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第16話 8本足

 ――私の答えが、誰かの命の形になる。

「次はどうする、足を6本生やすか、それともここで死ぬか」


 背中から蜘蛛の脚に似た6本の肢を生やす軍服の女性は暴発した銃を眺めながら語りかける。


「なるほど…銃身に火薬を作成したか、こいつとは長年の付き合いになるが…これでは使い物にならんな」


「え、あ…す、すみません」


「言ってる場合じゃないでしょ、私達あれに殺されそうになったのよ」


「そ…そっか、そうだよね」


 と言うか…武器のライフルは破壊したし、クローシスさんに残されてるのは糸と近接戦闘とあの異質な6本足だけ…まぁだけって数でもないけど。


 でも近接戦闘だけなら、私の能力があれば対処できるし糸も今なら分解できるし…なんと言ってもこっちは2人…


 戦争のプロとは言え、相手の能力は旧世代の化石。ニュースで見たんだ、能力は世代を跨ぐたび強くなる。


 クローシスさんは第二次世界大戦とかのそれぐらい昔の能力者、能力的には私達にも勝機はある、それに相手は武器がない。なら私達でも……


「仕方ない、次は…」


 ガバ!! そんな音を勢いよく立てながらクローシスさんの口が割れた。


「え?」


 口…というのは少し変かもしれない。


 なぜならクローシスさんの口は包帯で塞がっているからだ。


 何を言ってるかわからないかもだけど、包帯の上に、口みたいな裂け目が現れた。


 その裂け目がパックリ割れた。間違いなく。


「なに…あれ」


「包帯の上だよね」


 その口の中は真っ暗で歯も舌も何一つない。どこからどう見ても口じゃない、口に見える何かだ。


 そんな口の中に手を突っ込んだかと思うと、そこからライフルを取り出した。


「え…いや……え?」


「く、口から銃を」


 いやいやいやいや、それはないってそれはふざけてるでしょ、なんで口から銃が出てくるのどんなマジックなの。


 いや…でもあの口の中よく見たら分子がない?


 ないと言うより薄いと言うか、私の見たことのない分子で溢れてる、ダークマターって言えばいいのかな、そんな分子ばかり。


 ただ真っ暗なだけじゃない、あの口の先何かおかしい。


「驚いたような表情をするな」


「驚くわ!!なんで口からそんなのが出てくんのよ、と言うかずっとそんなの体に入れながら戦って…」


「いや…多分違うよ猿渡さん、多分あれ口の中に入れてるんじゃないよ」


「何言ってんのよ実際口から出てきてるでしょ」


「あれ多分別の空間とかそう言う感じのやつだと思う」


「別の空間?」


「なんだろう亜空間とか異次元とか神聖空間とか」


 そう言うと猿渡さんは何言ってんだこいつ頭おかしくなったのか、みたいな表情で冷たい目線を浴びせてくる。


 別に私ふざけてるつもりないんだけどな。


「とにかく別の空間に繋がってるんだよ、多分糸も体から出してるとかじゃなくてそう言う空間から出してる」


「え?何言ってんの別の空間とか…って」


「面白いことを言うな、あの世も別の空間のような物ではないか」


「……うんあ〜そっか、そう…だね」


 すっごい納得してない顔してる、と言うか今日ずっとそんな顔してる。


「と言うか…それならなんで口から出すの、糸も同じ原理なら銃も手首から出せばいいじゃん」


「そりゃ…演出じゃない」


「…………」


「…………」


「いやいやいや、バカねライリーそんなわけないでしょ、絶対に手から出さなかった理由があるに決まって……」


「別に手首から出そうと思えば出せるぞ」


 そう言いながらマジシャンのように手首から無数のナイフが溢れ出し、金属音が、雨みたいに床へ落ちた。


「…………」


「…………」


「演出だって」


「うっさいわね、と言うかなんであんたも突っ立ってんのよ。殺す気なら呑気に雑談なんてしてんじゃないわよ」


「……なんだ、そんなに殺して欲しいのか」


「いや…そうじゃないけど」


「私がこうして雑談しているのは、殺す前に一度対話を試みようと思ってのことだ」


「対話?」


「人を殺すのにも飽きがあるものだ」


 そう言うと顔を私に向ける。


「今すぐここを去ればライリー…お前に関して罪は問わん」


「え?」


「待って私は」


「不法侵入者が慈悲を乞うな」


「はいはい」


「案ずるなお前をここで殺す気はない、そもそも殺すつもりなら糸を巻き付けず殺している」


「ふーん、ここでって事は別の場所で殺すってこと?」


「最終的にはな。尋問後すぐに抹殺しその魂ひとかけらも残さない」


「尋問って…なんのために」


「聞かなければならない事が多くてな、どうやって来たとか誰の差金かとか」


「私は誰の差金でもない」


「だと言いがな」


 少し怒りの感情が見え隠れする猿渡さんと違い、クローシスさんからはなんの感情も感じない。お前なんていつでも殺せるって言う感じがする。


 猿渡さんを逃す気も許す気もないんだ、まぁ…それが当然と言えばそうなんだけどね。


 法律破ってるの私達の方だし。


「答えは出たかライリー」


「え、えーっとその…猿渡さんを見捨てれば私を許すと」


「そうだ、出会って34時間も経ってない人間のために命を捨てる必要はないだろ」


 それは…そう……だけど…自分の選択次第で人が死ぬのは嫌だし…


「う…うーん」


「ら、ライリー」


「そこまで悩むとは疑問だな、そもそも何故一緒に行動している」


「……そ、それは…えーっと……現世での私と私の両親について調べてくれるって」


「過去に囚われているな」


「悪いことですか」


「悪くはないが、その過去はお前が求める様な綺麗な物ではないかもしれないぞ」


 確かにクローシスさんの言う通りだ、私は自分の過去について何も知らない、もはや知らない方がいいのかもしれない。


 だけど…私は綺麗じゃなくてもいい。怖くてもいい。


 知らないままのほうが、ずっと怖い。


「それでも私は知りたいんです」


「なるほど。それなら答えを聞こうか」


 そう言いながら銃に弾を込めると銃を構える。


「過去とそこの女を捨て帰るかどうか、あと3分待ってやってもいい、とにかく決めろ」


「私は…」


 チラッと猿渡さんの方を見るとぶっきらぼうな猿渡さんの目が合った。


 気まずくなり目を離すと猿渡さんはため息をこぼしながら一歩足を踏み出した。


「ほう」


「ライリーの意見なんて必要ないわ、この世界のルールを破ったのも、ライリーにそのルールを破らせたのも私よ」


 そう言うと両手を差し出す。


「これ以上私のわがままに付き合わせるつもりはない、捕まえるなら私にして」


「猿渡さん!?」

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