第70章:失敗した任務
「お前に何がわかるんだ?!」
ルーカスが言った。
「お前だって失礼な態度を取っていると思わないのか?! 忘れたのか、俺はお前たちより二歳も年上なんだぞ。それなのに、お前も礼儀というものを知らないらしいな!」
「誰にでも礼儀正しくする必要はない!」
ルイスが言い返した。
「そんなふうにあいつをかばったら、あいつは守ってもらうことしかできないオカマみたいに見えるだろ!」
「こいつは優しすぎて、時々馬鹿みたいに見えるんだ。だから俺が、暴力ってものを教えてやらなきゃならないこともある」
ルイスが言った。
「おお? 殴り合いをしたいのか、ああ?!」
ルーカスが言った。
「かかってこい! 怖くなんかないぞ!」
ルイスが言い返した。
「二人とも、やめろ!」
「ゴツン!」
サイは二人の頭を殴った。
「あいつのことは放っておけ! ここで決着をつけてやる!」
ルーカスは痛そうに頭を押さえながら言った。
「いいだろう! どっちが勝つか、はっきりさせてやる!」
ルイスはルーカスの襟をつかんだ。
「ガシャーーーン!」
二人は反射的にガラスの壁を振り返った。壁は粉々に砕け、長銃を持った三人の男が姿を現した。
「まずい! 油断していた!」
サイが言った。
「動くな! その鞄を渡せ!」
真ん中にいた男が、彼らに銃を向けながら言った。
「構うな! 早く鞄を確保しろ!」
ルーカスが言った。
三人はすぐにそれぞれ一つずつ鞄をつかんだが、残りの一つがぶつかった拍子に床へ落ちてしまった。
「くそっ!」
サイはそれを拾おうとしたが、男たちがサイの手に向けて発砲し、弾は危うく手に当たりそうになった。
「間に合わない!」
サイはとうとう引き下がり、ルイスとルーカスについていった。
「追え!」
男が命令した。
三人の男たちは、すぐに彼ら三人に向かって発砲した。サイ、ルイス、ルーカスは研究所から飛び出して走った。
そのうち二人が研究所の外まで彼らを追いかけ、サイたちに向かって撃ち続けた。三人は自分たちに飛んでくる弾を、次々とかわし続けた。
「ふざけやがって! いきなり現れやがった!」
ルーカスが言った。
「早く寮に戻らないと。でも、あいつらをそこまで連れていくわけにはいかない」
ルイスが言った。
「でも、俺たちに与えられた任務は、逃げながら鞄を持ち出して守ることだ。敵と戦うことじゃない。まして、遠距離武器を持っている相手とはな」
ルーカスが言った。
「少なくとも、あいつらの動きを止めなきゃ!」
サイが言った。
サイは後ろへ手を払った。すると、手から光が放たれ、二人の男の目に向かって飛んでいった。
「あっ!」
二人はすぐに立ち止まり、目を押さえた。
「目が!」
二人は苦しそうにしていた。
「よし! これで俺たちを見失うはずだ!」
ルーカスが言った。
彼らはそこから逃げるため、さらに足を速めた。
「逃げられると思っているのか?!」
突然、残った一人の男が彼らの行く手をふさいだ。
「まずい!」
三人が言った。
「お前たち、早く鞄を全部持っていけ!」
ルイスは自分が持っていた鞄をサイに投げ渡した。
「こいつは俺が相手をする!」
ルイスの手に長銃が現れた。
「わかった。任せたよ」
サイはそう言い、ルーカスと一緒にその場を離れた。
「こいつ、なかなか度胸があるガキだな?」
男はルイスに銃を向けた。
「元素の使い手はやっぱり違うな」
そう言って、男はすぐに発砲した。
ルイスも撃ち返した。二人の弾丸がぶつかり合い、火花と小さな金属片が飛び散った。そして、二つの弾丸は互いに砕けた。
「くそっ!」
男はルイスに向かって撃ち続けた。ルイスはすぐにその攻撃をすべてかわした。
「突っ立っているんじゃないぞ、ガキ! 実力を見せてみろ!」
男はルイスを蹴った。ルイスはその足をつかみ、振り回して、男をかなり遠くまで投げ飛ばした。
「ああっ!」
男は地面に叩きつけられ、苦しそうに声を上げた。
「なあ、おっさん。俺たち元素の使い手には、元素を使わない相手と戦うときは元素を使わない、という暗黙のルールがあるんだ」
ルイスが言った。
「でも、実際には絶対に守らなきゃいけないわけじゃない。使い手が容赦できるかどうかにもよる。結局は状況次第だろ?」
ルイスは男に銃を向けながら言った。
「このガキめ!」
男は再び立ち上がり、ルイスに向かって走ってきた。
「ここで死んでも、俺を恨むなよ!」
男はまたルイスに向かって発砲した。
ルイスも弾をすべてかわしながら、男に向かって走った。
二人の距離が縮まると、ルイスは高く跳び上がり、男を驚かせた。
ルイスはすぐに銃の後ろ側で男の頭を殴った。
「ドカッ!」
男はそのまま地面に叩きつけられた。
ルイスは地面に着地し、男のほうを振り返った。
「どうやら気を失ったようだな」
「早くあいつらに追いつかないと」
ルイスはそう言い、走り去った。
ルイスは、たくさんの木が生えている公園を通り抜けて走った。
「ルイス!」
誰かが呼ぶ声が聞こえた。
走り続けながら、ルイスは前方の遠くにある木を見た。そこにはサイとルーカスがいた。
「あいつらだ!」
ルイスが言った。
「早くこっちに来い、馬鹿!」
ルーカスが言った。
ルイスはすぐに走る速度を上げた。
サイは木から飛び降り、ルーカスに足をつかまれた。
サイは、木の下まで来ていたルイスの手をつかみ、そのまま引っ張り上げた。
「お前たち、ここで何をしているんだ?」
ルイスが尋ねた。
「警戒しているんだ」
ルーカスが答えた。
「あっちを見て」
サイは、ルイスが走ってきた道のほうを遠く指さした。
そこには、先ほどサイが動きを止めた男の一人がいた。男は、人気のない大通りの端を歩いていた。
「尾行されていることに気づかなかっただろ? 幸い、あいつらはお前を見失ったんだ」
サイが言った。
「じゃあ、あいつらはまた立ち上がったのか。ボスは俺が倒しておいてよかったな」
ルイスが言った。
「盗まれた鞄は取り返したのか?」
ルーカスが尋ねた。
「あっ、そうだった! 忘れていた!」
ルイスが言った。
「さっき俺たちを待ち伏せしていたボスは、鞄を持っていなかっただろ?」
サイが言った。
「まさか、あいつらが隠している車の中にしまったんじゃないだろうな?」
ルイスが言った。
「もう、どうしてこんなに面倒なことになるんだ?」
ルーカスは頭をたたいた。
「お前、あの一人を相手にしてみないか? まだ出番がないだろ」
ルイスが言った。
「そうだな。俺もお前の元素の能力を見たことがないし」
サイが言った。
「それがどうした? 俺の弱点でも探したいのか?」
ルーカスが言った。
「もう少し前向きに考えられないのか?」
サイが言った。
「わかった。あいつは俺が相手をする」
ルーカスは木から降りた。
「危険な状況ではないから、元素の使い手の暗黙のルールに従うことにする」
ルーカスはそう言うと、その場から走り去った。
「何をするのか見てみよう」
ルイスが言った。
二人は、ルーカスが男に近づいていくのを見ていた。
男はすぐにルーカスに向かって発砲した。しかし、ルーカスは進み続け、高く跳び上がると、男の頭を蹴り飛ばして地面に叩きつけた。男はそのまま気を失った。
「こんなに簡単に?!」
二人は驚いた。
「よし、研究所に戻ろう。あいつらの車が近くにあるかもしれない」
ルイスが言った。
「わかった」
サイが答えた。
そのとき突然、大通りを一台の車が猛スピードで走ってきて、ルーカスのいる場所へ近づいた。運転席のドアは開いていた。
車がルーカスのそばを通り過ぎると、運転手はルーカスに倒された男の体を車内へ引きずり込んだ。その男は、先ほどサイが動きを止めたもう一人だった。
「な、何だ?!」
ルーカスは驚いた。
車はその場を走り去り、サイとルイスが隠れていた木のそばも通り過ぎた。
「は、速すぎる!」
ルイスは驚いた。
「ルーカスは何もする暇がなかった!」
サイが言った。
「くそったれ! これじゃ、あいつらに薬を奪われたままじゃないか!」
ルーカスは怒鳴った。
***
「えっ?! 襲撃されたのか?!」
三人がある部屋で報告すると、エリオさんは驚いて言った。
「そうです。遠距離武器を持った三人組に襲われました」
ルーカスが答えた。
「まさか、こんなに早く来るとは思わなかった」
エリオさんが言った。
「残念ながら、持ち出せたのはこの三つの鞄だけです。残りの一つは、あいつらに奪われました」
サイはそう言い、三つの鞄をテーブルの上に置いた。
「な、何だと?! 奪われたのか?!」
エリオさんは驚いた。
「はい。ずっと撃たれていたので、取りに戻る暇がありませんでした」
サイが言った。
「これはまずい。無責任な人間にあの薬を使われたら、今後、大変なことになるかもしれない」
エリオさんが言った。
「でも、君たちは元素を使っていないよな?」
彼は尋ねた。
「サイが、さっき敵の動きを止めるために使いました」
ルイスが言った。
「でも、君たちが持っていた薬には当たっていないだろう?」
エリオさんは再び尋ねた。
「はい。どうしてですか?」
ルーカスが言った。
「薬の機能は元素に触れると損なわれる可能性があるんだ。だから元素を使わないようにと言ったんだ。それに、襲撃されたら、わざわざ戦わずにすぐ逃げるようにとも言っただろう?」
エリオさんが答えた。
「どうして最初から言ってくれなかったんですか? それなら、奪われた鞄のほうに元素を当てて、薬の機能を損なわせればよかったのに」
サイが言った。
「伝えるのを忘れていた。すまない」
エリオさんが言った。
「だが、君たちのメンターによると、ここの問題に対処するため、二人を呼んだそうだ」
そう言って、彼は誰かに電話をかけた。
「もしもし? もう出発したか?」
彼は尋ねた。
***
「はい! もうすぐ八番街に着陸します」
飛行機の客室で、窓のそばに座り、ムーイの隣にいたカイが答えた。
飛行機は夜空を飛んでいた。眼下には、まだ明るく見える八番街の街並みが広がっていた。
***
「ドン!」
ルーカスはグラスをテーブルに乱暴に置いた。
「くそっ! あいつらに盗まれた鞄を、すぐに探しに行かなかった俺たちは馬鹿だった!」
ルーカスは苛立った様子で言った。彼らは食堂のテーブルでジュースを飲んでいた。
「ルーカス、お前は酔っ払いみたいだな」
サイはルーカスの様子を見て言った。
「俺は問題が山積みになると、いつもこうなるんだ! たくさん飲んで何が悪い?!」
ルーカスが言った。
「お前、よく酒を飲むのか?」
ルイスが尋ねた。
「酒を飲むなんて言ってないだろ! 普通の水かジュースを飲んでいるだけだ!」
ルーカスが言い返した。
「変な習慣だな」
サイが言った。
ルーカスは再びジュースを飲んだ。
「それに、俺は酒を飲める年齢じゃないんだ!」
ルーカスが言った。
「じゃあ、飲める年齢になったらバーに行くのか?」
ルイスが尋ねた。
「そんな不道徳な飲み物には絶対に手を出さない! 俺が酒好きだなんて、一言でも言ったか?!」
ルーカスが言った。
「もういい! お前たちのせいで、ますます腹が立ってきた!」
彼はそう言った。
「さっき喧嘩しなければ、こんな不注意なことにはならなかったんだぞ」
ルイスが言った。
「そもそも、誰が先に始めたんだ?!」
ルーカスが言った。
「お前があのとき、ちゃんとした態度を取っていれば、俺だって始めなかった!」
ルイスが言い返した。
「俺だけが悪いっていうのか、ああ?!」
ルーカスが言い返した。
「違う、悪いのはお前たちじゃない! 世界で一番悪いのは僕だよ」
サイはうんざりして言った。
「喧嘩をやめなさい!」
突然、食堂のおばさんがやって来て、料理を載せたトレーでルーカス、ルイス、サイの頭をたたいた。
サイは驚いた。
「どうして僕まで?!」
三人はそろって頭を押さえた。
「もう夜なのに、何を騒いでいるの! それに、どうして冷たい飲み物なんか飲んでいるの?」
おばさんが言った。
「喉が渇いていたんです、おばさん。さっき大変な任務を終えたばかりなんです」
ルイスが言った。
「あなたたちみたいな子供に、どんな大変な任務があるっていうの? 組織の人間だとしても、まだ小さいじゃない。何ができるっていうのよ」
おばさんが言った。
「おばさんは僕たちの味方をしたいんですか? それとも、見下したいんですか?」
ルーカスが言った。
「まあいいわ。今日は機嫌がいいから、あなたたちに料理を作ってあげる」
そう言って、おばさんは厨房へ向かった。
「こんな夜中に?」
ルーカスが言った。
「そもそも、俺たちはさっき夕食を食べたか?」
ルイスが言った。
ルーカスは鼻を鳴らした。
「こうなったら、あの三人が薬を使って強くなり、あちこちで悪事を働いている可能性に備えなきゃならない」
ルーカスが言った。
「全部が全部、俺たちのせいってわけじゃないだろ」
ルイスが言った。
「そうだよ。それに、レオンさんはここで起きているいくつかの問題を手伝ってもらうために、二人を呼んだって言っていた」
サイが言った。
「でも、誰を呼んだんだろうな?」
ルイスが言った。
「一人は若いらしい。でも、俺たちみたいな子供のことを言っているのかな? 若いメンバーなら、俺たちはもう全員ここにいるだろ?」
ルーカスが言った。
「ラジ兄さんやカイ兄さんくらいの年齢のメンバーかもしれない。あの人たちも、まだ若いだろ」
ルイスが言った。
「いや、レオンさんは、俺たちと同じくらいの年齢だと言っていたよ」
サイが言った。
「それなら、最も可能性が高いというか、ほかに候補は一人しかいない。ムーイだ」
サイが言った。
「はあ? どうしてあいつなんだ?」
ルーカスが言った。
「あいつに任務がこなせるのか? それに、ほかにも問題があるだろ?」
ルイスが言った。
「あの子もソフィア姉さんから元素を学んでいるんだ。だから、ソフィア姉さんと同じ元素を持っているんだよ」
サイが答えた。
「誰が来るかなんて、好きに予想していろ。大事なのは、そいつが任務をこなせるかどうかだ」
ルーカスは再びジュースを飲んだ。
***
翌朝……
「まあ! これから話す内容を、もう準備しているのね?」
何人かの女性や中年の男性と一緒にセミナー会場を掃除していた女性が声をかけた。
「はい。セミナーの途中で慌てて作りたくないですから」
ラジは人体の解剖図を板に描きながら答えた。
「彼らの組織は本当にすごいですね。以前、まだ十三歳だったのに、講演者として招かれたメンバーもいましたよ」
男性職員が言った。
「ああ、確か名前はサトリアだったかしら。六年前に亡くなったと聞いたわ」
女性職員が言った。
「残念ですね。しかも、五番街では彼を悪く言う噂まで流れていましたし」
男性職員が言った。
「でも、彼らの組織はほとんどの世代に、すごい人材がいるんじゃないですか? 今の組織の長であるアグラタさんも、昔はそうでしたし」
女性職員が言った。
「それから、彼らの組織でメンターを務めているレオンさんもいますし、その後にはカイもメンターになりましたね」
男性職員が言った。
「でも、カイはあまり姿を見せませんね」
女性職員が言った。
「ラジ、これから大物になりそうな若いメンバーはいるのかい?」
男性職員が尋ねた。
「実は、彼らはそれほど目立ってはいません。でも、これからきっと、彼らもすごい人材になると信じています」
ラジ兄さんが答えた。
「わあ、私は本当に彼らの組織のファンなんです!」
男性職員が言った。
「将来、アグラタさんの後を継ぐのは誰になるのかしら?」
女性職員が言った。
「アグラタさんは二十五歳で組織の長になったんですよね。彼より若い年齢で長になる人はいるでしょうか?」
男性職員が言った。
「もしそんな人がいたら、とてもすごいことね」
女性職員が言った。
そのとき突然、ラジは口を押さえながら咳き込んだ。
二人は振り返った。
「ラジ、大丈夫?」
女性職員が尋ねた。
「大丈夫です」
ラジは答え、作業を続けた。
「うちの子も、いつかあの組織に入りたいと思うかしら?」
女性職員が言った。
「お子さんはまだ年齢が足りないだろう」
男性職員が言った。
「そうね。でも、あの子に何かあったらと思うと心配なの。危険も大きいでしょう?」
女性職員が言った。
「それなら、あなた自身が入ったらどうだい?」
男性職員がからかった。
「えっ? 私はもうこんなに年を取っているし、あそこで必要とされるような能力もないわ」
女性職員が言った。
男性職員は笑った。
「冗談だよ」
二人が話し続ける間も、ラジは人体の下半身まで描き続けていた。
しかし、脚の部分を描いていたとき、突然、彼は床に倒れた。その拍子に、脚の絵は下へと引きずられ、線が乱れた。
「ドサッ!」
二人の職員は振り返った。
「大変! ラジ、どうしたの?!」
女性職員が慌てて叫んだ。
「早く彼を助けて!」
男性職員が言った。
その一方で、さっき咳き込んだときにラジが口を押さえていた手には、血がはっきりと付着していた。




