第32章 木の裏で
「さっき、あの名前を口にするべきじゃなかったわね。」
ソフィアが言った。
「どうして?」
クリサンが尋ねた。
「何でもないわ。それで、レッド・ファイアについての情報を私たちに教えてくれる?」
ソフィアが言った。
「無理。」
クリサンが突然言った。
「どうして?」
ソフィアが言った。
「さっきのいい子がどうしてあんな態度を取ったのか、先に説明してよ。なんだか気になってきたわ。」
クリサンが言った。
「彼はリアン・ノヴァと因縁があるの。それだけしか言えないわ。」
ソフィアが言った。
「そうなの? 分かった。実はさっき、彼から電話がかかってきたの。」
クリサンが言った。
(きっと、さっきの人気のない道にいた時ね。)
ソフィアは心の中で思った。
「何を話したの?」
ソフィアが尋ねた。
「私が彼の使い走りを辞めたいと言ったことについて、考え直すように言ってきたの。脅されたけど、それでも私は断ったわ。」
クリサンが言った。
「彼の使い走りをしていた時は、どんな仕事をしていたの?」
ソフィアが尋ねた。
「いろいろよ。でも、彼が起こした殺人事件にはいつも関わっていたわ。」
クリサンが答えた。
「本当?」
ソフィアは真剣な表情で言った。
「私は被害者についての情報を提供していただけで、殺すことに加わったわけじゃないわ。」
クリサンが言った。
「組織が後で私も捕まえることになっても、私は逃げるつもりはないわ。」
彼女が言った。
「それについては後で話し合いましょう。それで、今リアンがどこにいるのか知っている?」
ソフィアが尋ねた。
「彼には決まった居場所はないわ。でも、政府と協力しているみたい。」
クリサンが言った。
「また政府なのね。つまり、政府の命令で重要人物を殺しているってこと?」
ソフィアが言った。
「だいたいそんなところね。」
クリサンが言った。
「昔は彼は第3都市の市長の息子だったの。裕福な暮らしをして、いつも幸せに暮らしていた。一方で、第3都市の住民が幸せに暮らせていたとは限らなかった。」
「でも、ポリオという病気が流行して、次第に第3都市が貧しくなっていくと、彼は政府の庇護の下で働くことを自ら申し出たの。」
「子供の頃から性格が悪かったから、彼がああなったのも不思議じゃないわ。」
クリサンが言った。
「彼はずっと私たちの指名手配犯だった。ただ、組織の警察が追跡に動き始めたのは今になってからよ。」
ソフィアが言った。
「あなたたちの組織って、本当にすごいわね。まるで本当の政府みたい。」
クリサンが言った。
「良い意味では、国の政府みたいなものだと言えるわね。」
ソフィアが言った。
「第二の政府、と言ったほうが正確じゃない?」
クリサンが言った。
「でもクリサン、今レッド・ファイアについて一番詳しいのはあなたよね。私たちがレッド・ファイアを捕まえるまで、協力してくれない?」
ソフィアが尋ねた。
「残念だけど、興味ないわ。」
クリサンが言った。
「そう。あなたがそう決めたのなら仕方ないわね。」
ソフィアは少し残念そうに言った。
「でも。」
クリサンが言った。
「今、レッド・ファイアがどこにいるのか教えてあげるわ。」
***
「どうして俺たちの今の指名手配犯について教えてくれなかったんだ?」
ラジがカイと一緒にカフェの屋上にいる間、不満そうに言った。
「いい加減にしろ、この馬鹿! お前に教えたら、きっと警察と一緒にレッド・ファイアを捕まえに行くだろ?」
カイが言った。
「俺にはあいつに用がある。」
ラジが言った。
「もう忘れたほうがいい。あいつと関わったら、自分で自分を苦しめるだけだ。」
カイが言った。
「むしろ、あいつとの問題が終わっていないほうが、俺はもっと苦しむ。」
ラジが言った。
「お前、本当に分かってないな。」
カイが言った。
「お前に教えたら、問題が起こるだけだ。」
カイが言った。
「分かった。それなら、組織がどうして俺を大きな戦争に参加させてくれないのか、その理由をお前に教えるつもりはない。」
ラジはそう言って、背を向けて立ち去ろうとした。
「おい! 待て!」
カイが言った。
「いったい何なんだ? どうして俺はいつも参加を禁止されるんだ?」
カイが言った。
「お前に教えたら、問題が起こるだけだ。」
ラジは再びカイのほうを向いて言った。
「本当に恩知らずだな! お前が自分自身を受け入れられるように、俺はお前をリアンから遠ざけたんだぞ!」
カイは苛立ちながら言った。
ラジはそれを聞いて驚いた。
「お前が自分の問題を忘れれば、また普通に戻れるだろ?! 暗い過去を忘れろ!」
カイが言った。
「俺はそれを問題にしているわけじゃない。」
ラジが言った。
「俺のやり方は、それなりにうまくいっているみたいだな。」
ラジが言った。
「だから、レッド・ファイアのせいでまた問題を起こすな!」
カイが言った。
「俺はお前を助けるって約束しただろ?!」
カイが言った。
ラジはしばらく黙っていた。
それから、薄く笑った。
「悪魔。」
ラジが言った。
「え?」
カイは困惑したように彼を見た。
「お前が話していたことは夢じゃない。だが、それは現実だ。」
ラジが言った。
「そして、お前が戦争に参加させてもらえない理由は、組織がお前が暴走することを恐れているからだ。」
「そして、それはすべて悪魔のせいだ。」
ラジが言った。
「わ、俺には何を言っているのか分からない。」
カイが言った。
「俺は先に行く。」
ラジはそう言って背を向け、歩き出した。
「おい! 待て! 俺には分からない!」
カイが言った。
「俺を助けようとしてくれたことには感謝している。」
ラジは歩き続けながら言った。
カイはそれを聞いて落ち着いた。
「情報もありがとうな!」
彼が言った。
***
「サイ、これから俺たちと一緒に遊ばないか?」とハリーが他の子供たちと一緒に言った。
「たぶん無理だと思う。」とサイが言った。
「どうして?」とイヴァンが尋ねた。
「学校が終わったら、すぐに仕事をしなきゃいけないから、遊ぶ時間がないんだ。」とサイが言った。
「学校が終わったら仕事?」とハリーが言った。
「ラジ兄さんと訓練するんだ。」とサイが答えた。
ハリーはため息をついた。
「そういうことなら、俺たちだけで遊ぶことにするよ。」とハリーが言った。
「うん、大丈夫だよ。」とサイが言った。
「また明日!」と彼らは言い、学校の門で別れた。
サイは手を振った。
「早くカフェに行かないと!」
サイはすぐに学校から走っていった。
***
「5分遅刻だぞ!」
サイがカフェに到着すると、店長の兄さんが言った。
「ごめんなさい、僕が悪かったです。」とサイが言った。
「昼のシフトを交代していいって許可を出したけど、学校から急いで来なかったら意味がないだろ!」
店長の兄さんが言った。
「もう一度謝ります。」とサイが言った。
「まあまあ、そんなに厳しくする必要はないだろう。」
突然、おじいさんがやって来て、店長の兄さんを注意した。
サイはおじいさんのほうを振り向いた。
「でも爺ちゃん、このままだと俺が大変になるんだよ。」と店長の兄さんが言った。
「彼は今回初めてやったんだ。それもわざとじゃない。」とおじいさんが言った。
「それに、数分遅れただけだ。それほど大きな問題じゃない。」
おじいさんが言った。
店長の兄さんは鼻を鳴らした。
「分かった! 今回は許してやる!」
店長の兄さんが言った。
サイはほっと息を吐いた。
「よし、サイ。もう仕事に戻れるか?」とおじいさんが言った。
「う、うん。ありがとう、爺ちゃん。」
サイは掃除用具室のほうへ走っていった。
***
「最後に会ったのは、君があの時オーディションを受けていた時だったけど、それから何日か仕事を休んでいたんだね?」とおじいさんがカフェのテーブルの一つでサイと話していた。
「うん。あの時はまだ休まなきゃいけなかったし、訓練のためのトレーナーも選んでいたんだ。」とサイが答えた。
「そうなのか? それで、オーディションには合格したのか?」とおじいさんが言った。
「うん! 二回目の挑戦で、やっと合格できたんだ!」とサイが嬉しそうに言った。
「おお! おめでとう。君と一緒に何人が合格したんだ?」とおじいさんが尋ねた。
「今回の二回目のオーディションでは、僕だけが合格したんだ。」とサイが気まずそうに言った。
「君だけ? すごいじゃないか。他の人たちはどうだったんだ?」とおじいさんが言った。
「えーっと、みんな不合格だったよ。」とサイが言った。
おじいさんは笑った。
「いつもそうなんだ。年々、最後の試験で多くの参加者が不合格になるんだよ。」とおじいさんが言った。
「おじいさんも知ってるんだ?」とサイが言った。
「もちろんだ。私は何年も前から参加者たちがオーディションを受けるところを見てきたし、最後の試験で彼らが怖がっているところも何度か見てきた。」とおじいさんが言った。
「普段、町の住民には最後の試験を見せないんだ。邪魔になるのが怖いからね。それに、君たちが見ている幻影を私たちが見ることもできない。」とおじいさんが言った。
「なるほど。だからメンターたちはオーディションと試験を分けていたんだね。今、やっと分かったよ。」とサイが言った。
「それで、学校はどうだ? 仲間外れにされていないか?」とおじいさんが言った。
「幸い、そんなことはないよ。みんな僕に優しくしてくれている。」とサイが言った。
「それはよかった。つまり、彼らはそのことについて何も知らないんだな。」とおじいさんが言った。
「僕をみんなが嫌っている理由のこと?」とサイが言った。
「そういうことだ。」とおじいさんが言った。
「でも、時々何人かの子供や少年たちも僕を避けるんだ。彼らは知っているのかな?」とサイが言った。
「知っている者もいるし、両親に言われて君を避けている者もいる。」とおじいさんが言った。
「そうなの?」とサイが元気なく言った。
「どうして誰も僕に教えてくれないの?」とサイが言った。
「母さんが言ってたんだ。これは僕のお父さんと関係があるって。」とサイが言った。
「本当だよ、サイ。」とおじいさんが言った。
「そうなの? それなら、僕のお父さんはどうしたの?」とサイが言った。
「君のお父さんは、本当はとてもいい人だった。それに、私たちは彼にとても感謝している。」とおじいさんが言った。
「でも、私たちは5年前の出来事を思い出したくないんだ。」とおじいさんが言った。
「じゃあ、僕がまだ5歳だった時?」とサイが言った。
「いつか君はその理由を知ることになるかもしれない。そして、それを知った後は、その真実を探しなさい。」とおじいさんが言った。
「他の人たちが私と同じように感じていなくても、私は君のお父さんを憎んではいないよ。」とおじいさんが言った。
サイはそれを聞いて、しばらく考え込んだ。
「ありがとう、爺ちゃん。」とサイが言った。
「何についてありがとうなんだ?」とおじいさんが言った。
「みんなが僕を嫌っていた時、僕に対してみんなとは違う接し方をしてくれるおじいさんがいてくれて、本当に嬉しかったんだ。」とサイが言った。
「それが、僕がまだ基地から出て、この町を歩き回っていられる理由の一つなんだ。」とサイが言った。
おじいさんは微笑んだ。
「むしろ、私のほうこそ君に感謝しているよ。」とおじいさんが言った。
「君のおかげで、私はここにいることができるんだ。」とおじいさんが言った。
「そんなの大したことじゃないよ。」とサイが言った。
「ごめんな。君と長く一緒にいることができなくて。」とおじいさんが言った。
サイは不思議そうに彼を見た。
「う、うん。大丈夫だよ、爺ちゃん。」とサイが言った。
おじいさんはただ微笑んでいた。
***
一台の車がゴールド・オーガニゼーションの本部の駐車場に入った。
ソフィア、ラジ、カイがそこから降りてきた。
「やっと着いたな。」
カイは指を伸ばしながら言った。
「もう3時じゃない。朝に出発したのに。」
ソフィアは腕時計を見ながら言った。
「それにしても、どうして姉さんはあの人と話すのにそんなに時間がかかったんだ?」
カイが尋ねた。
「彼女がさっきたくさん食べ物を注文したから、全部食べ終わって支払いを済ませるまで帰ることができなかったのよ。」
ソフィアが言った。
「そのせいで私のお金がほとんどなくなったわ。」
ソフィアが愚痴をこぼした。
「どうして姉さんはあいつにおごってあげたんだ?」
カイが言った。
「それはあなたたちも知っているでしょう! あなたたちが勝手に彼女の部屋のドアを開けたりしなければ、こんなことにはならなかったのよ!」
ソフィアは怒って言った。
「それも姉さんがよくない計画を立てたせいだ。」
ラジが言った。
「よくないってどういうこと?」
ソフィアが言った。
「さっきの計画なら受け入れてもよかった。でも、俺たちが彼女の部屋まで行かなきゃいけないとなると話は別だ。」
ラジが言った。
「よくも私のせいにしたわね! 勝手にドアを開けたあなたたちが悪いんでしょう!」
ソフィアが言った。
「これはラジのせいだ!」
カイが言った。
「どうして俺なんだ?」
ラジが言った。
「お前が俺がドアを開けるのを止めてくれていたら、俺だって開けなかった。」
カイが言った。
「俺がお前を注意する前に、お前はもうドアを開けていただろ。」
ラジが言った。
「それに、そもそもお前の行動は最初から間違っていた。」
ラジが言った。
「どうして全部俺のせいになるんだ?」
カイが言った。
「もういい! 全部あなたたちのせいよ!」
ソフィアが言った。
「これ以上そのことを言い争うより、早く警察チームに報告したほうがいい。」
ラジが言った。
「あなたたちと一緒に任務をするのは本当に面倒ね。」
ソフィアはそう言いながら、二人を置いて先に歩いていった。
「どうして俺たちが一番悪いみたいになってるんだ?」
カイが言った。
「仕方ないだろ。彼女は女だからな。」
ラジはそう言いながら、ソフィアの後を追って歩いていった。
カイはため息をついた。
「女って、いつも正しいんだな?」
カイも二人についていった。
***
「え? ロッキーさんはいないの?」
ソフィアが警察室に入ると、そう言った。
「うん。レオンさんと用事があるみたい。」
ステラが答えた。
「この後すぐに休もうと思っていたのに、用事を延期しなきゃいけなくなったわ。」
ソフィアが言った。
「仕方ないだろ。」
ラジが言った。
「あなたたちは後でまた来ればいいじゃない。」
ステラが言った。
「無理よ。私はすぐに休みたいの。」
ソフィアが言った。
「俺はまだサイとの訓練の予定がある。」
ラジが言った。
「あなたは?」
ステラがカイに尋ねた。
「そ、それは……」
カイは考えているようだった。
「後でメンターの会議がある。」
カイが言った。
「嘘をつかないで! 年上のメンターの前で、よくそんな言い訳ができるわね。」
ソフィアが言った。
「姉さんは黙っていてくれよ。」
カイが言った。
「分かったわ。それなら、カイが後で報告をすればいい。」
ステラが言った。
カイはため息をついた。
「仕方ないか。」
カイが言った。
「あ、そういえば、すっかり忘れてた。」
ステラが言った。
「何を?」
ソフィアが言った。
「ロッキーさんが私に言っていたの。あなたたちが来たら、報告はナツ兄さんに渡してくれって。」
ステラが言った。
「どうして最初から言ってくれなかったの?」
ソフィアが言った。
「私自身、今思い出したばかりなの。」
ステラが言った。
「それなら、ナツ兄さんはどこにいるんだ?」
カイが言った。
「彼もいないわ。」
突然、一人の若い女性警官が彼らのところへ近づいてきた。
「どういう意味だよ? 姉さんの旦那さんはどこへ行ったんだ?」
カイが納得できない様子で言った。
「彼も用事があるのよ。だからここにはいないの。」
その女性警官が言った。
「もう、どうして何もかも俺たちの味方をしてくれないんだ?」
カイが言った。
「つまり、お前はまた後で戻ってこなきゃいけないってことだな。」
ラジが言った。
「仕方ないだろ。」
カイが言った。
「それで、ヴィオナ。彼はいつ戻ってくるの?」
ソフィアがその女性警官に尋ねた。
「待たなくていいわ。彼から仕事を任されているから。」
ヴィオナが言った。
「よかった。」
カイは安心して言った。
「それで、あなたたちは何を手に入れてきたの?」
ヴィオナが尋ねた。
「多くはないけど重要な情報よ。全部メモしてあるから、もう説明する必要はないわ。」
ソフィアはメモをヴィオナに渡した。
「分かった。後でナツに伝えておくわ。」
ヴィオナが言った。
「いつレッド・ファイアを探しに動くんだ?」
カイが尋ねた。
「この前、災害に遭った第六都市の住民を組織が助け終わってからの予定よ。」
ヴィオナが言った。
「俺も参加していいか?」
ラジが尋ねた。
「何のために? あなたはもう第六都市を助ける任務を任されているでしょう?」
ステラが言った。
「でも、その後ならレッド・ファイアを探すのに参加できるだろ?」
ラジが言った。
「お前、本当に頑固だな。もう必要ないって言っただろ?」
カイが言った。
「でも、俺はやらなきゃいけないんだ。」
ラジが言った。
「お前は……」
カイは苛立った。
「実際、参加してもいいわ。カイも参加する?」
ヴィオナが言った。
「え? 俺?」
カイは少し考えた。
「たぶん俺も参加するよ。捜索中に監視しなきゃいけない奴がいるからな。」
カイはラジを見ながら言った。
「それじゃあ、私たちの用事は終わったから、先に行くわね。」
ソフィアが言った。
「うん。」
ヴィオナとステラが言った。
ソフィア、カイ、ラジは警察室から出ていった。
***
カフェの壁時計は、すでに午後3時を示していた。
サイは掃除用具を自分の部屋に片付け、それからそこにある椅子の一つに置いていた鞄を取った。
「姉さん、僕は先に帰るね。」
サイが言った。
「好きにしろ。」
店長の兄さんが自分の部屋の中から答えた。
サイはそれから、カフェのテーブルの一つの椅子で眠っているおじいさんのところへ近づいた。
彼の手は杖の上に置かれていて、体は椅子の背もたれに寄りかかったまま、まっすぐな姿勢を保っていた。
「爺ちゃん?」
サイがおじいさんに声をかけた。
(さっきからずっとおじいさんが眠っている。どうしてだろう、嫌な予感がする。)
「爺ちゃん? 大丈夫?」
サイはそれから、おじいさんの顔の前で手のひらを振った。
サイは不思議そうに彼を見た。
ゆっくりと彼の手を取り、それから脈を確認した。
サイは何の表情も浮かべず、おじいさんの手を再び杖の上に置いた。
「今までありがとう、爺ちゃん。」
サイが言った。
***
「サイはどこだ?」
レオンさんが本部の正門前でサイを探していた。
空はすでに暗くなっていた。
レオンさんは腕時計を見た。
もう夜の9時だった。
「先生も彼を探しているんですか?」
突然、ラジがやって来て言った。
「え? 彼は君と一緒じゃないのか?」
レオンさんが言った。
「違います。今日の午後、彼は訓練に来ませんでした。」
ラジが言った。
「成人したメンバーでさえ勝手に本部の外へ出ることは許されていないのに、彼はこの時間になっても戻ってきていない。」
レオンさんが言った。
「だから俺が外へ出て、彼を探しに行くんです。」
ラジが言った。
「分かった。それなら、彼を連れて戻ってきてくれ。」
レオンさんが言った。
「分かりました。」
ラジはそう言うと、本部の敷地から出ていった。
***
一方、サイは道路脇にある木の陰に座っていた。
その場所からは川が見えていた。
サイは膝を抱えながら座り、ただ川を無表情に見つめていた。
腕時計はすでに夜の10時を示していた。
その夜は月明かりだけが辺りを照らしていた。
ちょうどその時、ラジがその道を通りかかった。
彼はまっすぐ木のほうへ歩いていき、そこでサイの存在に気づいた。
サイは顔を膝に伏せた。
ラジはその木のほうへ近づいていった。
「サイ。」
ラジはサイの隣に立って言った。
「え?」
サイは顔を上げた。
「ラジ兄さん?」
サイが言った。
「ここで何をしている?」
ラジが言った。
「仕事の後、少し座っていただけだよ。」
サイはそう言って、それから空を見上げた。
「え? もう夜なの?」
サイが言った。
「だからお前を探しに来たんだ。」
ラジはサイの隣に座った。
「ごめん。どうやら訓練をサボっちゃったみたい。」
サイが言った。
「何か問題があるのか?」
ラジが言った。
「え? 問題?」
サイが言った。
「何の問題?」
サイが言った。
「お前も上手に知らないふりをするんだな。」
ラジが言った。
「でも、俺はもうお前のことをよく知っている。だから騙されない。」
ラジが言った。
「うん……実は、ちょっとだけ問題があるんだ。」
サイが言った。
サイはしばらく黙って、それから再び顔を膝に伏せた。
「それなら、どうしてここに隠れている?」
ラジが言った。
「僕は……ただ、人を避けているだけ。」
サイが言った。
「僕が本部から出る勇気を持てた理由は、学校と仕事だけだった。」
「それに、ルイスとミシェル、それから……」
サイは突然、泣くのをこらえた。
ラジは彼のほうを振り向いた。
「おじいさん……もういないんだ……」
サイは泣くのをこらえながら言った。
「いつも、おじいさんが僕を嫌っている人たちから遠ざけてくれていた。でも……」
「年齢のせいか?」
ラジが言った。
「たぶんそうだと思う。」
サイは顔を上げ、それから涙を拭った。
「その後、僕の店長が僕に怒って、結局僕をクビにしたんだ。」
サイは笑おうとしながら言った。
「それじゃあ、もう仕事をしていないのか?」
ラジが言った。
「うん。」
サイが言った。
「どうして町の人たちは僕を嫌っているの? 組織は僕にそんなことをしないのに。」
サイはまた泣きそうな表情になりながら言った。
「どうして町全体が僕を嫌っているのか、兄さんは教えてくれる?」
サイが言った。
ラジはしばらく黙っていた。
彼はただ川のほうを見つめていた。
「お前が違う扱いをされているのは……」




