↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/69

第6章 オーディション

オーディション当日。


ゴールド・オーガニゼーション本部の大ホールには、参加者全員が整列していた。


「本日は、皆さんの知力と体力を試験します。」


レオンが参加者たちを見渡しながら言った。


「その前に、オーディションと試験がどのように進められるかを説明します。」


(オーディションと試験って違うのかな?)


サイは首をかしげた。


「オーディションでは、知力と体力を試します。」


「知力試験では、一人ずつ部屋へ呼ばれ、いくつかの質問に素早く答えてもらいます。」


「詳しい内容については、それ以上は教えられません。」


レオンは静かに続ける。


「皆さんくらいの年齢で合格できる者は、ごくわずかです。」


「もし今年、たった一人でも合格者が出れば、その者は組織の一員として迎えられ、大きな敬意をもって歓迎されるでしょう。」


「それは、この組織の未来を担う資格があると認められた証でもあります。」


(見ててよ!)


(僕は絶対に合格する!)


サイは胸の中で力強く誓った。


「それでは、このあと順番に名前を呼びます。」


「知力試験の準備をしておいてください。」


そう言うと、レオンは本部の中へ入っていった。


参加者たちは顔を見合わせるだけで、どうすればいいのか分からず立ち尽くしていた。


「それで……。」


「僕たちは何をすればいいの?」


サイが首をかしげる。


「サイ・サルヴァハルサ!」


一人の係員が名前を呼んだ。


「はい!」


サイは勢いよく返事をする


「第一試験室へ入ってください。」


「知力試験を行います。」


(えっ。)


(僕が一番最初!?)


「は、はい!」


サイは慌てて部屋へ駆け込んだ。


***


サイは第一試験室の扉を開けた。


部屋の中に置かれた机には、一人の女性が座っていた。


(あっ、ソフィア先生だ。)


サイは少し勇気を出して部屋の中へ入る。


「し、失礼します。」


「こんにちは、サイ。」


女性は優しく微笑んだ。


「こっちへ来て座って。」


そう言って、自分の向かいにある椅子を指差す。


「はい。」


サイは椅子まで歩き、静かに腰を下ろした。


「それじゃあ、サイ。」


ソフィアは穏やかな口調で話し始める。


「今年の受験者の中で、一番年下だって聞いたわ。」


「本当に合格できる自信はある?」


「あります。」


サイは迷うことなく答えた。


ソフィアは思わずくすっと笑う。


「そんなにかしこまらなくていいわ。」


「私のことは『お姉さん』って呼んで。」


「分かりました、ソフィアお姉さん。」


サイは素直に答えた。


「それじゃあ、一問目を始めるわ。」


「準備はいい?」


「はい!」


サイは元気よく返事をした。


「第一問。」


ソフィアお姉さんは問題用紙に目を落とした。


「ドドという男の子がいました。」


「彼は普段から嘘ばかりつく、問題児として知られています。」


「ある日、そのドドが『先生の財布から誰かがお金を盗むのを見た』と言いました。」


「ですが、彼はいつも嘘をつくため、周りの子どもたちは簡単には彼の言葉を信じません。」


「あなたは、この出来事についてどう思いますか?」


(そういう問題なんだ。)


(学校の勉強の問題が出るのかと思ってた。)


サイは心の中でそう思った。


「僕は、ドド君の友達は、その話が本当かどうか確かめるべきだと思います。」


「どうしてそう思うの?」


ソフィアお姉さんが尋ねる。


「嘘つきだからといって、ずっと嘘をつき続けるとは限らないからです。」


「友達がドド君を信じないのは間違っていません。」


「今まで何度も嘘をつかれてきたからです。」


「でも、お金が盗まれたような重大な出来事なら、本当かどうかを確かめるべきだと思います。」


(この子……。)


(本当に十歳の子なの?)


(答えられないと思っていたのに。)


ソフィアは心の中で驚いた。


「それから、ドド君も、自分が普段から嘘をついてきたせいで、人から信じてもらえなくなったことを理解しなければいけません。」


「そして、その日をきっかけに反省して、もう嘘をつかないよう努力するべきです。」


「たとえ今回の話が本当だったとしても、それだけで失った信用が全部戻るわけではありません。」


サイは落ち着いて話し続けた。


(ロッキーさんの言っていた通りだわ。)


(この子は、殉職したあの隊員によく似ている。)


ソフィアは静かにそう思った。


「だから、僕の結論は――」


「嘘は、自分に悪い結果を招くだけです。」


「だから、人から信頼されるためにも、いつも正直でいることが大切だと思います。」


ソフィアは満足そうにうなずいた。


「とてもいい答えだったわ、サイ。」


「両方の立場をしっかり考えた上で答えているし、どちらか一方だけを責めていなかった。」


「説明も丁寧だったし、最後には自分なりの結論までまとめていた。」


「十歳の子とは思えないくらい立派よ。」


サイは嬉しそうに笑った。


褒めてもらえたことが素直に嬉しかった。


「でも、少し気になったところもあるわ。」


「えっ?」


サイは驚いてソフィアのほうを見る。


「少し説明が長すぎること。」


「それと、嘘つきのドド君に少し寛容すぎる印象があるわね。」


「そうなんですか?」


サイは首をかしげた。


「長く答えたほうが点数が高くなると思っていました。」


「ええ。」


「実際に内容は良かったから、高い評価をつけたわ。」


ソフィアは一枚の紙をサイへ差し出した。


サイは受け取り、その場で確認する。


「わあ!」


「A+だ!」


サイの表情が一気に明るくなる。


「やったー!」


「一つ目の試験、成功!」


「その紙はなくさないようにね。」


ソフィアが優しく言う。


「次の試験でも、その紙に試験官が評価を書き込むから。」


「はい!」


「ありがとうございます、ソフィアお姉さん!」


サイは元気よく頭を下げると、そのまま部屋を飛び出していった。


その後ろ姿を見送りながら、ソフィアは小さく微笑んだ。


(私……。)


(問題を少し簡単にしすぎたかしら。)


***


「次は体力試験です。」


試験官が参加者たちへ向かって言った。


「これから皆さんには、石の入ったリュックを背負って歩いてもらいます。」


「それだけ?」


サイは無邪気に尋ねた。


試験官は鋭い目でサイを見た。


「背負って歩くだけではありません。」


そう言うと、遠くの丘を指差す。


「あの丘の頂上まで登ってもらいます。」


「えぇぇぇっ!?」


参加者全員が信じられないという表情になった。


「その通りです!」


「頂上へ最も早く到着した者ほど、高い評価を与えます!」


(あんな重い石を背負って丘を登るなんて……。)


(相手はみんな強そうなのに……。)


(ここで一番小さいのは僕なのに……。)


サイは不安そうに思った。


「何をしている!」


「早く自分のリュックを取りなさい!」


試験官が大声で叫ぶ。


「はい!」


参加者たちは一斉に駆け出し、それぞれのリュックを手に取った。


「準備!」


全員が石の入ったリュックを背負い、丘の前へ並ぶ。


「位置について。」


試験官の声が響く。


「一、二……」


参加者たちは身構えた。


「三!」


その合図と同時に、一斉に丘を駆け上がる。


しかし、一人の少年は一歩も進めないまま転んでしまった。


参加者たちは必死に坂を登る。


誰もが苦しそうな表情を浮かべていた。


「登らなきゃ……!」


「早く……!」


サイも必死に足を前へ運ぶ。


一歩、また一歩。


(頑張らなきゃ……。)


(ラジ兄さんにいい報告をするんだ!)


全力で前へ進む。


その時、一人の少年がサイを見て鼻で笑った。


「弱いな。」


「その程度か?」


それは数日前、サイにチョコレートをくれたあの少年だった。


サイは悔しそうにその少年を見る。


「じゃあ、頂上で会おう。」


「そこまで来られたらだけどな!」


少年は笑いながらさらにスピードを上げた。


(くそぉぉぉ……!)


サイは震える足で必死に坂を登る。


転げ落ちる者もいれば、サイのように苦しみながら登る者もいる。


そして、何人かの年上の参加者は、すでに頂上近くまで到達していた。


(負けない……!)


サイが歯を食いしばった、その時だった。


「ワン!」


一匹の犬がサイへ向かって走ってきた。


「ひゃああああっ!!」


犬が苦手なサイは、反射的に全力疾走した。


先ほどの少年は後ろを振り返り、笑う。


「子どもだし、もう落ちただろ――」


「助けてぇぇぇぇ!!」


サイが叫びながら少年の横をものすごい勢いで駆け抜けた。


「……は?」


少年は目を丸くする。


「な、何だあれ!?」


慌てて追いかけようとした瞬間――


足を滑らせた。


「うわあああっ!!」


少年は坂を転がり落ちていった。


「ひゃああああ!!」


サイは犬から逃げるため必死で走り続ける。


しかし――


ドサッ!!


ついに転んでしまった。


「いたたた……。」


サイはふらつきながら立ち上がる。


「ぼ、僕……助かった……?」


恐る恐る後ろを振り返る。


「え……?」


目を大きく見開いた。


「ぼ、僕……。」


「頂上まで来ちゃった!?」


「やったぁぁぁぁ!!」


サイは飛び跳ねながら大喜びした。


「評価用紙を。」


頂上で待っていた試験官が手を差し出す。


「あ、はい!」


サイは紙を渡した。


試験官は評価を書き込み、紙を返す。


「次も頑張れ。」


そう言って去っていった。


サイは紙を見る。


「A?」


「やったーーー!!」


「勝利はもう目の前だーー!!」


その時、別の試験官が大声で呼んだ。


「おい!」


「そこで何をしている!」


サイは振り向く。


「早く次の試験へ向かえ!」


試験官は先の道を指差した。


「はい!」


サイは再び走り出す。


「リュックは最後まで背負ったままだぞ!」


「分かりました!」


サイは元気よく返事をし、そのまま次の試験会場へ向かった。


サイは走り続けた。


やがて、一つの柱の前で足を止める。


柱には一本のロープが結ばれていた。


その反対側には、大きな石がぎっしり入った網がつながっている。


「何をすればいいんですか?」


サイは近づきながら尋ねた。


試験官はロープを指差した。


「そのロープを引いて、石を柱の高さまで持ち上げろ。」


「何のためですか?」


サイは首をかしげる。


「やれば分かる。」


試験官は短く答えた。


「持ち上げたら、そのまま十秒間維持しろ。」


「十秒もですか?」


サイは少し不安そうな表情になる。


「僕にできるかな……。」


そう言いながら、ロープを握った。


「よし。」


「始めます。」


サイはロープを強く引いた。


「うっ……。」


思っていた以上に重い。


足を踏ん張りながら、少しずつロープを引いていく。


(まずい……。)


(失敗するかもしれない。)


(石が重すぎる。)


(しかも、リュックまで背負っているし……。)


ドサッ。


石の入った網は再び地面へ落ちた。


勢いでサイもよろめく。


息を切らしながら両手を見ると、手のひらは赤く擦れていた。


(それでも、諦めるわけにはいかない。)


サイはもう一度ロープを握った。


試験官は椅子に座ったまま、静かに様子を見ている。


「僕は……。」


「やらないと。」


サイはもう一度力を込めた。


しかし――


ドサッ。


また石は地面へ落ちる。


サイもその場に倒れ込んだ。


「僕には……。」


「できない……。」


サイは小さくつぶやく。


その時、レオンの言葉を思い出した。


(参加者は十二歳以上……。)


サイは思わず声を上げた。


「どうして……。」


「十歳の僕に、こんなことができるんだよ!」


試験官はサイを見た。


「いつまでそうしているつもりだ。」


静かな口調だった。


「そこで座って諦めたら、その先がどうなるかは誰にも分からない。」


「お前が諦めたままだと、俺も次の仕事ができない。」


サイは黙り込んだ。


(そうだ……。)


(まだ終わっていない。)


(諦めちゃ駄目だ。)


サイはゆっくり立ち上がる。


疲れ切った足に力を入れ、再びロープを握った。


(ラジ兄さんに、いい報告をしなきゃ。)


その思いだけを胸に、もう一度ロープを引く。


試験官は少し驚いたようにサイを見た。


先ほどよりも力強く引いている。


サイは歯を食いしばりながら、全身の力を込めた。


時間をかけて少しずつ引き続ける。


そして――


ついに石の入った網は柱の高さまで持ち上がった。


「十。」


試験官が数え始める。


「九、八、七……。」


(早く……。)


(もう力が残ってない……。)


サイは必死に耐え続ける。


「三、二、一。」


ドサンッ。


網が大きな音を立てて地面へ落ちた。


その反動で、サイの体は大きく吹き飛ばされた。


「わあっ!」


ドンッ。


サイの体は近くにあった家の屋根へ飛ばされた。


屋根の上へ強く落ち、そのまま倒れ込む。


背負っていたリュックも体の上へ落ちてきた。


「痛たた……。」


サイはゆっくりと体を起こした。


「どこまで僕を苦しめるつもりなんだろう……。」


そう言いながら立ち上がろうとする。


その時、後ろに人の気配を感じた。


サイが振り返ると、全身黒い服をまとい、黒い仮面をつけた男が立っていた。


男は鋭い目つきでサイを見つめている。


そして、その手には一本のナイフが握られていた。


(ナイフ……。)


(何なんだ、この人は……。)


サイは思わず立ち止まった。


黒い仮面の男はナイフを軽く回しながら口を開く。


「ガキ。」


「お前が参加条件を満たしていないことくらい、俺たちが知らないとでも思ったのか。」


「お前は新規参加者の第一条件を満たしていない。」


「俺は規則を破る奴が大嫌いなんだ。」


サイは何も言えなかった。


目の前の男に圧倒され、その場から動くこともできない。


男はナイフを構えた。


「ここで終わりだ。」


そう言うと、サイへ向かって走り出した。


サイは慌てて立ち上がる。


男の攻撃を避けながら、その場から逃げ出した。


しかし、石の入ったリュックを背負っているため、思うように動けない。


安全に逃げられる道は、家の屋根を飛び移るしかなかった。


「逃げられると思うな。」


男はそのままサイを追いかける。


「ち、違います!」


「僕は条件を破ったんじゃありません!」


「あなたたちの組織長が、僕に特別な許可をくれたんです!」


サイは屋根から屋根へ飛び移りながら叫んだ。


男は鼻で笑う。


「組織長だと?」


「俺がこの組織の人間だと思ったのか。」


そう言うと、一本のナイフをサイへ向かって投げた。


サイはすぐに身をかわす。


(まずい……。)


(この人は組織の人じゃないのか。)


(侵入者なのかな……。)


(でも、どうして僕が十歳だってことに怒っているんだろう。)


(この人と何か関係があるのかな。)


(試験官はどこにいるんだろう。)


(誰も助けてくれないのかな……。)


(誰か助けて……。)


そのことばかり考えていたサイは、着地に集中できなかった。


足を滑らせ、そのまま屋根から落ちてしまう。


ドサッ。


サイは四軒の家に囲まれた場所へ落ちた。


そこには日差しが届かず、四方の屋根に遮られて薄暗くなっていた。


「痛たた……。」


サイはゆっくりと立ち上がる。


背中には鈍い痛みが走っていた。


落ちたとき、石の入ったリュックを背中に受けてしまったのだ。


黒い仮面の男も屋根から飛び降り、サイの前へ降り立つ。


サイは思わず足を止めた。


男は静かにナイフを取り出す。


その切っ先をサイへ向け、一歩ずつ近づいていく。


サイはその場から動くことができなかった。


男はナイフを構える。


今にもサイへ襲いかかろうとしていた。


サイの運命は、この先どうなってしまうのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。