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ドラゴン・レイジ  作者: 逢巳花堂


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第15話 第三試合

 第二試合の終了後、すぐにアリスはトトトと観戦していた12名の方へと駆け寄ってきた。


 正確には、12名の内、イヴだけは好き放題にプールで泳いでいたので、まったく何も観戦していなかったのだが。アリスが近寄ってきたことで、「え? もう終わったの?」と呑気なことを言っている。


「はーい、注目♪」


 12名全員に通じるよう、多言語を使い分けて、アリスは声をかけてきた。


 その手には、12本のクジを持っている。


「さっそく次の第三試合の組み合わせを決めまーす。今度はクジ引きでやります♪ 印がついているクジを引いた人が、当たりです」


 説明している間に、イヴがプールから上がってきた。艶のある金髪が水に濡れて、客船の灯りを受けてキラキラと輝いている。何人かの男性は、思わず目が釘付けになる。


 力士の帝釈鵬に至っては、好色な眼差しでニヤニヤしながら、「ふふうむ♪」と楽しげな声を上げて、顎をいじっている。


 その目線に気が付いたイヴは、ニッコリと笑って、無邪気に手を振ってきた。


 一人、草薙だけは、そんなイブを見てゾクリと背筋を震わせる。


(得体の知れない女だな……)


 イヴのヌードを楽しそうに鑑賞している帝釈鵬の心情が、草薙は理解出来ない。自分だったら、あんな不気味な女の裸、いくら見ても興奮しない。願わくは、この先のトーナメントでぶつからないことを祈るだけだ。これまでに様々な格闘家と戦ってきた草薙だが、全裸を惜しげもなく披露している女なんて相手したことはない。


「クジ引き! 楽しそう!」


 真っ先にクジを引いたのは、まさかのイヴだった。「あっ、ちょっと⁉」とアリスが止めに入るのも聞かず、彼女の手の中から、クジを引っこ抜いた。


 クジの先端には印がついていない。


「もー! いっせーのせ、で皆さんに抜いてもらおうと思っていたのに!」

「あはは♪ ごめんごめん♪ やり直す?」

「いいですよ、あなたはそのままで。残り11名の皆さんには、同時に引いてもらいます」


 そう言って、アリスは11本のクジを両手に分けて、残りの闘士達に突き出した。ちょっとふくれ面になっている。意図していた通りに進行できなくて、ちょっとご不満の様子だ。


 11人はアリスの側に群がった。それぞれ、クジをつまみ、そこで動きを止めた。


 プールの反対側では、たった今エイタンを葬ったばかりのヴィディヤットが、今後の試合に向けてストレッチをしている。トーナメント表通りなら、ヴィディヤットが戦うのは大怪我を負ったルカスであるのに、それでも用意周到なところが、恐ろしいほどに冷徹な男である。


「はい! どうぞ!」


 アリスの合図に合わせて、11人はクジを引いた。


 それぞれのクジの先端が、船の灯りに照らされて、全員の目に晒される。


「おっ!」


 帝釈鵬が喜びの声を上げた。彼のクジの先端には、赤い色が塗られている。間違いなく、当たりのクジである。


「次は僕達の戦いということだね、スモウレスラー」


 もう一人、当たりクジを引いた青年が、ウェーブのかかった金髪をかき上げて、フッと微笑んだ。


 フランスのサバット使い、オリヴィエ・ベルナール。女性と見紛うような中性的な美貌の持ち主であり、とても戦闘に向いているとは思えない見た目をしている。


「よろしく! いい試合をしよう!」


 爽やかに、オリヴィエは帝釈鵬へ向かって、手を差し出した。握手をしようというのだ。


 帝釈鵬は邪悪な笑みを浮かべて、その手を握った。そして、グッと力を込める。190センチほどの巨体を誇る帝釈鵬の、極太の手に、全てを潰さんばかりの圧力がかかる。


 だが、オリヴィエは涼しい顔をしている。


「……ぬっ⁉」


 様子がおかしい。帝釈鵬は何度も右手に力を込めるが、オリヴィエの手を潰すことは出来ない。


 オリヴィエもまた、尋常ではない握力で握り返してきているのだ。


「ちっ」


 舌打ちし、帝釈鵬は手を離した。その手の平には、赤い跡がクッキリと残っている。


「ああ、いい夜だ。こういう夜は詩でも吟じたくなるね」


 オリヴィエは両腕を広げて、歌うように一人語らいながら、プールサイドを歩いていく。海風を受けて、少し長めの金髪がなびいている。どこへ行こうというのか、自由気ままな動きだ。


「ちょっと、ちょっと! 次の試合会場はこっち! こっちですから!」


 アリスにフランス語で呼びかけられて、ようやくオリヴィエは歩みを止めた。


「失礼、あまりにも心地良かったもので。それで、次の試合会場はどこだい?」

「それは到着してからのお楽しみです」


 ニッ、とアリスは笑みを浮かべた。一試合目はダンスフロア、二試合目はプールサイド。そして三試合目はどこでやるのか。どうもアリスの様子からすると、これまでとは異なる趣向が凝らされているようだ。


 一行は、アリスに案内されて、今度は船内へと入り、下へ、下へと進んでいく。いつの間にかヴィディヤットも加わっている。彼は五体満足の状態だから、別にプールサイドにとどまっている理由は無い。今後の試合でぶつかるかもしれない対戦相手の戦い方を観戦したい、というのは当たり前の考えだろう。


 最後の扉を開けた先には、船内でありながら、広い空間が広がっていた。


 アリスが右手を高く掲げて、パチンと指を鳴らすと、照明がともされた。


 何十台もの乗用車が収納されている区画。車両甲板、カーデッキと呼ばれるエリアだ。整然と並んでいる乗用車の合間には、人一人がやっと通れるくらいの隙間が空いている。


「おいおいおいおい! まさか、ここでやれって言うのか⁉」


 帝釈鵬が慌ててアリスに問いかけた。


「もちろん、ここですよ♪」

「正気か……⁉」


 帝釈鵬は、先頭列の乗用車群に近寄り、左右の手で、二台の乗用車をグッと押し込んだ。


「ふんっぬ!」


 気合いとともに、ズズズ! と乗用車二台を押し開くようにして、広げた。そこまでしてやっと、帝釈鵬の体の幅が入るスペースが出来上がった。


「ここで、やれ、と?」


 戸惑う帝釈鵬の傍らを、鼻歌交じりに、オリヴィエが優雅に通り抜けてゆく。彼のスマートな体型なら、車間の幅くらいは簡単に入れてしまう。


 そして、帝釈鵬の真正面、ある程度の間合いを離したところまで歩き進んだところで、クルリと芝居がかった動きで振り返った。


「さあ、始めようか、スモウレスラー」


 その言葉に被せるように、アリスが試合開始の号令をかけた。


「Fight!」


 第三試合のスタートである。

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