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第16.5話 小麦粉まみれ

「猿渡さん!?」


 クローシスさんからの選択に迷っていると猿渡さんは自ら一歩踏み出して自分の両手をクローシスさんに差し出した。


 猿渡さんは自首するんだ、私を巻き込まないために。


「その言葉が聞きたかった」


 そう言うと銃を下ろしゆっくりと近づきてくる。


「猿渡さん」


「こう言うことは想像してないとでも、こっちは血の池地獄とか針山地獄を想定して来てんの」


「わかってるんですか」


「わかってるわよ、このままだったら2人揃って殺される、そこの所を温情で私だけにしてくれるって言ってる」


「そうですけど、猿渡さんは…」


「なら無関係な人間巻き込んで一緒に消えたほうがいい? 誰かを巻き込んで醜く死ねばいい? そんなの嫌よ死ぬのは1人でいい」


「それは…そうですけど……」


「だったら黙ってそこにいなさい」


「そもそもなんで死ぬかもしれないのにこんな街に」


 猿渡さんは一瞬だけ唇を噛んだが、すぐさまいつもの表情を浮べた。


「……内輪揉めか」


「ご、ごめんなさい」


「3分は待つと言ったはずだ」


 意外に優しいなこの人。


「アンタにはわかんないかもだけど、両親のことでずっと心にポッカリと穴が開いてた、それを塞ごってずっと頑張ってた

だけど…塞がることはなかった、けどこの街の存在を知った時その穴が少しだけ塞がった気がしたの」


「穴…ですか」


「そんな穴のために命をかけるなんて馬鹿って思うだろうけど。私にとってその心の穴を塞がないまま生きたくなかった、ただそれだけよ」


「そう……ですか……」


 「これで話は終わった」そう言うように猿渡さんは足を進める。


 これでいいんだよね。


 だって猿渡さんがいいって言うんだし、私はただの道案内だから……これで……


「決断したか、逃げないと言う選択をしたのは好感がいい」


「今頃アンタの好感度なんて上げてどうすんのさ」


「慈悲を与えてもいいと言う意味だ、話を聞いたら楽に殺してやろう」


「殺すなんだな、魂ごと消すとかじゃないの」


「わかりやすい様に言い直しているだけだ、気になるなら言葉を変えようか


「それはどうも」


 これで…いい、これで……いいのかな。


 本当に?


「………あ、あの」


 私の足は自然と動き、猿渡さんの手を強く握りしめると自分の方に引っ張る。


「え?ちょ…」


「ごめんなさい、これが私の答えです」


 クローシスさんに向けて指を差し、その指を下におろし、頭上に大量のナイフを作り出す。


「ほう」


 無数のナイフは落下し、真下にいるクローシスさん目かけて降り注ぐが、慌てることなく背中から生えてる足でナイフを弾き、銃口を上げる。


 私は手を強く握りしめ、この空間中に煙幕みたいに小麦粉を生成する。


「ごほごほ、何これライリー…これ…ごほごほ小麦粉?」


「チッ、古臭い手を…」


「銃使ったら当たり一面大爆発ですよ」


 少しでも火花が散れば粉塵爆発が起きる、これで銃を封じた。もし玉砕覚悟で使って来ても私なら問題なく対処できる。


「ゴホゴホゴホ…」


 騒ぐ猿渡さんを横目にクローシスさんの周囲を鉄の壁で囲み、内部を水で満たすと猿渡さんを引っ張り走り出す。


「ちょ、ちょっとライリー」


「に、逃げましょう猿渡さん」


「逃げようってあんた」


 水中に閉じ込めたけど、あの人ならすぐ抜け出す気がする。だから、とにかく時間を稼がないと。


 粉をさらに撒いて――そこら中に私たちそっくりのマネキンを作れば、少しは惑わせられるかもしれない。


 これで無理だった時のために今の内に別の手段考えておかないと…とりあえず図書館から出る時間は稼がないと。


「とりあえず…図書館を出たら、猿渡さんの能力で街を出て…いやそもそも私出れるのかな」


「待ちなさい」


 猿渡さんは足を止めて私の手を振り払う。


「さっきから何言ってんのあんた、何逃げる前提で話してんの、言ったよね私無関係な人間巻き込んで死ぬ気はないって」


「無関係…無関係なんですか私は」


「当たり前でしょ、あんたは私のマガママに付き合ってるだけ、無関係な他人よ」


「違います」


「何が」


「ずっと…ずーっと、私がどこの誰で何者なのか、どこで死んだのか、親が誰なのかどんな人生を送ったのか

ずっと気のせいだって、考えても無駄だって、そう自分に言い聞かせてた、心の奥底に閉まってたんです」


 心臓の音が激しく身体中に振動を与える、考えがまとまらない、自分の言ってることが正しいのか、そもそも猿渡さんにちゃんと伝わってるかわからない。


 走り出した私は止まらない、止めるつもりもない、頭に浮かんだ単語を吐き出す、正直な思いを正直な感想を全て…全て吐き出す。


「そんな……そんな、心に空いた穴を塞ぎたかった、だから猿渡さんに付き合ったんです、この心の穴を塞げるって思ったから

だから巻き込まれに行ったんです、自分の中のモヤモヤが、なんかこう…わからない気持ちが消えるって」


「……あんた」


「私は無関係なんじゃない、立派な共犯者です」


 小麦粉の煙の向こうで、猿渡さんと見つめ合う。表情はよく見えない。


 でも――顔色伺ってる時間はない。


 壁が壊れ、水が流れ出す音がした。


「猿渡さん死にたくないですよね」


「……わかった、とりあえずここを出るわよ、出たら空飛んで逃げるから、いい」


「は、はい」

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