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Dータウン・ライアー 〜〜ようこそ死者の街へ〜〜  作者: 神川 真琴
E-3編 もしも私が街を出なかったら
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E-3編-5 キャズム

「さあゆっくりお話ししようか」


 そう言いながら管理人さんは席に座りお茶を飲んだ。


「その…お話と言っても何を話せば…」


「な〜に、これはただのメンタルチェックだよ、そんなに気張る必要はない、猿渡彩香と出会ってどう感じたのか、正直に言ってくれればいいさ」


「は、はい」


 正直…正直か……


 本当のことを言えば自分でもよく分かってない、でも正直に話すってこう言うことを言えばいいんだよね、今の自分が思っていること


 よく分かってないと言うことを言えばいいんだ。


「ロッキングクルーに襲われてる猿渡さんを見た時、何故か目が離せなかったんです、その…体が勝手に動くと言うか……その……」


「単純に困っている人を助けたいと言う善意ではなく、自身の中にある欲望や本能に近しい行動であったと」


「は、はい、その…直感と言いますか、猿渡さんについていけば記憶が戻るような気がしたんです」


「おそらくそれは君の失った記憶が関係しているのだろうね」


「私の…記憶ですか」


「もしかすると君と彼女は生前どこかで会っていたのかもしれない、何か大切な関係だったのかもしれないね」


「そう…でしょうか」


「だから君は彼女を手伝った、その過去の衝動によって」


「でもこの街にいる限り私の記憶は戻らないんですよね」


「そうだ、だが良い傾向だと思うよ、自分で理解してなくとも、本能や衝動のような物だったとしても、過去の君が現在の君に影響を与えたんだ

今後も同じように過去の影響が君に現れるかもしれない、そう考えると良い傾向さ」


「そう言ってくれると何だかホッとします」


 コップを手に取りメロンジュースを飲み込む。


 過去の自分が今の私に影響を与えているか、管理人さんの言うことが本当なら記憶も戻ったりするのかな。


 でも…これは多分管理人さんなりの気遣いで本当は戻ることなんてないのかな。


「……後悔はしているかい」


「え」


「街を出ないと言う選択をしたことに対する後悔さ」


「それは……わかりません」


「それで良い事とは思うよ」


「……そうでしょうか」


「私も自分のやっていることに自信なんてない、ほぼ行き当たりばったりさ、こう…自分を卑下するみたいだが、私の人生はサイコロを振るような人生だった」


「サイコロ…ですか」


「ああ、自分がいるマスも次のマスもゴールもわからない、そんな状況で私はただひたすらにサイコロを回した、どっちの選択肢が正しい選択肢なのかも分からずにね」


「何だか意外です、その…何と言うか管理人さんは自分のような人間とは違う、その…格上的な存在だと思ってたので」


「私も人肌脱げば人間さ、何の力もないただの凡人、君と変わらないさ」


「そんな大層な」


「そうかもね。君の悩みは今すぐ解決する問題じゃないさ、長い時間をかけてゆっくりと解決していけば良いさ」


「ゆっくりですか」


「ああ、この街で生き急ぐ必要はない、死んでいるのだから。時間ならある、ゆっくりと答えを導き出せば良い」


「………」


「不安かね」


「クローシスさんに言われた事が気がかりで」


「あの老耄軍人に何を言われた」


「私が知りたがっている記憶が必ずしも良いものとは限らない、そう言われました」


「あいつなら言いそうな事だな」


「ゆっくり時間をかけて答えを見つけても、それまでにかけた時間が全部無駄になるんじゃないかって」


「君にプロメテウスの話をしたであろう」


「…………」


 したっけ。


「彼は人生を賭けた目的を成し遂げた、だが成し遂げた後は磔にされ鷹に体を食われ続ける罰を受けた

それでも彼は後悔をしなかっただろう。そんな彼のように成功の先が絶望であっても後悔しない心意気が必要だと思う」


「悪いですが、私はその…プロメテウスではないです」


「そうだね、だけど言いたい事はわかるだろ」


「まぁ…何となく」


「過去についてそこまで気負う必要はないさ、どんな人生であってもクローシスよりマシなのは確実さ」


「そりゃ軍人さんに比べたら誰でそうですよ」


「………そう…だな、うん言葉がよくなかった、まぁうん…とにかくだ、そこまで気負う必要はない

そもそも戻るかどうかも分からないわけだし、暗く考えずに明るく考えた方がいい、身勝手かもしれないがこれが私の意見だ」


「きっと…そうなんですね」


「私の言葉が100%正しいわけではない、間違ってるかどうかは君が決めたまえ、君の人生なのだから」


 私の人生か…そうだよね、これは誰の人生でもない、私ライリーの人生だ、過去の自分の物でもない、今ここにいる私の人生だ


「はい」


「まぁのんびりと進めばいいさ、時間はあるのだから」


その言い方はいつも通り軽いのに、不思議と少しだけ救われた…ような気がした。

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