第16章 敗北寸前
「まずい!」
「状況がひっくり返っちゃった!」
サイは叫んだ。
戦場は完全に壊滅していた。
至る所に死体と血が散らばり、
煙と土ぼこりが辺りを覆っている。
「まさか……。」
「負けたのか?」
ルイスは信じられないという表情で言った。
現実はその通りだった。
ゴールド・オーガニゼーションの隊員たちは次々と倒れていた。
「七割がやられた……。」
「どうしよう?」
「私たちも助けに行く?」
ミシェルは言った。
「でも、僕たちに何ができるんだ?」
ルイスは答えた。
レオンさんは岩に頭を強くぶつけ、
頭から血を流していた。
オーロラ先生は、
飛行機の機体と大岩の間に挟まれている。
ソフィア姉は、
敵に操られたままだった。
そして無事なのは、
ロッキーさんただ一人だけだった。
(まずい……。)
(残っている者はもうわずかしかいない。)
ロッキーさんは心の中で思った。
「どうやら追い詰められたようだな。」
ケンは笑った。
「カイ兄!」
その時、
突然サイが叫んだ。
ルイスとミシェルが振り向く。
「今みんなを助けられるのは、
カイ兄しかいない!」
サイは言った。
「迎えに行くってこと?」
「本部へ行くの?」
ミシェルは尋ねた。
「きっと本部にいる!」
そう言うと、
サイはすぐにルイスのスケートボードへ飛び乗った。
「急ごう!」
「早く!」
サイは叫んだ。
「分かった!」
二人もスケートボードへ乗る。
ルイスはすぐに走り出した。
ロッキーさんは全力で応戦していた。
しかし、もう先ほどまでのような余裕はない。
敵の数があまりにも多すぎた。
襲いかかる攻撃をすべて受け止め、
巨大なハンマーで敵を容赦なく殴り飛ばす。
それでも敵は次々と押し寄せてくる。
ロッキーさんは頭上でハンマーを大きく回転させた。
そして全力で地面へ叩きつける。
「ドォン!」
激しい衝撃が地面を揺らし、
敵たちは一斉に遠くへ吹き飛ばされた。
「おお、おお。」
「素晴らしいな。」
ケンは拍手しながら近づいて来る。
---
「ひゃあああ!」
「サイ、もう少しゆっくり!」
ルイスは慌てて叫んだ。
サイがスケートボードをものすごい速さでこいでいたからだ。
「急がないと!」
「みんな危ないんだ!」
サイは叫ぶ。
「でも、本当にカイ兄を連れて行けば助けられるの?」
ミシェルは尋ねた。
「分からない。」
「でも、カイ兄ならきっと助ける方法を考えてくれる。」
サイはそう言いながら、
スケートボードをさらに速く走らせた。
「着いた!」
サイは嬉しそうに叫ぶ。
三人はゴールド・オーガニゼーション本部の正門へ到着した。
「早く降りよう!」
ルイスが言う。
三人はすぐに飛び降りた。
「カイ兄を探そう!」
サイは叫ぶ。
ルイスとミシェルもうなずき、
三人はゴールド・オーガニゼーション本部の中へ走って行った。
「カイ兄!」
サイは叫ぶ。
「カイ兄!」
ルイスとミシェルも一緒に探し始めた。
「カイ兄!」
「どこにいるの?」
「助けが必要なんだ!」
三人は部屋という部屋を探し回った。
しかし、
カイ兄の姿はどこにもなかった。
「どこにいるんだ……。」
ルイスは息を切らしながら言った。
「本当に……。」
「ここにいるのかな……。」
ミシェルも肩で息をしていた。
「絶対にいるよ!」
「でも、どこだろう?」
サイは必死に考える。
「立ち止まっていても見つからない。 」
「もう一度探そう。」
ルイスは再び歩き出した。
「あっ!」
突然サイが声を上げた。
ルイスとミシェルが振り向く。
「そうだ!」
「きっと教官室にいる!」
サイは言った。
「だったら最初から言えよ!!」
ルイスとミシェルは同時に叫んだ。
サイは思わず怯える。
「ご、ごめん……。」
「今思い出したんだ。」
サイは申し訳なさそうに言った。
「とにかく急ごう!」
ミシェルは言った。
サイはすぐに走り出し、
ルイスとミシェルもその後を追いかけた。
---
カイ兄は本当に何もできなかった。
両手は後ろ手に手錠をかけられたまま、
ただその場で座っているしかない。
「どうすればいいんだ……。」
カイ兄は虚ろな目でつぶやいた。
「みんなが町を守るために戦っているのに……。」
「俺だけここで何もせず座っているなんて……。」
そう言うと、
再び黙り込んだ。
もう自力で手錠を外そうとすることさえ諦めていた。
その時――
ガチャ……
教官室のドアノブがゆっくり回った。
カイ兄は不思議そうにそちらを見る。
「誰だ……?」
ゆっくりと扉が開く。
もし敵だった場合に備えて、
カイ兄は身構えた。
しかし、
そこへ現れたのは――
サイ、
ルイス、
そしてミシェルだった。
「カイ兄!」
サイは叫んだ。
「サイ?」
カイ兄は驚いた。
「やっぱりここにいた!」
サイは安心したように近づいた。
「どうしてここへ来た?」
「新しく合格した隊員は、それぞれの部屋で待機しているはずだろ?」
カイ兄は尋ねた。
「隊員って?」
「僕は試験に落ちたよ。」
サイは答えた。
「そ、そうだったな……。」
カイ兄は気まずそうに言った。
「サイって落ちたんだ。」
ルイスはミシェルへ小声で言った。
「でも、それならなおさら。」
「どうしてここへ来たんだ?」
カイ兄は尋ねる。
「大変なんだよ!」
「なのにどうしてカイ兄はここで座ってるの?」
サイは焦って言った。
「俺の手を見ろ。」
カイ兄が言う。
サイたちは、
手錠をかけられたカイ兄の両手へ目を向けた。
「でもカイ兄!」
「悪い知らせがあるんだ!」
サイは続けた。
「何だ?」
「早く言え!」
カイ兄は急かした。
「ゴールド・オーガニゼーションの部隊がやられた。」
ルイスはすぐに答えた。
「何だって!?」
カイ兄は目を見開いた。
「本当だよ!」
「だから助けてもらおうと思って来たんだ!」
サイは言った。
「だったらもっと早く言え!」
カイ兄は勢いよく立ち上がろうとした。
しかし、
手錠につながれていて立てない。
「くそっ!」
「こんな状態じゃ行けない!」
カイ兄は悔しそうに言った。
「早くカイ兄を助けよう!」
サイは叫んだ。
ルイスとミシェルはうなずき、
カイ兄のそばへしゃがみ込む。
二人は手錠を外そうとした。
「無駄だ!」
「鍵がないと外れない!」
カイ兄は言った。
「鍵はどこ?」
ミシェルは尋ねた。
「知らない。」
「それに探しても意味はない。」
カイ兄は答えた。
「どうして?」
ルイスは尋ねた。
「鍵はきっとロッキーさんが持っている。」
「俺がここから逃げ出さないようにするためだからな。」
カイ兄は答えた。
「それは違うよ!」
サイはすぐに言った 。
カイ兄は不思議そうにサイを見つめる。
「ロッキーさんは今、戦ってるんだよ。」
「だから戦いの途中で鍵を失くしてしまって、もしそうなったらカイ兄がここから出られなくなる。」
「そんな危険をロッキーさんが冒すはずないよ。」
サイは真剣な表情で言った。
「た、確かに……。」
カイ兄は納得したようにつぶやく。
「子どものほうが、お前よりよっぽど筋が通ってるな。」
ルイスは皮肉っぽく言った。
「何だと!?」
カイ兄は思わず言い返した。
サイは立ち上がる。
「ロッキーさんの机はどれ?」
そう尋ねた。
「あそこだ。」
「窓の近くにある机だ。」
カイ兄は答えた。
サイはすぐに机へ駆け寄る。
引き出しを開け、
鍵を探し始めた。
カイ兄、
ルイス、
ミシェルの三人は、
期待しながらその様子を見守っていた。
「見つけた!」
サイは鍵を高く掲げた。
三人は一斉に喜ぶ。
「よし!」
「早く外してくれ、サイ!」
カイ兄は急いで言った。
サイは戻って来ると、
手錠の鍵を開けた。
カチャッ――
ついにカイ兄は自由になった。
「やっと外れた。」
「ありがとう。」
カイ兄は指を動かしながら言った。
「これで自由だね!」
サイは嬉しそうに笑った。
「急ごう。」
「みんなはもう待っていられない。」
ルイスは言う。
「分かった!」
カイ兄は立ち上がった。
「みんなを助けに行こう!」
---
ロッキーさんは本気で怒っていた。
そして巨大なハンマーをケンへ向かって投げつけた。
ハンマーはケンを吹き飛ばし、
オーロラ先生の時と同じように、
大岩へ叩きつける。
違うのは、
彼を押さえつけているのが飛行機ではなく、
巨大なハンマーだったことだ。
ケンは苦しそうな表情を浮かべる。
「下がれ!」
「俺たちはまだ負けていない!」
ロッキーさんは叫んだ。
ケンは口元をゆがめて笑う。
「負けていない?」
「周りをよく見てみろ。」
ロッキーさんは一瞬戸惑い、
辺りを見渡した。
そして驚愕する。
味方はもうわずかしか残っていなかった。
多くの隊員が命を落とし、
戦場は悲惨な姿になっていた。
「ど……どうして……。」
ロッキーさんは信じられなかった。
ケンは鼻で笑う。
「かなり驚いたようだな。」
そう言うと、
自分を押さえつけていた巨大なハンマーを押しのけた。
信じられないことに、
ケンはあっさり拘束から抜け出してしまう。
その光景に、
ロッキーさんはさらに驚いた。
「どうだ?」
「すごいだろ?」
ケンは得意そうに笑う。
ロッキーさんは右手をハンマーへ向けた。
自分のもとへ戻そうとする。
しかし――
ハンマーはまったく動かない。
「なっ……。」
ロッキーさんは困惑した。
「悪いな。」
ケンはそう言うと、
手をゆっくり動かした。
すると、
巨大なハンマーは、
その動きに合わせるように動き始めた。
「お前の武器は、
もう俺が支配した。」
ケンは自分の能力を見せつけるように言った。
ロッキーさんは何もできない。
完全に動きを封じられてしまった。
「さあ。」
「自分の武器と戦ってみろ。」
ケンは巨大なハンマーをロッキーさんへ向けた。
ロッキーさんは素早く身をかわす。
巨大なハンマーは、
あと少しで命中するところだった。
「おお。」
「避けられるのか。」
ケンは笑う。
「じゃあこれはどうだ!」
巨大なハンマーは勢いよく方向を変えた 。
ロッキーさんは避ける暇がない。
とっさに両腕で体を守る。
ドゴォン!!
巨大なハンマーはロッキーさんを吹き飛ばし、
彼の体は大きく後方へ弾き飛ばされた。
「はははは!」
「いい気味だ!」
ケンは大笑いした。
そのまま攻撃を続け、
ロッキーさんに息をつく暇すら与えない。
「さっさと降参しないと、
本当に死ぬぞ!」
ケンは笑い続けながら言った。
「……ん?」
突然、
ケンは困惑した。
ロッキーさんの姿が、
目の前から消えていた。
「ど……どこだ!?」
慌てて辺りを見回した瞬間――
ロッキーさんが突然、
ケンの真横に現れた。
何の前触れもなく、
その拳を叩き込む。
「ドガッ!」
ケンは数メートル先まで吹き飛ばされた。
何度も地面を転がる。
巨大なハンマーも、
もはやケンの支配下にはなかった。
「くっ……このクソジジイ……。」
ケンは顔を腫らしながら吐き捨てた。
「次からは年長者を敬うことを覚えるんだな!」
ロッキーさんは言った。
「ケン!」
先ほどラジ兄と戦っていた白服の男が、
二人のもとへ駆け寄って来た。
「今度は誰だ?」
ロッキーさんは身構える。
白服の男はロッキーさんを見て、
薄く笑った。
「なるほど。」
「まだ一人残っていたのか。」
ロッキーさんは再び戦闘態勢を取る。
「俺も混ぜてもらっていいか?」
今度はレオンさんと戦っていた男も加わった。
その後ろには、
ソフィア姉も一緒にいた。
「ソフィア……?」
ロッキーさんは驚く。
「まずはこいつを片づけよう。」
催眠術を使う男は言った。
「よし。」
「始めるか。」
もう一人の男はライターを取り出した。
「お前。」
「早くあいつを攻撃しろ。」
催眠術使いの男はソフィア姉へ命じた。
ソフィア姉は無言でうなずき、
攻撃の構えを取る。
「やれ!」
男が叫ぶ。
ちょうどソフィア姉の扇から風の力が放たれた瞬間、
もう一人の男がライターを投げた。
突然、
巨大な炎が勢いよく噴き上がる。
ロッキーさんは完全に不意を突かれた。
どうすればいいのか分からない。
炎は一直線にロッキーさんへ襲いかかった。
ロッキーさんは慌てて土の壁を作り出す。
しかし、
少し遅かった。
土の壁が体を覆う前に、
炎が数秒間ロッキーさんの体を焼いた。
それでも、
土の壁の中へ身を隠すことには成功した。
炎はそのまま戦場全体へ燃え広がる。
そこに生えていた草木を次々と焼き尽くしていった。
まだ動ける者たちは、
必死に身を守る。
炎はあっという間に、
辺り一面へ広がっていった。
「ハハハハ!」
二人の男は満足そうに笑った。
炎は長くは続かなかった。
しかし、
あちこちでは今もなお炎が燃え続けていた。
その頃――
カイはその場に立ち尽くしていた。
目の前に広がる光景を、
ただ呆然と見つめている。
カイはたった今 、
戦場へたどり着いたばかりだった。
一方、
サイたち三人は再び物陰へ身を隠していた。
カイは完全に言葉を失う。
仲間たちは皆、
傷ついていた。
その姿を見ていられなかった。
「な……何なんだ、これは……。」
カイはゆっくりと視線を動かす。
そして、
まだ動けずに倒れているラジ兄の姿が目に入った。
「ラジまで……。」
重傷を負ったロッキーさん。
頭から血を流しているレオンさん。
飛行機と大岩の間に挟まれたオーロラ先生。
敵に操られているソフィア姉。
そして、
血を流しながら地面に倒れたまま動けない仲間たち。
そのすべてを見たカイは、
もう耐えられなかった。
「見ろ。」
「新しい奴が来たぞ。」
先ほどスタンガンを使った男が指を差した。
催眠術使いの男も振り向く。
「何だ?」
「一人でそんなところに立っていていいのか?」
男は笑った。
カイは何も答えない。
ただ仲間たちを見つめ続けていた。
「おっと。」
「悪いな。」
「ずいぶんたくさん死んじまったみたいだ。」
スタンガンを持つ男は笑いながら言う。
カイは怒りに満ちた目で二人を見つめた。
二人には罪悪感など欠片もなかった。
「でもな。」
「あいつらを殺したのは、
さっきの炎じゃない。」
催眠術使いの男は言う。
「あの炎は、
あのジジイを始末するためだけのものだった。」
カイは倒れているロッキーさんを見つめた。
「……お前たち。」
「何をした……。」
カイは低い声で言った。
その声には、
激しい怒りが込められていた。
「見れば分かるだろ?」
「お前の仲間はみんな死んだ。」
男たちは笑った。
カイは怒りで震えていた。
だが、
なぜかずっと俯いたままだった。
「俺たちと戦うために来たのなら――」
「殺される前にさっさと帰れ。」
男は言う。
「こいつらの死体みたいにな。」
二人は邪悪な笑みを浮かべた。
「……死体?」
カイは静かにつぶやく。
二人の男は違和感を覚えた。
すると、
カイの肌が少しずつ赤く染まり始める。
濃い赤ではない。
それでも、
二人は驚きを隠せなかった。
「お前たちが壊したその死体は――」
カイはゆっくりと顔を上げる。
「俺の仲間なんだぁぁぁ!!」
カイは怒鳴った。
二人の男はさらに驚く。
カイの瞳は、
まるで燃え上がる炎のようだった。
「こいつ……。」
「何が起きている?」
男たちは思わずつぶやいた。




