第61章:人間を買う
「この子は誰?」とラジ兄さんが言った。サイとその子が二人の医師に手当てを受けている部屋に、彼らは集まっていた。
「誘拐犯から逃げているときに会って、偶然森に入ったんだ」とサイは答えた。
「誘拐犯?」とライアンが言った。
「正確には、借金の返済としてこの子を連れていた借金取りだよ。この子は逃げることができて、それで誘拐犯が僕にこの子のことを聞いてきたんだ」とサイが言った。
「なんでずっと『この子』なんだ? そもそも名前はなんていうんだ?」とイワンが言った。
「分からない」とサイが言った。その子は悲しそうな目で、ただ黙っていた。
「ここへ来る途中、ずっと聞いていたんだ」
「君の名前は?」とサイは、暗い道を帰っている途中に尋ねた。その子はただ黙ってサイについてきていた。
「それで、その後はどうなった?」とラジ兄さんが言った。
「俺たちも気になる」とサイの手当てをしている医師が言った。
「少しくらい真面目にしろ!」と、その子を手当てしている医師が注意した。
「僕たちは岩の後ろに隠れて、ついにあいつらが僕たちに追いついたんだ」とサイが言った。
「僕は自分一人で動けるように、この子に木へ登るように言ったんだ。その間に誘拐犯の一人が僕を見つけて、僕はカエルの毒でそいつを麻痺させて、もう一人の誘拐犯から逃げた」とサイが言った。
「それから、木を通って逃げていたこの子が下へ戻ってきたから、僕たちはまた地面を走った」
「それから、かなり危険な下り坂へ飛び降りたから、こんなに怪我をしたんだ」
「君だけ? じゃあ、この子はどうした?」とラジ兄さんが言った。
「僕はすぐにこの子を抱きしめて、クッションになるように飛び降りたから、僕のほうがたくさん怪我をしたんだ」とサイが言った。
ライアンとイワンは驚いた。「だ、抱きしめた?」
その子は恥ずかしそうにしていた。
(ついさっきまで、あんなに子供っぽく見えていたのに)
ラジ兄さんも驚いた。
「その後、川を渡って、ずっと歩いてここまで来たんだ」とサイが言った。
「わあ、俺たちの最年少メンバーも大きくなったな。もう人を助けることが多くなった」とサイを手当てしていた医師が、救急箱の中の医療道具を片付けながら言った。
「大きくなった? 11歳ってもう大きいの?」とサイが言った。
「そういう意味じゃない」とラジ兄さんが言った。
「やっぱりまだ同じだな」とその医師が言った。
「それじゃあ、この子をソフィアさんのところへ連れて行くよ」と、その子を手当てしていた医師が言った。
「俺たちは先に行くよ」と二人の医師は部屋から出ていった。
「この子、これからどうなるんだろう?」とイワンが尋ねた。
「ここの住民に預けられるのかな?」とライアンが言った。
「僕にも分からない」とラジ兄さんが答えた。
「でも、この子を二番街に残しておくのは少し危険だ。右側にいる家族なら、きっとこの子を見つけられる」
「それに、ソフィアさんが僕たちと一緒にこの子を連れて帰る可能性もある」と彼は言った。
「え? 本部に連れて行くの?」とライアンとイワンが言った。
「ソフィアさんは子供が好きだから、この子をここに置き去りにはしないだろう」とラジ兄さんが言った。
「じゃあ、この子はどこに住むの?」とサイが言った。
「本部以外にどこがある?」とラジ兄さんが言った。
「すごく運がいいね」とイワンが言った。
「それじゃあ、俺は先に行くよ。さっき追加の任務を任されたんだ」とラジ兄さんはソファから立ち上がった。
「僕たちも泊まっている場所へ戻るよ」とサイが言った。
「分かった。俺は先に行くよ」とラジ兄さんはその部屋を出ていった。
***
「どうしてまた俺たちがこの子たちの面倒を見なきゃいけないんだ?」とルーカスがぼやいた。翌日、彼ら八人は昨日の部屋へ戻ってきた。
中にいる子供たちはあちこち走り回り、泣いている子もいれば、喧嘩している子もいて、遊んで散らかしている子もいた。
「ここから遠い場所にある、あの子たちの孤児院まで行かなきゃいけないよりはマシだよ」とライアンが言った。
「問題は場所じゃない」とルーカスが言った。
「たとえ遠くまで歩かされても、子供の面倒を見る仕事じゃなければやるよ」
「そうなの? じゃあ、二番街の端まで食べ物を届けろって言われたら?」とイワンが言った。
「え? そんな任務があるの?」とニコが言った。
「それは料理人の仕事だと思うけど」とディオンが言った。
「料理人たちがもう作ったのに、どうしてあいつらまで届けなきゃいけないんだ?」とイワンが言った。
「もういい、早く入ろう。何人かが食べ物を届けに呼ばれる前に」とハリーが言った。
「お兄ちゃん! 僕たちと遊ぼう!」と一人の子供が呼んだ。
ルーカスはすぐに怯えた。
「お兄ちゃん! こっちに入ってきて!」と別の子が呼んだ。
「お兄ちゃん! 戦争ごっこしよう!」
「お兄ちゃん! 入って!」
「僕たちと遊ぼう!」
子供たちはますます騒がしくなった。
みんなはすぐにサイを部屋の中へ押し込んだ。
「サイ兄ちゃん!」とみんなが呼んだ。
「や、やあ、みんな!」とサイはぎこちなく挨拶した。
「早くあいつらを落ち着かせてくれ。少し静かになるまで、俺たちは中に入る勇気がない」とハリーが言った。
***
「お兄ちゃん! できたよ!」と一人の男の子が、サイに折り紙の鶴を見せた。サイは何人かの子供たちと一緒に座っていた。
「わあ、とても上手にできたね」とサイが言った。
「次はどうするの、お兄ちゃん?」と一人の女の子が言った。
「次はここを折るんだよ」とサイはその子を手伝った。
その間、他の仲間たちはそれぞれ別の場所へ散らばっていた。
ニコとディオンは男の子たちに追いかけられて走り回り、ライアン、イワン、ファッタは泣いている子供たちを落ち着かせ、一方ルーカスとハリーは子供たちに馬のように扱われていた。
「どうしてあいつらはサイには優しいのに、俺たちにはこんな扱いなんだ?」とルーカスは疲れながらサイをちらっと見て言った。
「俺たちが面白くないのかな?」とハリーが言った。
「面白くないってどういうことだ? 俺たちはこの子たちに背中を痛めつけられているんだぞ!」とルーカスが言った。
「進め!」一人の子供がルーカスの頭を叩いた。
「痛っ! はいはい」とルーカスは少し歩いた。
「ところで、昨日の子って誰なんだ?」とハリーが言った。
サイが振り向いた。「二番街の右側にいる貴族の家の子だと聞いたよ」
「でも借金取りに連れて行かれて、ここまで走って逃げてきたんだ」
「でも、あの子ってちょっと面倒じゃないか? つまり、ここまで来て、俺たちの責任になったってことだろ」とルーカスが言った。
「俺も少し同意する」とディオンは走りながら言った。
「まったく! それが俺たちの、人を助ける仕事だろ」とイワンが言った。
「それに、あの子は俺たちと同じ学校に通うことになるんだ」とハリーが言った。
「そのうち、アカデミーで一人だけ女の子だからとか、あの子が今まで経験したことのせいで、俺たちが面倒を見るように言われるかもしれない」
「きっと、あの子はまだ起きたことを引きずっている」とサイが言った。
「ソフィアさんもあの子をとても気に入っているから、孤児院に預けるつもりはないんだ」と言った。
「そのうち、あの子が負担になるんじゃないか?」とルーカスが言った。
「ねえ!」サイは嫌そうに注意した。
「こんにちは、みんな」と突然、私服姿の女性メンバーがドアに現れた。
「はい? 何かあった?」とライアンが言った。
「私たちは今、料理を終えたところで、何人かのメンバーがいくつかの場所へ届けに行っているの」と彼女が言った。
「でも、どうやらもう一つの場所へ届ける人が足りないみたいなの」
(やっぱり本当に頼まれるんだ)
「一人か二人いれば十分なんだけど、できる?」と彼女が言った。
「でも、俺たちは今、手が回らない」とルーカスが言った。
「ほ、本当だ。子供たちの世話は簡単じゃない」とハリーが言った。
サイは申し訳なさそうにした。「僕がやる」と手を挙げた。
「本当? 君が届けに行ってくれるの?」と女性が言った。
「うん、すぐに出発するよ」とサイは立ち上がった。
「お兄ちゃん、行っちゃうの?」と一人の女の子が言った。
「折り紙はどうするの?」と別の子が言った。
「お兄ちゃんはすぐ戻ってくるよ。そんなに時間はかからないから」とサイは優しく言った。
「君一人だけ?」と女性が言った。
サイは、忙しいふりをしている仲間たちを見つめた。
(どうやら、本当に誰も行きたくないみたいだ)
サイはぎこちなく笑った。
***
いくつかの弁当が入った箱を持ったサイは、昨日の子と向かい合って立っていた。その子も同じような箱を持っていた。
サイは困惑したようにその子を見た。
「他のみんなは忙しいし、君一人でこれを運ぶのは無理だから、ソフィアさんが、昨日君が助けた子に手伝ってもらうよう頼んだの」と、さっきの女性が言った。
「え? 大丈夫?」とサイはその子に言った。
「大丈夫」とその子は小さな声で答えた。
「僕だけ何もせずに座っているほうが、かえって気まずいから」
「そうなんだ?」とサイが言った。
「それじゃあ、もう行っていいよ」と女性が言った。
「それじゃあ、行ってきます、お姉さん」とサイはその子と一緒に歩き出した。
道中、二人はずっと黙っていた。家々や何人かの住民の間を通り過ぎた。
サイはその子をちらっと見た。「あの、君の名前は何?」
その子はサイをちらっと見た。「どうして何度も私の名前を聞くの?」
「名前が分からないと、君と話すのが難しいから」とサイは答えた。
「それは……」その子は少しうつむいた。
「い、言いたくないなら、いいよ」とサイが言った。
「僕の名前はサイ」と言った。
「サイ?」とその子が言った。
「うん、よろしくね」とサイが言った。
「あ、ありがとう、昨日のこと」とその子が言った。
「大丈夫だよ。君を助けるのは僕の義務だから」とサイが言った。
「でも……私、みんなに迷惑をかけているみたい」とその子が言った。
「僕たちはそんなこと言ってないよ」とサイが言った。
「数日後には僕たちは本部に戻るから、君には住む場所ができるし、もう怖がらなくていいよ」
「分かった」とその子が言った。
***
「ありがとうね。あなたたち、わざわざこれを運んできてくれたのね」と一人の母親が言った。サイとその子は、質素な二階建ての建物の前まで来ていた。
「ごめんなさい、これだけしか持ってきていません」とサイが言った。
「大丈夫よ。私たちの人数も多くないから、これだけでも十分すぎるくらいよ」とその母親が言った。
「それならよかった」とサイが言った。
「中に入って、少し休んでいかない?」とその母親が言った。
「すみません、でも僕たちはまだ向こうでいくつか仕事があるので」とサイが言った。
「そうなの? それなら、帰り道は気をつけてね」とその母親が言った。
「失礼します」とサイはその子と一緒に帰り始めた。
二人はまた黙って歩いた。
「止まれ」二人の男が立ちはだかった。
サイとその子は驚いた。それは昨日の二人の誘拐犯だった。
「昨日の誘拐犯!」サイは怯えているその子の前にすぐ立った。
「今度は何の用だ?!」と彼が言った。
「俺たちは誘拐犯じゃない! ただの借金取りだ!」と一人目の男が言った。
「聞け、ガキ。俺たちはもう、お前みたいな死にたいのかと思うほど無茶なガキとは関わるつもりはない」と二人目の男が言った。
「昨日のカエルの毒で死ぬかと思ったぞ」と言いながら、彼は首を押さえた。
「それで、ここに何の用?」とサイが言った。
「理由は昨日と同じだ」と一人目の男が言った。
「その子を連れて行かなきゃならない」と彼は言った。その子は怯えた。
「絶対にさせない! お前たちのボスがこの子を手に入れた後、どうするつもりなんだ?」とサイが言った。
「もちろん奴隷として売るんだ。それが普通だろ? お前、そういう話を聞いたことがないのか?」と二人目の男が言った。
「ダメだ!」とサイが言った。
「またなんでだ?!」と二人目の男が言った。
「人間の売買はダメだ! 人間は売り買いする道具じゃない!」とサイが言った。
「おい、ガキ! 今やその子は俺たちの権利だ! 父親が借金を返せなかったから、俺たちが引き取ったんだ!」と一人目の男が言った。
「お前は、父親の借金が返せないままになって、この子が俺たちに連れて行かれるほうがいいとも言うのか?」
「それなら、僕がこの子を買う」とサイが言った。
「は?」二人は困惑した。
「お前自身が人間の売買はダメだと言ったばかりだろ」と二人目の男が言った。
「この子を自由にするため!」とサイが言った。
「お前たち、やるのか、やらないのか?!」とサイは強い口調で言った。
「も、もちろんだ。お前ともう関わらなくて済むならな!」と二人目の男は少し怯えながら言った。
「いくら?」とサイが言った。
「ただの普通の女の子だし、弱そうに見えるから……」と一人目の男は考えた。
「5億だけでいい」
「ああ、父親の借金もそれくらいだ」と二人目の男が言った。
サイはジャケットのポケットに手を入れ、そこから分厚い封筒を取り出した。
「これを取って」とサイはそれを差し出した。一人目の男はそれを受け取り、封筒を開けて金額を数え始めた。
二人目の男は驚いた様子だった。「こ、こんな大金を持ち歩いているのか?」
「何のため?」と彼が言った。
「さあ、必要なことがあったり、助けを必要としている人がいたりしたときのために備えているだけだよ」とサイが言った。
「よし、この子は今からお前のものだ」と一人目の男が言った。
「金額は多いけど、お釣りを持って帰るつもりはないから」
「そのまま取って! 僕は早くここから離れたいんだ」とサイはその子の手を引き、二人の男の間を通り過ぎた。
「このガキ! お前、金を何だと思っている?!」と二人目の男は怒りながらサイを指差した。
「どうでもいい! それに、組織からもらっている毎月のお小遣いも多いから!」とサイは立ち止まり、二人のほうを振り返った。
「この二番街での任務が終わったら、もっともらえるし」とサイは再び歩き始めた。
「この金遣いの荒いガキめ!」と二人目の男が叫んだ。
(あれ、僕の貯金の大部分だったのに……)
サイは大げさに悲しそうな顔をした。




