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第20章 丘の上の誰か

翌日――


「なんで僕たちはここに来たの?」


サイは尋ねた。


サイ、ラジ兄、そしてカイは、ウィルダネスの丘の上を歩いていた。


「ここに立っている人が誰なのか知りたいんだろ?」


「俺はもう何度か見かけてる。」


カイは言った。


「それなら、どうして俺まで来なきゃいけないんだ?」


ラジ兄は言った。


彼は二人の前を歩いていた。


「気にならないのか?」


カイは尋ねた。


「ならない。」


ラジ兄は答えた。

「お前ってつまらないな。」


カイは言った。


「その謎の人物を見つけるまでは帰らないぞ!」


彼は言った。


「やれやれ……。」


ラジ兄は面倒くさそうに髪をかき乱した。


三人は頂上へ着いた。


ラジ兄が一番先に到着し、


町の方を見つめていた。


その後からサイとカイが到着する。


二人はラジ兄から少し離れた場所に立った。


「わあ。」


「景色がすごく綺麗だね。」


サイは感動して言った。


「あの時のオーディションでは、


こっちを見る時間がなかったんだ。」


サイは言った。


「当然だろ。」


「この町はヌメシアでも特に美しい町の一つなんだから。」


カイは言った。


「この町も何度も攻撃されてるのにね。」


「僕の町なんて今でも何の知らせもないよ。」


サイは言った。


「この町はゴールド・オーガニゼーションが治めている。」


「ほかの町は市長や王が治めていて、町ごとに政治も違う。」


カイは言った。


「ゴールド・オーガニゼーションは国を守り、

公正な政治を行う役目を持っている。」


「だからこの町は、ほかの町とは違うんだ。」


カイは説明した。


「僕が見た中では、今でも平和なのはこの町くらいだよ。」


「自然も、人々の暮らしもちゃんと残ってる。」


サイは言った。


「そうだろ?」


「だから俺はこの町が好きなんだ。」


カイは言った。


「カイ兄はどこの町の出身なの?」


サイは尋ねた。


「どこの町だったかな。」


「この国の仕組みなんて全然知らないからな。」


カイは言った。


「でも、町の人たちは、俺たちの町は一番南にあるって言ってた。」


カイは言った。


「それなら、カイ兄は第四の町の出身だね。」


サイは答えた。


「第四の町か。」


「たぶんそうなんだろうな。」


「その町は昔、政府に略奪されてしまったけど。」


カイは言った。


「その町はもうないの?」


サイは尋ねた。


「残念だけど、もうない。」


カイは答えた。


「災害で壊れたのは僕の町だけじゃなかったんだ。」


サイは言った。


「……あ。」


「そういえばラジを放っておいてたな。」


カイはラジ兄を見ながら言った。


「そ、そうだね。」


サイはラジ兄の方を向いた。


「ラジ兄。」


「景色が綺麗だね。」


サイは言った。


ラジ兄は答えなかった。


ただ町の方を見つめたままだった。


サイは不思議そうな顔をした。


「たぶん聞こえなかったんだ。」


カイは言った。


「カイ兄。」


「聞きたいことがある。」


サイは言った。


「何だ?」


カイは尋ねた。


「ラジ兄って……。」


「ほとんど笑わないよね。」


サイは言った。


カイは少しだけラジ兄を見た。


サイの言う通りだった。


カイは草の上に座った。


「ゴールド・オーガニゼーションに入った頃から、あいつはずっとあんな感じだった。」


カイは言った。


「でも、どうしてなの?」


サイも隣に座りながら尋ねた。


「ラジは第三の町の出身なんだ。」


「今でも政府から攻撃は受けていない。」


「まあ、今は致命的な病気が広がってるけどな。」


カイは言った。


「どんな病気なの?」


サイは尋ねた。


「ポリオだ。」


カイは答えた。


「ポリオ?」


サイは言った。


カイはうなずいた。


「ポリオ、正式にはポリオミエリティスは、

神経を攻撃して、永久的な麻痺を引き起こすこともある病気なんだ。」


「特に五歳以下の子どもが感染しやすい。」


「だから町の未来が危険なんだ。」


カイは説明した。


「ポリオって、命に関わる病気なの?」


サイは尋ねた。


「必ずじゃない。」


「でも呼吸の筋肉までやられたら命に関わる。」


カイは答えた。


「じゃあ、完全に命に関わる病気じゃないんだね。」


「ラジ兄の町は、そこまで危険じゃないんじゃない?」


サイは言った。


「それでも治さなきゃいけない病気なんだ。」


カイは言った。


「町には医療チームがいない。」


「いたとしても、その人たちまで同じ病気にかかっている。」


「それなのに政府は助けようとしない。」


カイは言った。


「流行が始まったのは四年前。」


「ラジが十一歳の頃だった。」


「町を救いたかったラジは、ゴールド・オーガニゼーションへ入り、医者になる勉強を始めた。」


「そして必死に努力した。」


「俺は、あいつなら必ず町を救えると思ってる。」


カイは言った。


「それが、ラジ兄があまり笑わない理由なの?」


サイは尋ねた。


「いや。」


「本当はもう一つ理由がある。」


カイは答えた。


「何?」


サイは尋ねた。


「そういえば。」


「どうしてラジの髪と目が赤いのか、

気にならなかったのか?」


カイは尋ねた。


「遺伝だから?」


サイは答えた。


「違う。」


「両親はそんな色じゃない。」


カイは言った。


「え?」


「でもカイ兄も同じじゃない。」


サイはカイを指差した。


「俺もどうしてこうなったのか分からない。」


「子どもの頃はこんな姿じゃなかった。」


カイは自分の目に触れながら言った。


「俺たち以外にも、


同じような人は何人かいる。」


「これは、強い憎しみや、心を大きく傷つける出来事、あるいは精神的な苦しみを抱えた属性使いによく起こる。」


「原因がなくなれば、元の姿へ戻る。」


カイは説明した。


「でもラジは、俺がこうなった理由を知ってるって言ってた。」


カイは言った。


「じゃあ、どうしてラジ兄はそうなったの?」


サイは尋ねた。


カイはサイの耳元へ顔を近づけた。


「ラジは、血の海の中で生まれたんだ。」


カイは小さな声で言った。


サイは驚いた。


「どういう意味?」


カイは続けた。


「第三の町は昔、三年間も虐殺が続いていた。」


「町中が血だらけだった。」


「その血が母親に影響したって、みんなは言っている。」


「だからラジの髪と目は、暗い血のような赤色になったんだ。」


「それに、周りから変だと言われ続けたせいで、ラジは自分に自信を持てなくなって、

その姿を嫌うようになった。」


「まあ、全部ただの噂らしいけどな。」


カイは言った。


「俺はてっきり、遺伝だと思ってた。」


サイは言った。


「そう言う人もいる。」


「でも、本当はそれだけじゃない。」


カイは言った。


「まあ、あれもラジを貶めるための噂かもしれない。」


「本当は、あの赤い色は、自分自身を受け入れられない気持ちの表れなんだ。」


カイは言った。


「知らなかった。」


サイは言った。


「まあ、そんなものだ。」


「だからこそ、あいつは自分の目標だけを見続けて、あまり笑わなくなったのかもしれない。」


カイは言った。


「そうなんだ。」


サイは言った。


その時、

ラジ兄が立っていた場所から歩き始めた。


「俺は先に帰る。」


二人のそばを通りながら、


ラジ兄は言った。


「え?」


「なんで帰るんだ?」


カイは尋ねた。


「もう付き合わない。」


ラジ兄は答えた。


「わ、分かった。」


「もしあの人を見つけたら知らせるよ!」


サイは言った。


突然、


ラジ兄は二人の近くで立ち止まった。


後ろ姿のまま、


静かに口を開く。


「そうだ、サイ。」


サイはラジ兄を見た。


「ポリオが故郷に大した影響はないと思っているなら、それは間違いだ。」


ラジ兄は言った。


サイとカイはその言葉に驚いた。


「ポリオウイルスは、口から体内に入り、腸で増殖した後、神経系へ広がる。」


ラジ兄は言った。


「呼吸筋まで侵されれば、命に関わる。」


「ウイルスによって呼吸に必要な筋肉が麻痺し、適切な治療を受けなければ、呼吸不全に陥るからだ。」


ラジ兄は続けた。


「残念ながら、あの町では住民のほとんどが、

すでに呼吸器まで侵されている。」


「そのため、病気によって命を落とす可能性は八〇%もある。」


ラジ兄は言った。


サイとカイは何も言えなかった。


その事実にただ驚くばかりだった。


「じゃあ、俺は戻る。」

そう言って、


ラジ兄は歩き去って行った。


サイとカイは、


しばらくその場で立ち尽くしていた。


「さっきの話……


ラジ兄に聞こえてたのかな?」


サイは言った。


「そうみたいだ。」


カイは答えた。


「そういえば、あいつの聴覚はすごく鋭いんだった。」


カイは言った。


「こうなると、あいつの様子は変わるぞ。」


カイは続けた。


「どう変わるの?」


サイは尋ねた。


「今までは、まだ優しかったし、話すこともそれなりにあっただろ。」


「でも、これからは違う。」


カイは言った。


「町の景色を見ると、いつも第三の町を思い出す。」


「それに、さっき話したことまで思い出したら、気分も変わってしまう。」


「たぶん、また前みたいに堅い態度になる。」


カイは言った。


「そ、そうなんだ……。」


サイは申し訳なさそうな表情を浮かべた。


その時、


カイはサイの右側へ目を向けた。


遠くの方から、


一人の人影がこちらへ歩いて来るのが見えた。


「見ろ!」


「あそこに誰かいる!」


カイは言った。


「どこ?」


サイは尋ねた。


確かに、


そこには一人の人がいた。


「早く隠れよう!」


二人は急いで茂みの中へ身を隠した。


その人物は、


さっき二人が座っていた場所まで歩いて来た。


背中にはリュックサックを背負っている。


そして、


町の景色を眺め始めた。


「え……。」


「あの人……。」


カイは言った。


「女の人!?」


二人は驚いた。


すると、


その女性はこちらの声に気づいた。


辺りを見回す。


「まずい!」


二人は慌てて口を押さえた。


「誰!?」


女性は言った。


「早く出てきなさい!」


彼女は叫んだ。


「あの声……。」


(どこかで聞いたことがある。)


カイは心の中で思った。


考えるより先に、


彼は立ち上がった。


突然出て行ったカイを見て、


サイは少し驚いた。


カイとその女性は、


お互いの顔を見つめる。


そして次の瞬間、


二人とも驚いた。


「ステラ!?」


カイは驚いて叫んだ。


(ステラ?)


サイは心の中でつぶやいた。


ラジ兄が戦争の時、


暴走したカイ兄を止めた場面を思い出す。


「お前に悪気がなかったことくらい分かっている。」


「だが、お前はやり過ぎた。」


「それに、ステラだって乱暴な人間は嫌いだっただろ?」


(ああ、


あのお姉さんがステラっていう名前なんだ。)


サイは身を隠しながら、


そっと二人をのぞいた。


「カイ?」


「どうしてこんなところにいるの?」


ステラは驚いて言った。


「お、俺は……。」


カイは何と答えればいいのか分からなかった。


「この子と遊んでただけだ。」


そう言うと、


カイはすぐにサイを引っ張り出した。


サイは少し驚いたが、


そのあと手を振った。


「子どもがいたの?」


ステラは尋ねた。


「ち、違う!」


「この子は候補生だ!」


カイは慌てて答えた。


「そうなんだ。」


ステラは言った。


「ところで、


いつ戻って来たの?」


「それに、


どうしてここへ?」


カイは尋ねた。


「私はここで教官になりたいの。」


「そうすれば、


またゴールド・オーガニゼーションへ戻れるから。」


ステラは答えた。


「じゃあ、


このお姉さんを本部まで案内してあげようよ。」


サイはカイを肘でつつきながら言った。


「お、お前は何を言ってるんだ!?」


カイは言った。


「あっ!」


「そうだった!」


「会議があるんだった!」


カイは突然言った。


二人は不思議そうにカイを見た。


「じゃあサイ、


このお姉さんを本部まで案内してくれ。」


「俺は先に行く!」


そう言うと、


カイはそのまま走り去った。


***


「まず最初に、あの戦争の時、私がここにいなかったことを謝りたい。」


アグラタさんは言った。


「私はウェイステンドの町にいた。」


「また略奪事件が起きて、


政府へ抗議しなければならなかったんだ。」


「大丈夫です。」


「私たちはあなたの立場を理解しています。」


レオンさんは答えた。


「ロッキー、オーロラ。」


「もう体は大丈夫か?」


アグラタさんは尋ねた。


「大丈夫です。」


「だから今回の会議にも参加できました。」


ロッキーさんは答えた。


アグラタさんはうなずいた。


「それで、あの戦争の後の報告はどうなっている?」


「報告書はもう作成しました。」


ソフィア姉はそう言って、


数枚の書類を差し出した。


一番上の紙には、


戦死した隊員たちの情報が記されていた。


「七〇パーセントも戦死したのか!?」


アグラタさんは驚いて言った。


「はい。」


ソフィア姉は答えた。


「間違いじゃないのか?」


「どうしてこんなに多いんだ?」


アグラタさんは言った。


「間違いありません。」


カイは答えた。


「私はあの時、


この目で見ました。」


カイは虚ろな表情で言った。


「普通なら、


ここまで多くなることはない。」


「このままでは隊員が足りなくなってしまう。」


アグラタさんは言った。


「飛行機が隊員たちに突っ込んだからです。」


オーロラ先生は言った。


「私が巻き込まれる前、


飛行機がほとんどの隊員たちに衝突するのを見ました。」


「それに炎まで広がって、


私はこんな大怪我を負いました。」


ロッキーさんは言った。


「そうだったのか……。」


アグラタさんは不安そうに言った。


「本当に申し訳ありません。」


ソフィア姉は言った。


「飛行機を動かしたのは私です。」


「炎をあんなに広げてしまったのも私です。」


「自分を責めるな、ソフィア。あの時のお前は操られていたんだ。」


レオンさんは言った。


「レオンの言う通りだ。あの時は俺たち全員が無事ではなかった。」


ロッキーさんは言った。


「それで、俺たちの仲間についてはどうする? こんなに少ない人数のままにしておくのか?」


カイは尋ねた。


「実はもう計画を立てていた。それについて君たちと話したいと思っている。」


アグラタさんは言った。


「何ですか?」


ロッキーさんは尋ねた。


「私の計画は――」


***


その日の午後、サイはゴールド・オーガナイゼーション本部の裏庭を走っていた。


ラジ兄さんは腕を組みながら、サイを見ていた。


「97。」


ラジ兄さんは数えた。


サイは走り続けていた。

彼の体はもう汗だくだった。


「98。」


ラジ兄さんは言った。


サイはただ円を描くように走っていた。

しかし、その円はとても大きかった。


「99。」


彼はまた言った。


サイはもうとても疲れているように見えた。

しかし、止まることはできなかった。


「100。」


サイはすぐに地面に横になった。

彼はとても疲れていて、息を切らしていた。


「まだ大丈夫か?」


ラジ兄さんは言った。


「分からない。」


サイは疲れながら答えた。


「まだ訓練を始めて一週間だろ。弱音を吐くな。」


ラジ兄さんはサイの髪をぐしゃぐしゃにした。


「どうして……どうして僕はこんな体力訓練をしないといけないの?」


「僕はただのボランティアになるだけなのに。」


サイは言った。


「体が弱いままでボランティアになれると思うか?」


ラジ兄さんは言った。


「お前は俺みたいになりたいと言っただろ。」


彼は言った。


「じゃあ……兄さんの昔の訓練はどうだったの?」


サイは尋ねた。


「お前の訓練の3倍はきつかった。」


ラジ兄さんは答えた。


「ええ?!」


サイは本当に驚いた。


「兄さんの訓練の5%しかやっていない僕が、どうやって兄さんみたいになれるの?」


サイは言った。


「これは普通の訓練だ。」


ラジ兄さんは言った。


「文句を言うより、早く腕立て伏せの姿勢を取れ。」


彼は言った。


「分かった。」


サイはその後、姿勢を取った。


「100回だよね?」


サイは尋ねた。


「今から200回に増やす。」


ラジ兄さんは言った。


「えっ?!」


サイはとても驚いた。


「何だ?」


ラジ兄さんは言った。


「な、何でもない。」


サイはすぐにできるだけ速く腕立て伏せを始めた。

ラジ兄さんはただ見ていた。


サイは腕立て伏せを続け、自分で数えていた。


「189、190、191、191、193。」


彼は全力で腕立て伏せを続けた。


「ラジ!サイ!」


突然、カイが彼らのところへ近づいて来た。


「何だ?」


ラジ兄さんは言った。


「200!」


サイは再び地面に横になった。


「おいおい!いい知らせがあるぞ!」


カイは言った。


「何?」


サイは力なく言った。


「この前の戦争で多くの仲間が亡くなったから、アグラタさんが良い提案を出したんだ。」


カイは言った。


「何だ?」


ラジ兄さんは尋ねた。


「今年、新しい参加者を受け入れるためのオーディションが再び開かれる!」


「もうすぐだ!」

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