第65章:勉強
「ここには国のデータが載っている本が、あまりないみたいだな」とルイスは言い、サイとミシェルが座っている机の近くにある本棚を探していた。
「今いるのは八番街だからね。ここでは国の情報はそれほど重視されていないんだ」とサイが言った。
「どうして?」とミシェルが言った。
「ヌメシアがひどい国に変わってから、ワステンド市以外の都市は政府に頼らなくなり、地域ごとの政府を作ったんだ。簡単に言えば、政府ではなく、それぞれの市長を基準にして街を運営しているんだよ」とサイが言った。
「そのせいで、まるでどの街も同じ国に属していないみたいなんだ」と彼は言った。
「それでも、すべての街が政府の支配下にあるなら意味がないけどな」とルイスは本を持ちながら、二人のところに座った。
「仕方ないよ。少なくとも、そうすれば政府が干渉してくる可能性を減らせるから」とミシェルが言った。
「実際、政府は僕たちのことをそれほど気にしていないんだ。ただ、政府の部下たちが騒ぎを起こしているだけだよ。政府がそれを認めているか、放置したり気にかけなかったりしているからね」とサイが言った。
「この街は独立してやっていく自信があるみたいだな。だから、国の情報をあまり保存する気がないんだろう」とルイスが言った。
「でも、国家について学ぶことも大切だからね。だから少しだけでも保存しているんだ」とサイが言った。
「それなら、僕たちは勝てるかな?」とミシェルが言った。
「勝てる可能性はあるよ。僕たちの知識はそこまで少なくないし、それにラジ兄さんにも勉強を教えてくれるよう頼んであるから」とサイが言った。
「でも、討論のときに相手がワン・シティ・ファイブ・スクールズになる可能性もあるぞ」とルイスが言った。
「あの人たちも、みんな頭がいいんだぞ」と彼は言った。
「そんなに悲観的にならないでよ。どうしたのさ」とサイが言った。
「君が集中できれば勝てるよ」とミシェルが言った。
「どういう意味だ?」とルイスが言った。
「もし彼らと対戦することになったら、ララが出てくる可能性があるでしょ」とミシェルが言った。
「彼女に邪魔されるかもしれないよ」とミシェルはからかった。
「僕はもう彼女を断っただろ! しかも、それは君の判断を通してだぞ!」とルイスは腹を立てて言った。
「僕と彼女をくっつけようとするな!」
「誰がくっつけようとしているの? 私はそんなことしていないよ」とミシェルが言った。
「でも、僕をからかっただろ?!」とルイスが言った。
「どうしてそんなに騒がしいんだ?」突然、ラジ兄さんがやって来た。
「ラジ兄さん?」と三人が言った。
「ここで勉強していると思っていたのに、こんな話をしていたのか」とラジ兄さんは言い、三人のところに座った。
「だって、ある女子生徒がルイスを好きなんだよ。ルイスはその子と付き合ってもいいの?」とサイが言った。
「おい!」とルイスは腹を立てて言った。
「今はまだだめだ。恋愛のことは、もっと大人になってから考えればいい」とラジ兄さんが言った。
「それより、勉強するか、もっと役に立つことをしたほうがいい」と彼は言った。
「その通りだ! 僕たちはまだ幼すぎる!」とルイスが言った。
「ラジ兄さんだって、まだ恋人がいないじゃないか!」
「それはどういう意味だ?」とラジ兄さんが言った。
「でも、どうして君はあの女子生徒が好きじゃないの?」とサイが言った。
「さあね。あの子は優しく振る舞うし、いつも笑顔なのに、どうしても好きになれないんだ」とミシェルが言った。
「でも、あの子はルイスに自分の気持ちを直接伝えるなんて、すごく勇気があるよね」とサイが言った。
「その話はもうやめろ! 今は勉強したほうがいい!」とルイスは腹を立てて言った。
「ほかの友達はどこにいるんだ?」とラジ兄さんが言った。
「図書館の反対側で、七人で勉強しているよ」とサイが言った。
「私たちがあの子たちと別れて勉強したい理由も、いくつかあるんだ」とミシェルが言った。
「まったく、お前たちはもう少し仲良くできないのか?」とラジ兄さんが言った。
「あいつらが先に始めたんだ。特に、あのクラス委員長がな」とルイスが言った。
「あいつが問題の元凶なんだ。ほかのやつらは、あいつの言うことに従い続けている」と彼は言った。
「分かっているよ」とラジ兄さんが言った。
「サイがルーカスと喧嘩したとき、僕はアカデミーに呼び出されたことがある」と彼は言った。
「えっ? どうして呼び出されたの?」とサイは驚いて言った。
「本来なら、君の訓練教官であるレオンさんが呼び出されるはずだった。でも、彼はサイをボランティア階級に昇格させるための証明書の手続きをしていたから、代わりに僕が呼び出されたんだ」とラジ兄さんが言った。
サイは恥ずかしそうに笑った。「迷惑をかけてごめん」とサイは恥ずかしそうに言った。
「まあ、もういいよ。それより、最初の試合に出てきそうなことや、関係しそうなことをすぐに話し合おう」とラジ兄さんが言った。
「今回の試合では、全員が討論の段階に進めるわけじゃない」
「えっ? どうして?」とルイスが言った。
「最初の段階では、各チームが協力して、試合の主催者から出される筆記問題に答えるんだ。最も高い点数を取った二つのチームが、次の段階に進める」とラジ兄さんが言った。
「緊張してきた」とミシェルが言った。
「兄さん、討論のやり方を教えてくれない?」とルイスが言った。
「僕はめったに話さないのに、そんなことについて君たちに何を教えられるんだ?」とラジ兄さんが言った。
「だからって、誰かと言い争ったことが一度もないわけじゃないでしょ?」とミシェルが言った。
「実際、ためらわず、討論のテーマをはっきり理解して、相手を言い返せなくできれば勝てる。大まかに言えば、そういうことだ」とラジ兄さんが言った。
「でも、あの日、罰として掃除をさせられたとき、誰がほうきを取りに行くかでステラ姉さんと口論したのに、兄さんは彼女に言い返せなかったじゃないか」とルイスが言った。
「あれは別だ」とラジ兄さんが言った。
「それなら、何について話し合えばいいの?」とサイが言った。
「国の問題や、それに似た話題が出る可能性がある」とラジ兄さんが言った。
「少なくとも、それぞれの街が抱えている問題と、どうすれば助けられるかを知っておく必要がある」と彼は言った。
「でも、そういうことはここには何も記録されていないよ」とルイスが言った。
「だからラジ兄さんを呼んだんだよ。兄さんならきっと知っているから」とサイが言った。
「どうして兄さんも、こんなことを勉強していたの?」とミシェルが言った。
「ロッキーさんにやるよう言われたんだ。将来、役に立つかもしれないって」とラジ兄さんが言った。
「どうしてレオンさんは、ロッキーさんみたいに僕にいろいろ勉強するよう言わないんだろう?」とサイが言った。
「レオンさんは、君がこの年齢であまり多くの負担を背負わないようにしているのかもしれない。ロッキーさんが僕にそう言ったのは、僕が十四歳のときだったから」とラジ兄さんが答えた。
「それなら、あとで読み返せるように、今の話し合いをノートに書いておくよ」と彼は言い、ペンを本に近づけた。
「一番街には深刻な問題がないから、そこは飛ばそう」
「次は二番街について話そう」とラジ兄さんが言った。
「問題は、あの階級格差じゃないの?」とルイスが言った。
「実はそうじゃないんだ。そのことについては、僕も以前に話したことがある」とラジ兄さんが言った。
「王宮は街の右側にある。そして、その側には貴族のような、優れた人や影響力のある人の大半が住んでいる。一方、左側はほとんど顧みられていないと言える」
「それが最初の問題だ。地域間の格差と、王室による関心の偏りだ」
「一方、右側では、飲酒、賭博、いじめ、夜の歓楽街といった悪い習慣がいくつも見られる。そのため、政府の仕組み自体は腐敗していなくても、住民の状況はあまり良いとは言えない」とラジ兄さんはすべてを書き留めながら言った。
「では、次は三番街だ」と彼は言った。
「ここはヌメシアの主要なゴミ処分場の近くに位置している。そのため、病気が発生しやすい」
「政府は援助をしようとせず、ほかの街が援助することも禁じている。そのため、住民たちは自分たちだけで対処しなければならない」
「問題は政府やその部下たちと同じだ。三番街の政府も頼りにならない。ただし、住民を虐殺したり弾圧したりしているわけではなく、無関心な態度を取っているだけだ」
「それに、三番街はヌメシアで二番目に貧しい街だ。見た目は街と呼べるようなものですらなく、三番街より前に挙げられた二つの最貧困の街と同じだ」
「健康問題には、何か解決策があるかな?」とサイが言った。
「立地が悪いから難しいかもしれない。でも、医療支援を行い、この問題に対する体の免疫力を保つことで、ある程度は補えるはずだ」とラジ兄さんが答えた。
「四番街はもう滅びた街だから、飛ばそう」と彼は言った。
「次は五番街だ。男女不平等の問題があり、その深刻度は三十パーセントにすぎないが、それでも良いことではない」
「五番街はあまり安全とは言えない。政府が攻撃を仕掛ける際、最も頻繁に狙われるのが僕たちの街だからだ」
「これまでに、僕たちは五回の戦争を経験している。最初の二回は、組織が彼らを最後に戦争が行われた場所へ誘導することに成功した」
「その次の二回は、彼らが何の知らせもなくやって来たことで始まった。そのため、組織は彼らを別の場所へ誘導できず、住民全員を本部へ避難させたあと、街の中で戦争が起きた」
「戦争はたいてい非常に長く続く。一週間以上になることもある」
「五回目の戦争は違った。あのときはカイが来たおかげで、すぐにすべてが終わった。もし彼が来なかったら、いつもどおり長引いていただろう」
「父さんは何回目の戦争で亡くなったの?」とサイが尋ねた。
「どうして急にそんなことを聞くんだ? 父親のことを話題にしても大丈夫なのか?」とラジ兄さんが言った。
「大丈夫だよ。僕も知りたいんだ」とサイが言った。
「君のお父さんが亡くなったのは、四回目の戦争だ。三年前のことだよ」とラジ兄さんが答えた。
「サトリアさんが起こしたという噂の爆発が起きたとき、まだ避難していない住民が大勢いた。そのため、爆発に巻き込まれた人たちは、その場で命を落とした」
「自分の元素で素早く身を守った組織のメンバーは助かった。でも、間に合わなかった者は、一般の住民と同じように命を落とした」
「一方、攻撃してきた者たちは、空の上にある攻撃用の飛行機の中にいた。そのため、爆発の影響を少し受けただけで、彼らは助かった」
「それじゃあ、父さんもその爆発で亡くなったの?」とサイが言った。
「サトリアさんは爆発の発生源のすぐ近くにいたに違いない。だから身を守る暇がなかったんだ。そして、彼がいた場所では、爆発の威力ももっと強かったはずだ」
「私たちの街ってすごいね。何度も攻撃されているのに、四番街みたいにすぐには崩壊しなかったんだから」とミシェルが言った。
「それはきっと組織のおかげだよ。戦争で街が壊れても、組織がすぐに修復してくれた。だから、三年前の戦争のあとには、すべてが元どおりになったんだ」とルイスが言った。
「でも、そもそも、どうして彼らはいつも僕たちを攻撃してくるんだろう?」と彼は言った。
「五回目の戦争については、組織に入ろうとする志願者が大勢いることを快く思わなかったから攻撃した、という情報がある。それに、彼らはもともと組織を失墜させようとしているんだ」とラジ兄さんが答えた。
「それはすべて、政府の部下たちが組織の存在を快く思っていないからだ。組織は彼らにとって厄介な存在だからね。一方、政府は彼らが僕たちと騒ぎを起こすのを放置している。特に、組織が誇らしい成果を上げたという知らせを聞いたときはね」
「それなら、解決策は何なの?」とルイスが言った。
「そのことについては手助けできない。最初の試合に向けて勉強するのは参加者の役目だからね。付き添い役が手助けできる範囲には限りがあるんだ」とラジ兄さんが答えた。
「それなら、自分たちで調べないといけないんだね?」とミシェルが言った。
「六番街はどうなの、兄さん?」とサイが尋ねた。
「以前そこへ行ったことがあるし、君たちも知っているとおり、六番街はヌメシアで最も貧しい街だからね」とラジ兄さんが答えた。
「農業の生産量は非常に多いのに、彼らはそれをうまく管理できていない。それに、街の政府は何もしていない」
「組織が教育を行い、アルデンさんが指導者になってから、六番街は以前より良くなった」と彼は言った。
「改善されたとしても、僕たちはその街を分析して勉強する必要があるよね?」とサイが言った。
「そのとおりだ。もしかしたら、六番街が試合のテーマになるかもしれないからね」とルイスが言った。
「次は七番街だ。ここには二つの王国がある」とラジ兄さんが言った。
「主要な王国である赤の王国と、軍事を担当する紫の王国だ」
「この街はヌメシアで最も優れた、最強の軍事力を持っていて、まだ誰も打ち負かせていない。ただし、政府と対峙した場合も同じとは限らない」
「でも、深刻な問題はないから、ここはひとまず脇に置いておこう」
「それじゃあ、この八番街にも問題はないの?」とルイスが言った。
「完全にそうとは言えない。この街の住民は高い教育を受けていて、頭も良いが、街の政府を改善しようという意思がないんだ。ましてや、政府に立ち向かおうともしない」とラジ兄さんが答えた。
「この街はわりと平和だね。面倒事を起こしたくないみたい」とミシェルが言った。
「そして最後は九番街だ」とラジ兄さんが言った。
「ヌメシアで三番目に貧しい街とされている。特別な長所はないが、訓練場が最も多い街なので、優れた人材がたくさんいる」
「彼らの問題は深刻ではなく、経済的な問題だけだ。それもひどいものではないから、彼らについて話せることはあまりない」
「ワステンド市はどうなの?」とサイが言った。
「ワステンド市はほかの街とは少し違うから、試合のテーマにはならない可能性がある」とラジ兄さんが答えた。
「そうなんだ。じゃあ、今話し合った九つの街に集中すればいいんだね」とルイスが言った。
「それに、問題がそれほど深刻ではない街があと五つほどあるから、重要なものだけを話し合えばいいね」とミシェルが言った。
「よし、それじゃあ、レオンさんとソフィア姉さんに会いに行くよ」とラジ兄さんは椅子から立ち上がって言った。
「二人は何をしているの?」とサイが言った。
「この試合に関して、まだ終わっていない用事がいくつかあるんだ。だから、それを片づけないといけない」とラジ兄さんが言った。
「分かった。手伝ってくれてありがとう」とサイが言った。
「ああ、そうだ。忘れるなよ」とラジ兄さんが言った。三人は彼のほうを向いた。
「ここではチームワークが大切だ。だから、同じチームの仲間として、あまり離れ離れになるな。ましてや、騒ぎを起こすなんてもってのほかだ」と彼は言い、それから立ち去った。
「わ、分かった」と三人は答えた。
***
一方、外では、木の枝の一つに座っている二人の姿があった。二人は試合会場の建物を見つめていた。
彼らは、リアンと、あのとき六番街にいた彼の仲間だった。
「いつになったら、あいつらをめちゃくちゃにするのにちょうどいい時間が来るかな?」とリアンが言った。
「何が楽しいんだ? 忘れるな! 俺たちは任務を遂行しに来たんだ。遊びに来たんじゃない」と仲間が言った。
「ただ冗談を言っただけだよ、このクソじじい!」とリアンが言い返した。
「俺の名前はアルブレヒトだ! 少しは礼儀正しくできないのか?! このガキめ!」と仲間が言った。
「僕はまだ子どもなんだ! お前みたいに年を取っているわけじゃない!」とリアンが言った。
「人を殺すのが得意な子どもなんて、どこにいるんだ?」とアルブレヒトが言った。
「もういい! 年寄りと口論しても意味がない!」とリアンが言った。
「三十歳はまだ年寄りじゃない!」とアルブレヒトが言い返した。
「お前、本当にうるさいな!」とリアンが言った。
「あのときより成長したからって、こんなに偉そうになりやがって!」
「今すぐお前を殺すことだってできるんだぞ!」と彼は言った。
「任務にもっと集中しろ、このガキ!」とアルブレヒトが言い返した。
「今回の任務は、あまり面白くなさそうだな」とリアンが言った。
「いつもなら殺しを命じられるのに、今回はあの組織のガキどもを邪魔するだけなのか?」
「文句があるのか?」とアルブレヒトが言った。
「たとえ文句を言っても、怒られないだろ? 俺たちは政府に近いところにいる使い走りの一員なんだから」とリアンが言った。
「だからといって、好き勝手にしていいわけじゃない」とアルブレヒトが言った。
「任務がつまらないことに加えて、宿敵もここにいると聞いたんだ」とリアンが言った。
「前に、あの森の子に負けたんだ。本当に恥ずかしい!」
「個人的な問題を持ち込むな!」とアルブレヒトが言った。
「六番街で騒ぎを起こしたとき、あいつらのメンターたちと出会ったり、対峙したりしなかったのは幸運だった」
「あいつらの五回目の戦争では、あの強いケンさんの部隊でさえ、最年少のメンターに簡単に倒されたんだ」
「だが、その人物がここにいないとしても、ほかのメンターたちの実力は分からない」
「お前の宿敵は、ここに来た二人のメンターと一緒に行動することが多いだろう。つまり、あいつら三人はずっと一緒にいるはずだ。だから、むやみに騒ぎを起こすな」
「分かってるよ。僕だって、そこまでバカじゃない」とリアンが答えた。
「でも、絶対にあいつを倒してやる!」




