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第2章 特別な許可

「母さんが話していた人たちって、この人たちのことだったんだ。」


サイは隠れていた場所からそっと姿を現した。


公園では、多くのゴールド・オーガニゼーションの隊員たちが忙しそうに勧誘をしている。


「さあ、ぜひご応募ください! 参加費は一切かかりません!」


一人の隊員が元気よく呼びかける。


「わあ、面白そうだな。」


サイは興味津々で近づこうとした。


しかし、その足が止まる。


「……そうだ。母さん、入るのは駄目って言ってたんだ。」


少し肩を落としながら、忙しく動き回る隊員たちを見つめる。


「仕方ないか。」


「入れないなら、散歩でもしよう。」


そう呟くと、サイはその場を離れた。


離れて歩いていても、あちこちで活動する隊員たちの姿が見える。


どうやら一か所だけではなく、公園全体に散らばっているようだった。


「本当にたくさんいるなぁ。」


サイは感心したように辺りを見回す。


「これだけ人数がいるなら、どうやって来たんだろう。」


「車だけじゃ足りないよね。」


歩きながら考えていると、不意に近くから声が聞こえた。


「じゃあ、一度戻ろうか。」


サイは思わず足を止める。


「私も荷物を置いてきたから、一緒に戻ろう。」


二人の女性隊員が話しながら歩き始めた。


「どこへ行くんだろう。」


「もしかして、本部?」


サイの目が輝く。


「面白そう!」


そう思った瞬間、二人に気づかれないよう、こっそり後をつけ始めた。


***


数分が過ぎた。


サイは木陰に隠れながら慎重について行く。


女性隊員たちは夢中でおしゃべりをしていて、後ろの小さな尾行者にはまったく気づいていない。


「はぁ……。」


サイは疲れ果て、大きな木にもたれかかった。


「結構歩いたのに、まだ着かないよ……。」


息を整えながら再び前を見る。


「……あれ?」


「お姉さんたちがいない!」


慌てて辺りを見回す。


どこにも姿が見当たらない。


「どうしよう……。」


サイの顔が青ざめる。


「帰り道まで分からなくなっちゃった……!」


焦ったサイは慌てて走り出した。


「追いかけないと!」


木々の間を全力で駆け抜ける。


そして――


突然、その足が止まった。


目の前に現れた光景に、サイは思わず息をのむ。


「わああああっ!!」


大きな歓声を上げた。


「ひ、飛行機だーーーっ!!」


そこには巨大な飛行機が堂々と停められていた。


「すごい!」


「こんな大きな飛行機、初めて見た!」


サイは迷うことなく飛行機のほうへ走っていく。


「かっこいい!」


「本物を見るのは初めてだ!」


目を輝かせながら機体の周りを歩き回る。


「入口はどこだろう?」


「中にも入ってみたいな。」


きょろきょろ探していると――


「あっ!」


「入口だ!」


その瞬間。


ガチャッ。


ちょうど扉が開いた。


サイは驚いて近くへ飛び込み、慌てて身を隠す。


飛行機の中から二人の男性が出てきた。


「もうすぐ新入隊員の試験だな。」


「早く後輩ができるといいな。」


一人が笑う。


もう一人も嬉しそうに頷いた。


「俺は訓練のほうが楽しみだ。」


「新人を教えるのって好きなんだよ。」


二人はそのまま歩き去っていった。


サイはそっと顔を出す。


「ふぅ……。」


「危なかった。」


安心したように胸をなで下ろす。


そして、小さく拳を握った。


「よし!」


「入ってみよう!」


サイは勢いよく飛行機の中へ駆け込んだ。


サイは誰もいないことを確認すると、こっそり機内へ入り込んだ。


「わあ、中ってこんなに広いんだ!」


興味津々な様子で通路を歩き回る。


「この飛行機の持ち主、お金持ちなんだろうなぁ。こんな立派な飛行機を持ってるなんて。」


サイは目を輝かせながら辺りを見回した。


「いいなぁ。僕もこんな飛行機が欲しいな。」


しばらく歩いていると、一つの部屋を見つける。


「ここは何の部屋だろう?」


ドアの隙間から中をのぞき込む。


「誰もいない。」


サイは嬉しそうに笑った。


「それなら思いっきり遊べるね!」


そう言うと、機内の通路を元気よく走り始めた。


楽しそうに走り回っていたその時、不意に足が止まる。


「……ん?」

サイは鼻をひくひくさせた。


「すごくいい匂い……。」


匂いのする方へ近づき、そっと部屋をのぞく。


「ここ、台所かな?」


中を見ると、調理器具が並んでいる。


「やっぱり台所だ!」


しかも、中には誰もいない。


サイはゆっくり扉を開け、そのまま中へ入っていった。


***


「よし、これで今日の仕事は終わりだ! みんな、飛行機へ戻るぞ!」


警察官の制服を着た一人の男性が声をかけた。


「はい!」


隊員たちは元気よく返事をすると、一斉に歩き出す。


先頭を歩く警察官の後ろを、全員が整然とついていく。


しばらくして飛行機へ戻ると、皆の顔には疲れが見えていた。


「みんなは先に休んでくれ。私は少し隊長のところへ行ってくる。」


その男――ロッキーはそう言った。


「了解です!」


隊員たちはそのまま機内へ入り、それぞれ休憩へ向かう。


「カイ、君も一緒に来てくれ。」


「はい!」


白衣姿の若い青年・カイは、ロッキーの後について歩き出した。


***


コンコン。


「入りなさい。」


部屋の中から年配の男性の声が聞こえる。


「失礼します。」


二人は部屋へ入った。


机に向かって書類を書いていた老人が顔を上げる。


「ロッキー、それにカイか。どうした?」


ロッキーは敬礼して口を開いた。


「アグラタ隊長、本日の新規隊員募集について報告に参りました。」


「そうか。」


アグラタは頷く。


「どうだった? 順調だったか?」


「はい。」


カイが答えた。


「各都市で多くの応募希望者が集まりました。」


「ほう。」


アグラタは少し微笑む。


「何人くらいだ?」


「十二歳が七十八名、十五歳が四十三名です。」


ロッキーが資料を見ながら答えた。


「合計百二十一名になります。」


「なるほど。」


アグラタは腕を組む。


「二十歳の応募者はいなかったのか?」


「いません。」


カイは首を横に振る。


「十五歳以下だけでした。」


「そうか……。」


アグラタは小さく息をついた。


「今年も個人志願者はいないということか。」


それでもすぐに表情を戻す。


「まあいい。今年は例年より人数が多いだけでも十分だ。」


「では次に――」


「きゃあっ!! あなた、誰なの!?」


突然、部屋の外から女性の叫び声が響いた。


「侵入者!? 一体ここで何をしてるの!?」


「侵入者?」


ロッキーとカイは顔を見合わせる。


バタン!


勢いよく扉が開いた。


「隊長! 大変です!」


少しふくよかな料理人姿の女性が、慌てた様子で部屋へ飛び込んでくる。


「どうした?」


アグラタが落ち着いた声で尋ねた。


「侵入者を見つけました!」


そう言うと女性は、一人の少年をぐいっと前へ押し出した。


「この子です!」


「えっ……?」


カイは目を丸くする。


「子ども?」


アグラタは思わず笑みを浮かべた。


「どこで見つけたんだ?」


「台所です!」


女性は腕を組みながら答える。


「せっかく作った料理を勝手に食べていたんですよ!」


「違うよ!」


サイは慌てて反論した。


「全部じゃない! 少ししか食べてないもん!」


「少しでも同じです!」


女性はぷくっと頬を膨らませた。


「まあまあ。」


アグラタは軽く手を上げる。


「彼のことはこちらで話を聞こう。君は戻っていい。」


「はい。」


女性は一礼すると部屋を出ていった。


その直前――


ゴツン!


「いたっ!」


女性はサイの頭を軽く叩く。


「悪い子なんだから!」


そう言い残して去っていった。


女性に背中を押され、サイは部屋の中へ転がる。


「いてて……。」


床に座り込み、お尻をさすった。


ロッキーが腕を組む。


「お前、どこの子だ?」


厳しい声だった。


「ぼ、僕は……。」


サイは少し縮こまる。


「ロッキーさん。」


カイが優しく口を開いた。


「そんなに怖がらせなくてもいいじゃないですか。」


そしてサイに笑いかける。


「見たところ、悪い子には見えませんよ。」


「えへへ。」


サイは嬉しそうに笑った。


「でも質問には答えてくれるよね?」


ロッキーは腰に手を当てる。


「う、うん。」


サイは頷いた。


「僕は第一都市から来たんだ。」


「第一都市?」


カイが首をかしげる。


「さっき訪れた町の名前って、そういう名前だったんですね。」


「知らなかったの?」


サイは驚く。


「ええ。」


カイは苦笑した。


「僕にはこの国の行政区分を知らない事情があるので。」


「へぇ。」


サイは不思議そうな顔をした。


「僕でも知ってるのに。」


その言葉にアグラタとカイは思わず笑う。


アグラタが優しく尋ねた。


「それでサイ君。」


「どうやってここまで来たんだい?」


サイは元気よく立ち上がる。


「もちろん!」


そう言ってアグラタの近くまで歩いていく。


その瞬間。


アグラタの表情がわずかに変わった。


(この子は……。)


彼はサイの顔を静かに見つめる。


一方、カイは笑いながら尋ねた。


「まさか料理を食べるために来たわけじゃないよね?」


「違う!」


サイは勢いよく首を振る。


「飛行機が好きだから来たんだ!」


「そうなんだ。」


アグラタが頷く。


「それで?」


「最初は皆さんの組織に入りたかったんだけど、お母さんに止められちゃって。」


サイは少し寂しそうに笑う。


ロッキーは鼻で笑った。


「当然だ。」


「君みたいないたずら好きな子は入れない。」


「ロッキー。」


アグラタが静かに制する。


「最後まで話を聞きなさい。」


「……失礼しました。」


ロッキーは渋々黙った。


サイは続ける。


「そのあと歩いていたら、お姉さん二人がこっちへ来るのを見つけたんだ。」


「だからこっそり後をついてきたら、ここに着いた。」


「そうか。」


アグラタは頷く。


「君の名前は?」


「サイ・サルヴァハルサです!」


元気よく頭を下げた。


「よろしくお願いします!」


「年齢は?」


「十歳です!」


カイは苦笑する。


「それじゃ駄目だね。」


「あと二年待ってから来よう。」


そう言ってサイの頭を優しく撫でた。


「でも今入りたい!」


サイは真剣な目になる。


「父さんや今の政府の人みたいになりたいんだ!」


ロッキーはため息をつく。


「無理だ。」


「その小さな体じゃ試験にも受からない。」


「どうして!?」


サイは思わず大きな声を出した。


「僕は入りたい!」


「静かにしろ!」


ロッキーが怒鳴る。


「ここで大声を出すな!」


「僕は絶対入りたい!」


サイは必死だった。


「父さんみたいになりたいんだ!」


「もういい。」


その時、アグラタが静かに口を開く。


「サイ。」


「はい?」


「君には特別に許可を与えよう。」


部屋が静まり返る。


「……特別許可?」


「今年の入団試験を受けてもいい。」


「ええっ!?」


ロッキーとカイが同時に声を上げる。


「やったーーー!!」


サイは飛び跳ねて喜んだ。


「ですが、隊長!」


ロッキーは慌てて一歩前へ出た。


「この子はまだ十歳です!」


「問題ない。」


アグラタは落ち着いた口調で答える。


「私は、この子ならできると信じている。」


「やったー!」


サイはその場で何度も飛び跳ねた。


「ありがとうございます!」


ロッキーは納得できない様子だった。


「本当に大丈夫なんですか?」


「最低年齢は十二歳ですよ!」


サイはロッキーのほうを向く。


「年齢なんて関係ないよ!」


「大事なのは、自分を信じることだ!」


ロッキーは眉をひそめた。


「隊長。」


「この子は参加資格すら満たしていません。」


「なぜ特別許可を与えるんですか?」


アグラタは静かにロッキーを見る。


「これは私の判断だ。」


「君が反対する必要はない。」


ロッキーは小さく舌打ちした。


「……分かりました。」


サイは首をかしげる。


「参加資格って何?」


カイが優しく説明を始める。


「知らなかったんだね。」


「まず一つ目。」


「参加できるのは十二歳以上。」


「でも君は隊長の特別許可をもらったから、この条件は大丈夫だよ。」


サイは何度も頷く。


「うん!」


カイは指を二本立てた。


「二つ目。」


「心も体も強いこと。」


ロッキーが腕を組みながら言う。


「君にその覚悟はあるか?」


「もちろん!」


サイは迷わず答えた。


「あります!」


アグラタは穏やかに微笑む。


「そして三つ目。」


「弱くないこと。そして、信頼できる人間であることだ。」


サイは真剣な表情になる。


アグラタは続けた。


「ここでは信頼が何より大切だ。」


「私たちの信頼を裏切らないと約束できるかい?」


サイは背筋を伸ばえた。


「はい!」


「約束します!」


アグラタは満足そうに頷いた。


「よろしい。」


「それでは、自由に見学してくるといい。」


サイの顔がぱっと明るくなる。


「ありがとうございます!」


元気よく頭を下げると、そのまま部屋を飛び出していった。


勢いよく閉まる扉を見送りながら、ロッキーはため息をつく。


「はぁ……。」


「どうして、あんな子に特別許可なんて与えたんです?」


「正直、私にはあの子が役に立つとは思えません。」


カイも静かに頷いた。


「私も同じです。」


「隊長が、ただ気まぐれで許可を出したとは思えません。」


アグラタは何も答えず、サイが走り去っていった扉を見つめ続けていた。


そして、小さくつぶやく。


「あの子は……。」


「ある人物によく似ている。」

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