第18話 管理人
「管理…人?こいつが」
猿渡さんはまるで心底疑うような声を上げ、管理人さんは拳を静かに握りしめながらため息混じりに呟く。
「こいつというのは初対面の人間に対して不適格な表現ではないのかね、それとも外の世界では今そういう教育方針になっているのかね。素晴らしきかなゆとり教育」
「…………」
「………は?」
口元が見える仮面ですら、管理人さんの表情が死んだような表情でとても冗談を言ってるような表情ではないかとはわかる。
とても…その……なんとも言えない空気が流れ、クローシスさんがため息混じりに呟く。
「…………」
「………」
「すべってるぞ管理人」
「…………」
「…………」
「…………」
全員の視線が管理人に集まり5秒ほどの沈黙が続いた。
「クローシス…私は芸人ではないのだよ、面白さを期待されても困ってしまう」
「だったら面白い会話術の本でも読むんだな、ほら」
そう言いながら本棚の本に向かって糸を放ち、「面白くなれる会話術」という本に糸をつけると、そのまま糸で引き寄せ、管理人さんに投げつける。
管理人さんはその本をキャッチすると
「………明日にでも読むようにしようか」
と言いながら本を適当に投げ捨てると床から金属アームが現れ、本を元の位置に戻した。
「……ね、ねえライリー…本当にあれが管理人なの」
「う、うん間違いないよ、あれが管理人さん、でも…どうして、どうしてここに」
「そうだな、問は一つ一つ解答しよう、まず…ドアや窓の不具合……いや、どうやって君達をここに引き寄せたかだが…」
「…いや正直どうでも…」
管理人さんは突然指を鳴らすと管理人の近くに椅子が引き寄せられ、管理人さんはゆっくりとその椅子に座る。
…その…出来れば私達の分も欲しいな。
「さっきも言ったように空間拡張技術は空間を拡張しているわけじゃないのだよ、いや…捉え方によっては拡張していると言えるのだが…まぁ私としては言葉が適切に使われていないと思ってしまう
それでは拡張ではないのなら、今この空間はなんなのかと思うだろうが、これは…」
「……は?」
気持ちの整理が落ち着かない状況で、猿渡さんが縛られた体を動かし、大きく口を開きながら私と目を合わせる。
「…え?なにこれ」
いや…それを私に言われても困るんだけど。
「……まぁ長く話した所でのらりくらりの馬耳東風だろう」
「………ばし?豆腐?」
「右から左に受け流すみたいなことよ」
「少し意味合いは違うが、『柳に風』『糠に釘』『馬の耳に念仏』とも言うね。さて日本語の勉強はここまでにして仕掛けのことを話そうか」
「………いや…別にもう仕掛けとかどうでもいいんだけど」
「………何故だい」
「は?」
「君達は先ほどのドアの不具合について疑問に思っているはず…いやこの場合は思っていたで過去形になるのかな、いや過去形になるな確信だ
疑問に思っていたはずなのに、どうしてどうでもいいと言えるのかね、帰る前までには知っておきたい情報だと思うのだが…」
「ねえ、そのお面から見える目って偽物?この糸で縛られてる状況みりゃわかんでしょ」
「さ、猿渡さん口悪いよ、こんなんでも街の最高責任者なんだよ」
「………こんなんか、そうか…こんなんか」
「うっさいわね。とにかく今仕掛けとかの話いらない!殺されかけてんの!」
「………君は…あれか、シリーズ物の映画やゲームやアニメは面白い物だけ見たりプレイしたりするタイプか」
「……は?」
「YouTubeの切り抜きショートや5分でわかる〇〇とか、正直レビューとかで見た気になってるタイプか」
「え?まぁ…言われてみたらそうかもだけど」
そうなんだ。
と言うかそれとこれって関係ないんじゃ…
「物事には順序があるのだよ、その順序を飛ばして次に進むことはとても気分が良くない、神経が苛立つ、ベルセルクを13巻飛ばして読めと言われるようなそんな感覚だ」
「知らんがなそんなん言われても」
「……あの…管理人さんベルセルクってなんです?」
「漫画だよライリー暇な時読むといい」
「はい」
「とにかくだ私は順序が崩れるのが嫌なのだよ、黒板を引っ掻く音のような、AVの男側の喘ぎ声というか、人面カメムシを見た時のような嫌悪感を感じるのだよ…とてもとてもね」
そう言いながら苛立ちを表現するように指を動かし、髪を掻きむしる。前に会ったことがあるけど…その時と変わってないな、管理人さん。
本題に入るまでが物凄く長くて、隙があれば自我語りし始めるし、話が凄い逸れる。とにかくめんどくさい。
「1から10、どこも飛ばすこともなく、1 2 3 4 5 6 7 8 9 10と順序よく正しく数えなければならない、ドレミファソラシドはドレミファソラシドでありレファラシドである事に……」
「もういいわかった、もうわかったから」
「その…管理人さん出来れば仕掛けの方を教えていただけないでしょうか」
「2人揃ってめんどくさいと言う様子だな」
「管理人よ1人入れ忘れている」
「クローシス…君もか。まぁ君達3人の心境は理解できる、学校の校長先生の話を誰も聞かないとの同じだろう、もういい手っ取り早く終わらせようか」
それなら…最初からもう少し話短くしてよ。と思っていると管理人さんは左手で腕時計に触ると背後の窓からとてつもない異音がした。
なんだろうこの音と思い振り返ると、窓の外は何もない真っ暗な空間が広がっていた。
暗い…じゃない。そこには“奥行き”がなかった。
ただ黒い面が貼られているみたいでありながら、無限に広がっている様な異質な空間。
「これは…」
「なに…これ」
窓の外には何もない、ただの空間が広がっている、クローシスさんの能力みたいに分子が存在しない別の空間が広がっている。
これは…なんなの一体どう言う……
「昔のゲームをイメージしてもらえば想像はできるとは思う、ゲームにおけるマップや敷地内部は繋がっているわけではない。ほら、マップ外は真っ暗だろ
一つ一つが独立して存在し、ドアのテクスチャに移動先を設定することで独立していたマップ同士が繋がる」
「な、なんでいきなりゲームの話を」
「つまり図書館内部はゲームのマップってこと…ですか」
「え?ライリー言ってることわかんの」
「な、なんとなく」
「少し違うが…その考えが1番理解しやすいだろう、この技術もそれと似たようなものでな
普段は使わないが…こうやってドアや窓の先を操作することができる」
そう言いながら再び腕時計を触ると窓が別エリアの図書館を映し出した。
「つまりだ、出口を設定しなければ出口には辿り着けない。君達がこの図書館に入った時点で逃げることなど不可能なのだよ、これで理解できたかな」




