンッと裏拳で殴り、その轟音で無理やり矢沢の嘲笑をストップさせた。


「何がおかしい!」

「いや……これはまた、失礼しました……ですが、あまりにも、あなたは状況が見えていないので、少々、哀れに思いましてね」

「哀れ?」

「今夜のトーナメントは、特別です。草薙さん、あなたはこの狭い日本で、チンケな裏仕事をしていただけで、広い世界のことを何も知らない。この世にはね、草薙さん、あなたの想像を上回る猛者が……化け物のような連中が……大勢いるのですよ」

「かもしれないな。だからって、負ける気はねーよ」

「243名」

「あ?」

「今夜のトーナメントに招かれた戦士達の数です。そこから、まあ、ある方法で16名へと絞り込むわけですが」

「じゃあ、最初からトーナメントってわけじゃないんだな」

「ええ。絞り込みのための1試合、そしてトーナメントで優勝までに必要なのは4試合、といったところでしょうか。もちろん、皆さんの本気を見たいので、医療班などは一切配備していません。怪我を負えば、次の試合にもそのまま引き継いでもらう形となる。一試合一試合、よく考えて戦わなければ、勝ち残ったとしても意味はありません」

「ちっ、めんどくせーな。戦略ってやつか? 俺の一番嫌いなタイプの戦い方だ」

「でもまあ、大丈夫ですよ。先ほどのように、一撃も当てさせることなく、勝ち進めばいいだけの話」


 そこまで話したところで、不意に、黒服の男が口を開いてきた。


「243番」

「は? なんだって?」

「それがお前に割り当てられた番号だ。つまり、今夜の試合の最後の招待者、ということになる。その意味が、わかるか?」

「さあ、よくわかんねえな」

「期待値の高い者ほど、招待される順番は早い。つまり、ナンバー1の戦士は、当然、それだけ強さもナンバー1に近いということだ。この招待活動は、半年前からじっくりと時間をかけて行われてきた。最後の最後に滑り込みで招かれたのがお前、というわけだ」

「おう、つまり、何が言いたいんだ?」

「243人の戦士の中で、お前が最弱だって思われている、ってことだよ」


 場は一気に静まり返った。


 まさかの黒服の挑発的発言は、矢沢も予想していなかったのか、脂汗を流しながら引きつった笑みを浮かべている。


 リムジンの車内に、一触即発の緊張感が走る。


 いつ、草薙か、黒服か、どちらかが爆発してもおかしくない、そんな張り詰めた空気が。


「……安い挑発だな」


 先に、空気を弛緩させたのは、草薙だった。諸手を挙げて、やれやれ、と言わんばかりに首を振る。


「そうやって俺を煽って、喧嘩ふっかけようって魂胆か? 悪いけど、ひっかからねえよ」

「フッ。さすがに、一応は招待された男か。意外と冷静だな」

「当たり前だろ。これでも高校生のガキを養ってるんだ。いちいち、つまらねえ喧嘩に付き合ってたら、親として示しがつかねえだろ」

「いい親父だな」


 黒服はそこで、初めて相好を崩した。


 ほんの一瞬、危うい空気感を醸し出していた車内だったが、いつの間にか和やかな空気に変わっていた。


「なんだよ、ずっと黙ってばっかだから、ノリの悪い奴かと思っていたら、案外話の通じる野郎じゃねえか」

「御館様から、戦士をもてなすように命令されている。さっきのは悪いジョークと思って忘れてくれ」

「そっかそっか! 悪いジョークな!」


 草薙はハハハと大声で笑った。


 直後、


 黒服の顔面に、渾身の裏拳を叩き込んだ。鼻の骨が砕け、歯が折れ、割れたサングラスの破片が眼球に刺さる。


「ぎゃば! あ! ぐっぎゃあああああ!」


 ポタポタと拳から血を滴らせながら、冷たい眼差しで、草薙はまっすぐ前のほう、矢沢のことを睨みつけている。もはや、のたうち回る黒服のこと等、眼中にない。


 矢沢は、あまりの急変に感情が追いつかず、気が付けば失禁して、スーツのズボンをビショビショに濡らしていた。


「な、な、何を……されるのですかァ⁉」

「俺のことを最弱呼ばわりするようなもてなしなら、いらねーよ」


 凍えるほどに冷たい声で、そう言い放つと、手をブンブンと振り、拳にこびりついた血を弾き飛ばした。


「迎えのリムジンの中での暴力行為を禁ずる……なんてルールは、どこにもなかったよな?」


 そう問われて、矢沢はただ顔面蒼白になりながら、ひたすらコクコクと頭を縦に振ることしか出来なかった。


 それから会場に着くまでの2時間、地獄のような空気感の中で、いつ自分も半殺しにされるのだろうかと矢沢はビクビクしながら、沈黙と黒服の呻き声だけが流れるリムジンの車中を過ごしていた。


 会場に着いて、やっと草薙をリムジンから降ろした瞬間、矢沢は意識を失った。恐怖のあまり、髪の毛が何本か白くなっていたほどだった。

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