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第8章 ウィルダネスの森

サイは昨日集まった広場へ走っていった。


受験者たちはすでに全員集まっており、その場は多くの人で賑わっていた。


「全員そろったか。」


レオンが周囲を見渡しながら言った。


「はい!」


受験者たちは声をそろえて返事をする。


「それでは、今日の試験内容を説明する。」


レオンは静かに話し始めた。


「ゴールド・オーガニゼーション本部の北側を見れば、一つの丘が見える。」


「その丘には『ウィルダネスの丘』があり、そのさらに奥にはウィルダネスの森が広がっている。」


「北ってどっちですか?」


サイが首をかしげる。


「本部は西を向いて建っている。」


「つまり、北は右側だ。」


「その方向に見える丘がウィルダネスの丘だ。」


「その奥にある森へ向かってもらう。」


レオンは続けた。


「今日の課題は、その森にしか生えない希少な『エルガ茸』を採ってくることだ。」


「えっ!?」


受験者たちは一斉に驚いた。


「つまり……。」


「僕たちはあの森へ入るんですか?」


一人の受験者が尋ねる。


「その通りだ。」


「ウィルダネスの森で、薄茶色の傘に白い斑点があるエルガ茸を探してもらう。」


「制限時間は十時間だ。」


「どうしてそんなことをするんですか?」


別の受験者が尋ねた。


「エルガ茸は非常に珍しい茸だ。」


「できるだけ多く採取し、この町で好きな値段をつけて売ってこい。」


「売った金で昼食を買ってもらう。」


レオンはそう説明した。


「それだけですか?」


受験者たちは尋ねる。


「そうだ。」


「それも評価対象になる。」


(ちょうどいい!)


(僕も朝ご飯を食べてないし、いい機会だ。)


サイは心の中でそう思った。


「ただし、一つだけ覚えておけ。」


レオンは表情を引き締めた。


「この森は、すべてが未開の森というわけではない。」


「百キロほどまでは普通の森林だ。」


「しかし、それより奥へ進めば、人の手が入っていない本当の原生林になる。」


「だから、百キロより奥へ入ってはいけない。」


「分かったか。」


「はい!」


全員が力強く返事をした。


「よし。」


「バスへ乗れ。」


「これからウィルダネスの森へ向かう。」


***


全員がウィルダネスの森の入口へ到着した。


その森は本当に広く、木々が生い茂り、とても涼しい場所だった。


サイは思わず身震いする。


「なんだか怖いな……。」


緑豊かではあるが、森というものは危険な場所でもある。


「それでは、我々はここで皆さんの帰りを待っています。」


レオンはそう言った。


「すぐに行動を開始し、任務を遂行してください。」


「はい!」


参加者たちは次々と森の中へ入っていく。


サイもその後について歩き始めた。


大きな森の奥へ足を進める。


参加者たちはそれぞれ散らばり、森のあちこちを調べ始めた。


時間が経つにつれ、皆さらに奥へ進んでいく。


「エルガ茸はどこだろう。」


「まだ見つからないな。」


その時――


サイは足を止めた。


何かが聞こえた。


低いうなり声だった。


「な、何の声……?」


サイは恐る恐る辺りを見回す。


しかし何も見つからない。


「おい!」


「誰だ!」


サイは近くにあった石を拾い、適当な方向へ投げた。


うなり声は止まった。


一瞬だけ安心した。


しかし次の瞬間――


石が当たった相手を見て、サイは震え上がる。


虎だった。


「ま、まずい……。」


虎は鋭い目でサイを見つめ、今にも飛びかかろうとしていた。


(逃げなきゃ!)

サイはすぐに走り出した。


虎は大きく咆哮し、猛スピードで追いかけてくる。


「助けて!」


サイは走りながら叫んだ。


「誰か助けて!」


ドサッ!


サイは石につまずき、転んでしまう。


慌てて立ち上がろうとしたが、その前に虎はすぐ近くまで迫っていた。


その時、サイは気付く。


虎の首に何かが付いている。


首輪のようなものだった。


(あれは……何だ?)


サイは考える間もなく、先ほどの石を拾って虎へ投げつけた。


石は見事に命中した。


虎が痛みにひるむ。


今しかない。


サイはすぐに走り出した。


全力で虎から離れていく。


(あの虎……どこから来たんだ?)


(まだそんなに奥へ入っていないのに……。)


(どうしてここに猛獣がいるんだ?)


サイは混乱していた。


しかし、それだけでは終わらない。


虎は再びサイを追い始めた。


サイはさらに慌てて走る。


(どうして追いかけてくるんだ?)


(もうかなり離れたはずなのに……。)


(まさか……僕を狙ってる?)


虎は再び大きく吠える。


サイはさらに速度を上げた。


(立ち止まるわけにはいかない!)


(このままじゃ殺される!)


走りながら虎を見る。


赤いランプが付いた首輪が目に入る。


(テレビで見たことがある。)


(ああいう首輪を付けられた動物は、誰かに管理されていることが多い。)


(あの首輪を外さないと!)


サイは急な下り坂へ向かって走った。


かなり深い斜面だった。


落ちる直前――


サイは素早く右へ飛び退く。


虎は止まれなかった。


そのまま滑り落ちていく。


サイは立ち止まり、その様子を見つめた。


虎は何度も転がり続ける。


そして最後に一本の木へ激突した。


頭を強く打ち、そのまま動かなくなる。


気絶したようだった。


サイは急いで斜面を下りる。


慎重に滑り降りながら、虎の様子を確認した。


虎の体は泥だらけになっていた。


動かない。


しかし、生きていることは分かった。


「ごめんね……。」


サイは近くの石を拾う。


「でも、こうするしかなかったんだ。」


石同士をぶつけて割る。


鋭い破片を作り出した。


「今助けるから。」


サイは首輪を切ろうとする。


しかし思うように切れない。


「どうしてこんなに硬いんだ?」


何度も挑戦する。


それでも首輪は半分ほどしか切れなかった。


「この首輪……。」


「何でできてるんだ?」


サイは疲れ切っていた。


「しまった。」


「ここへ来た目的を忘れてた。」


その時――


虎の体が少し動く。


サイはすぐに立ち上がり、逃げる準備をした。


虎は再び立ち上がる。


まるで何事もなかったかのようだった。


(そ、そんな……。)


虎は再びサイを睨みつける。


今にも飛びかかろうとしていた。


(逃げなきゃ!)


サイは再び走り出した。


虎は咆哮を上げながら、その後を追う。


木の陰では、カイが不安そうな表情で様子を見守っていた。


(サイ……。)


(あまり遠くへ行くな。)


(まだ百キロには達していないが、お前の足が速すぎる。)


(このままじゃ俺でも追いつけない。)


(自分が見守られていることなんて知らないだろ。)


もちろんサイはそんなことを知らない。

ただ必死に走り、木々を飛び越えながら虎から逃げ続けた。


やがて虎の姿は見えなくなる。


サイは走りながら後ろを振り返る。


もう追ってきてはいなかった。


(助かった……?)


サイは足を止める。


大きく息を吐いた。


「よかった……。」


疲れ切った足取りで一本の木へ向かう。

その根元へ座り込んだ。


「はぁ……。」


「すごく疲れた……。」


その時――


何かの上に座っていたことに気付く。


「ん?」


「何の上に座ったんだろう。」


立ち上がって確認する。


その瞬間、目を輝かせた。


「茸……。」


「エルガ茸だ!」


間違いない。


薄茶色で白い斑点がある茸だった。


「やった!」


サイは急いでリュックを開け、見つけたエルガ茸を中へ入れた。


***


昼になった。


サイはエルガ茸を探しながら、森の中を歩き続けていた。


木々の葉に遮られながらも、太陽の光が少しだけ森の中へ差し込んでいる。


サイは空を見上げた。


「もうお昼か。」


「喉が渇いたな。」


「ずっと歩いていたのに、飲み物を持ってきていない。」


サイは周囲を見回しながら森の中を歩き続ける。


その時――


突然、足を止めた。


「待って……。」


「あの音は……。」


サイは耳を澄ませる。


「川の流れる音だ!」


サイは音のする方向へ向かって走り出した。


まっすぐ前へ駆けていく。


しかし足元を見ていなかった。


気づいた時には、急な斜面へ転げ落ちていた。


「うわあぁ!」


ドサッ!


「いたっ!」


ゴロッ!


ゴロッ!


サイはそのまま下まで転げ落ちた。


「いたた……。」


サイはすぐに立ち上がり、腕を押さえる。


辺りを見回す。


そこは木々が途切れた川辺だった。


太陽の光が直接差し込み、とても美しい景色が広がっている。


サイは川へ歩いて行く。


「やっと水だ。」


両手ですくった水を飲み、満足そうに息をついた。


リュックから水筒を取り出す。


「あとで飲めるように、水を入れておこう。」


そう言って水筒へ水を入れる。


「ねえ。」


「あなた誰?」


突然、一人の少女が現れた。


サイより二、三歳ほど年上に見える。


「えっ?」


サイは少女のほうを見る。


「あなたもゴールド・オーガニゼーションの受験者?」


「は、はい。」


サイは答えた。


(この人、僕より二、三歳くらい年上かな。)


「ちょうどよかった。」


「ここに水があったんだね。」


「私も飲み物がなくなっちゃって。」


少女は言った。


「じゃあ、どうして飲まないんですか?」


サイは再び水筒へ視線を戻しながら尋ねる。


「先に景色を楽しみたいの。」


「ここ、とてもきれいだから。」


少女は微笑んだ。


サイは小さくうなずく。


ちょうど水を入れ終えたところだった。


「そういえば。」


「エルガ茸は見つけた?」


少女が尋ねる。


その背後では、一頭のゴリラが木の上から静かに飛び降りていた。


少女はまだ気づいていない。


「見つけました。」


「でも、あまり多くはありません。」


サイはそう答えながら少女の後ろを見る。

その瞬間、目を見開いた。


「危ない!」


「えっ?」


少女が振り向こうとした瞬間――


ゴリラは巨大な腕で少女を弾き飛ばした。


少女の体は大きな岩へ激突する。


岩には大きなひびが入った。


サイは言葉を失う。


少女はすでに息絶えていた。


頭から大量の血が流れている。


「ま、まずい……。」


サイは恐怖でゴリラを見つめた。


その時、首にあるものが目に入る。


首輪だった。


しかも、半分だけ切られた首輪。


「う……嘘だろ……。」


サイは信じられなかった。


ゴリラは胸を何度も叩き、大声で叫ぶ。


サイはすぐに立ち上がり、その場から走り出した。


ゴリラも勢いよく追いかけてくる。


サイは全力で走る。


周囲を見回しながら、逃げ道を探した。


(まずい……。)


(状況が悪くなる一方だ。)


(何とかしないと!)


サイは川のほうへ目を向ける。


さらに先を見る。


川の流れはどんどん速くなっていた。


その先には、大きな岩が一つだけある。


(あそこしかない。)


周りには他の岩はない。


川の真ん中にあるその岩だけに、つる植物が絡みついていた。


(やるしかない!)


サイは思い切って川へ飛び込んだ。


ゴリラは足を止める。


流されていくサイを見つめていた。


サイは流れに耐えながら、大岩へ近づく。


(今だ!)


(つかまえろ!)


その瞬間、サイはつる植物をつかむことに成功した。


激しい流れに耐えながら、岩へ近づいていく。


幸い、ゴリラはそのまま立ち去った。


サイが落ちてきた坂道のほうへ走っていく。


サイはつるを引っ張り、大岩へ体を寄せる。


そして苦労しながら岩へ登った。


息は荒く、疲れ切っていた。


「休んでいる時間はない。」


サイはつる植物を引きちぎる。


その先端へ中くらいの石を結びつけた。


何度か振り回し、近くの木の枝へ投げる。


つるは枝へしっかり絡みついた。


サイは必死に登り始める。


疲れていたため簡単ではなかった。


それでも、何とか枝の上までたどり着いた。


サイは枝の上でしゃがみ込む。


「ゴリラは……。」


「もう行ったかな。」


ゴリラが去った方向を見る。


もう姿は見えなかった。


「まずい!」


「ほかの受験者に会ったら!」


サイがそう思った瞬間――


ゴリラのいる方向から、ほかの受験者たちの悲鳴が聞こえてきた。


サイは驚き、枝から枝へ飛び移りながら、その声のする方向へ向かった。


***


「報告します!」


一人の試験官が携帯電話を取り出し、慌てた様子で言った。


「状況が急変しました!」


「すぐに試験を中止してください!」


携帯電話の向こうから声が聞こえる。


「何があった?」


「何が起きている?」


「参加者たちが……。」


「いえ、これは想定外です。」


試験官は焦った表情で答えた。


「本来なら、こんなことが起こるはずではありませんでした。」


「ですが、どこから現れたのか分からないゴリラが、突然参加者たちを襲い始めました!」


電話の向こうの声がすぐに返ってくる。


「分かった。」


「すぐに増援を送る。」


「それまで持ちこたえてくれ。」


「はい!」


試験官は力強く返事をした。


その時――


「おい!」


「何をしている!」


カイがついに物陰から姿を現した。


「早く参加者たちを助けろ!」


「はい!」


試験官たちは一斉に動き出し、カイと共にゴリラを止めるため森の奥へ駆け出した。

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