第15章 戦争
「お前たちの仲間はどこだ?」
「まさか怖くて来られないのか?」
ケンの仲間の一人が言った。
ラジ兄は何も答えず、ただ黙って彼らの前に立っていた。
彼らはすでに、とても広い何もない空き地へ到着していた。
そこにはわずかな草木しか生えていない。
両者は向かい合って立つ。
ラジ兄は一人だけ。
その反対側には、いつでも襲いかかれるように構えた敵たちが並んでいた。
「おい!」
「仲間はまだ来ないのか?」
「もう待ちくたびれたぞ。」
敵の一人が笑う。
「もし五分経っても来なかったら――」
「俺たちは町を襲いに行くぞ。」
ラジ兄は静かに口を開いた。
「……やってみろ。」
「おお、やっと喋ったな。」
男たちは笑った。
「なあ坊主。」
「待つのにも飽きたし、一つ賭けをしないか?」
「……何だ。」
ラジ兄は短く尋ねた。
「五分以内にお前の部隊が来なかったら――」
「ここでお前を殺す。」
男は邪悪な笑みを浮かべた。
ラジ兄はすぐには答えなかった。
敵は皆、少年が怯えると思って笑みを浮かべる。
「……構わない。」
「え?」
その返事に全員が戸惑った。
ラジ兄はまるで何事でもないような表情だった。
「おい!」
「お前みたいな弱いガキに何ができる!」
男たちは怒鳴る。
「一つ教えてやる。」
ラジ兄は静かに言った。
「自分が強いと思うなら――」
「同じくらい強い相手か、自分より強い相手を探せ。」
「ほう?」
「つまり自分が弱いと認めるのか?」
男は笑う。
「違う。」
「そう言ったのは、お前たちが勝手に俺を弱いと思っているからだ。」
ラジ兄は答えた。
「生意気な奴だ。」
男は顔をしかめた。
「それに――」
ラジ兄は続ける。
「お前たちは大人らしくない。」
敵は一瞬きょとんとした。
その意味が分からなかった。
「俺の言葉だけで簡単に感情的になる。」
「それがお前たちが子どもだという証拠だ。」
「何だと!?」
敵は本気で怒り始めた。
「クソガキが!」
「口だけは一人前だな!」
「この生意気なガキをぶちのめせ!」
「俺がやる。」
一人の男がロケットランチャーを構えた。
照準はラジ兄。
「死ねぇぇぇ!」
「ドンッ!」
ロケット弾が一直線にラジ兄へ飛んでいく。
ラジ兄はその場から動かない。
ただ無表情のままロケットを見つめていた。
「ドォォォン!!」
激しい爆発音が響き渡る。
大量の土煙が一帯を覆い尽くした。
敵たちは煙で何も見えない。
だが勝利を確信して笑っていた。
やがて煙が少しずつ薄くなる。
全員がラジ兄の姿を探した。
しかし煙が完全に晴れると――
そこには巨大な土の壁がそびえ立っていた。
ラジ兄は死んでいたのではない。
土の壁が彼を守っていたのだ。
「な……何だと!?」
敵は信じられなかった。
「悪いな、ラジ!」
「どうやら少し遅れたようだ!」
ロッキーさんが満足そうに笑いながら言った。
敵全員が驚く。
ロッキーさん率いる部隊が到着したのだ。
警察の制服を着た者。
医者の白衣を着た者。
そして普段着の隊員たち。
レオンさんは両手に青いカランビットを構えていた。
オーロラ先生は赤い薙刀。
ソフィア姉は白い扇を構えている。
ロッキーさんはラジ兄を守っていた土の壁へ手を向けた。
次の瞬間。
土の壁は一瞬で消え去った。
「問題ありません。」
「ちょうどいい時間です。」
ラジ兄は言った。
「ようやく来たか。」
「ずいぶん待たせてくれたな。」
ケンは言った。
ロッキーさんは薄く笑った。
「そうか?」
「まさか、お前たちみたいな悪党が、律儀に待っていてくれるとは思わなかったよ。」
「ふざけるな!」
「もう十分だ!」
「これ以上俺たちを怒らせるな!」
ケンの部隊は合図もなく一斉に突撃した。
その瞬間――
ロッキーさんは両手を何かを握るような形に構えた。
すると突然、
土と岩でできた巨大なハンマーが彼の手の中に現れた。
ラジ兄も同じように武器を取り出す。
愛用のマンダウを抜いた。
「突撃!!」
ロッキーさんが叫ぶ。
ゴールド・オーガニゼーションの隊員たちは、それぞれの敵へ向かって一斉に走り出した。
殴り合い。
蹴り合い。
武器を振るい合う。
必要ならば相手を殺すことさえためらわない。
激しい戦争が始まった。
物陰から見ていたサイ、ルイス、ミシェルは、その光景に圧倒されていた。
「わあ……。」
「僕、戦争を見るのは初めてだ。」
サイは目を輝かせながら言った。
「本当にここにいて大丈夫なのか?」
ルイスは少し不安そうに尋ねる。
「大丈夫だって。」
「ここなら戦いを見ていられる。」
ミシェルは落ち着いて答えた。
「ねえ。」
「どっちが勝つと思う?」
ミシェルが聞いた。
「勝ったら何がもらえるの?」
サイは首をかしげた。
「バカ。」
「戦争に賞品なんてあるわけないだろ。」
ルイスは呆れたように言った。
ケンは剣を大きく振り下ろす。
ロッキーさんは巨大なハンマーで素早く受け止めた。
「何度も俺たちと戦って……。」
「疲れないのか?」
ケンは笑う。
ロッキーさんも笑みを浮かべた。
「この国を守る者にとって――」
「疲れることなど仲間みたいなものだ。」
自信満々に答えた。
「そうか。」
「それなら、お前たちの組織を解散すればどうだ?」
「そうすれば俺たちは平和になれる。」
ケンは言った。
ロッキーさんは口元をゆがめる。
「そんなことは絶対にない。」
そう言うと、
巨大なハンマーで押し返した。
ケンは大きく後ろへ弾き飛ばされる。
しかし、
ケンもまた不敵に笑った。
「いいだろう。」
「それがお前たちの答えなら。」
そう言って再び駆け出し、
剣を振り下ろした。
その頃、
別の敵兵もラジ兄へ剣を振るう。
ラジ兄は軽く身をかわした。
そのまま跳び上がり、
相手の顔へ鋭い蹴りを叩き込む。
男は勢いよく地面へ倒れた。
しかし――
ラジ兄は囲まれていた。
十人もの敵が円を描くように取り囲んでいる。
「どこへ逃げるつもりだ?」
敵は笑いながら武器を構えた。
ラジ兄は何も言わない。
全員の動きを冷静に見つめている。
そして敵が一斉に飛びかかった。
その瞬間、
ラジ兄はその場で大きく回転しながらマンダウを振るった。
敵は一瞬動きを止める。
次の瞬間、
マンダウから放たれた電撃が一斉に敵の体を駆け抜けた。
「ぐあああっ!」
十人は同時に感電し、
その場で倒れていく。
ラジ兄はすぐに走り出した。
だが突然、
白い服を着た男が剣を構えて空中から飛びかかって来た。
ラジ兄はすぐにかわす。
今度の相手は、
敵の幹部の一人だった。
「ずっと機会を狙っていた。」
「ようやくお前と戦える。」
男は笑った。
ラジ兄は返事をしない。
今は戦いだけに集中していた。
「覚悟しろ。」
「ここがお前の墓場だ!」
男は勢いよく剣を振り下ろした。
男は勢いよく剣を振り下ろした。
ラジ兄はすぐにマンダウで受け止める。
そのまま相手の剣を押し返し、
一気に突きを放った。
男は素早く身をひるがえしてかわす。
そしてすぐに反撃し、
再び剣を振るった。
ラジ兄も右へ身をかわしたため、
男の剣は空を切るだけだった 。
男は苛立ったようにラジ兄をにらむ。
「……あれ?」
その時、サイが何かに気付いた。
「カイ兄は?」
「どうして来てないの?」
サイは尋ねた。
「もしかして怖くなったんじゃない?」
ミシェルは言った。
「そんなはずない。」
「カイ兄なら来るはずだよ。」
サイは首を振った。
一方その頃――
レオンさんはケンの部下たちを次々と倒していた。
近づいて来る者は誰であろうと容赦なく攻撃する。
誰一人として彼に触れることさえできない。
レオンさんは青いカランビットを投げた。
カランビットはまるでブーメランのように回転しながら敵の間を駆け抜ける。
敵たちは次々と深い傷を負い、
やがてカランビットは再びレオンさんの手へ戻って来た。
「なかなかやるじゃないか。」
一人の男が声をかける。
三人目の白い服の男だった。
男はレオンさんの前へ立つ。
「だが、お前の運もここまでだ。」
「これから相手をするのは俺だからな。」
男は不敵に笑った。
一方、
オーロラ先生は敵の首を薙刀で切り落としていた。
長い武器は彼女にとって大きな武器だった。
敵の攻撃をすべて受け流し、
剣しか持たない敵は、
薙刀を持つオーロラ先生へ近づくことすらできない。
そしてオーロラ先生は力強く薙刀を振るう。
敵の剣はすべて弾き飛ばされ、
武器は地面へ落ちた。
敵は驚く。
しかし反応する暇もなく、
オーロラ先生はその体を突き刺した。
鮮血があたりへ飛び散った。
一方、ソフィア姉は――
扇をまるで剣のように使って戦っていた。
敵の攻撃を、その白い扇だけで次々と受け流していく。
「もう諦めろ!」
「そんな扇一本で勝てるわけがない!」
敵はソフィア姉を笑った。
ソフィア姉は口元を少しだけゆがめる。
「まだ私を甘く見ないほうがいいわ。」
その瞬間――
ソフィア姉の扇から、
鋭く輝く刃が飛び出した。
敵は驚いて目を見開く。
「これでも受けてみなさい!」
ソフィア姉は勢いよく扇を振るった。
鋭い刃は敵の腹を深く切り裂く。
「うあああっ!」
男は激しい痛みに悲鳴を上げた。
それを見た仲間たちは一斉にソフィア姉へ襲いかかる。
しかしソフィア姉は怯まない。
次々と現れる敵を相手に戦い続けた。
一方、
レオンさんと戦っていた白服の男は、
次第に追い詰められていた。
息は荒く、
全身には無数の傷が刻まれている。
レオンさんは勝利を確信したように笑う。
両手の人差し指で、
二本のカランビットを器用に回していた。
「まずい……。」
「完全に見誤っていた。」
男は心の中でつぶやく。
「あの巨大なハンマーを使う男……。」
「あいつなら俺たちの兵を簡単に何十人も倒せる。」
「幸い、今はケンが相手をしている。」
男はロッキーさんへ目を向けた。
「それに……。」
「あの電撃を操る少年。」
「あいつは危険すぎる。」
「一撃で何人もの敵を倒してしまう。」
今度はラジ兄を見る。
「さらに薙刀を使うあの女。」
「あの戦い方はあまりにも残酷だ。」
男はオーロラ先生を見つめた。
「もう他に方法はない……。」
「切り札を使うしかない!」
ソフィア姉は敵たちを相手に善戦していた。
しかし時間が経つにつれて、
敵の数はますます増えていく。
次第にソフィア姉は押され始めた。
「どうした?」
「もう力が尽きたのか?」
敵は嘲笑した。
ソフィア姉の呼吸は乱れ始める。
疲労が少しずつ体を蝕んでいた。
「構うな!」
「そのまま殺せ!」
敵たちは一斉にソフィア姉へ向かって走り出した。
(このままじゃ終わらない……!)
ソフィア姉は心の中でつぶやく。
彼女は扇から刃を引っ込めた。
そして扇を大きく開く。
敵はさらに近づいて来る。
数え切れないほどの人数だった。
その瞬間――
ソフィア姉は勢いよく扇をあおいだ。
巨大な突風が一気に吹き荒れる。
敵たちは一瞬で吹き飛ばされた。
あまりにも強烈な風だったため、
敵だけではなく、
味方の何人かまで思わずそちらへ視線を向けた。
レオンさんと戦っていた男も振り返る。
すると突然、
ソフィア姉に吹き飛ばされた敵たちが、
その男のほうへ次々と飛んで来た。
「なっ!?」
男は驚いた。
暴風は勢いを失わない。
敵たちははるか遠くまで吹き飛ばされていく。
「す……すごい……!」
男は心の中で驚いた。
やがて風は少しずつ弱まり、
その向こうに立つソフィア姉の姿が見え始めた。
「なるほど……。」
「あいつがやったのか。」
男はソフィア姉を見つめた。
「どうしてあいつはソフィアばかり見ている?」
レオンさんは不思議そうにつぶやく。
男は不気味な笑みを浮かべた。
「決めた。」
「あいつを標的にしよう。」
そう言うと、
男はリボルバーを取り出し、
ソフィア姉へ向けた。
「な、何をする気だ!?」
レオンさんは叫んだ。
「バン!」
銃声が響く。
弾丸は一直線にソフィア姉へ向かって飛んだ。
突然それに気付いたソフィア姉は、
何もする暇がなかった。
「やった!」
男は勝ち誇ったように言う。
しかし、
ソフィア姉は死んではいなかった。
彼女はその場で動かず立ち尽くし、
顔を下へ向けていた。
「何が起きた……?」
レオンさんは驚いた。
ゆっくりと、
ソフィア姉は顔を上げる。
しかし、
彼女の様子は明らかに違っていた。
瞳は灰色へと変わっていた。
男は手をゆっくり動かす。
すると、
ソフィア姉もまるで人形のように、
男の動きに合わせて体を動かした。
「まさか、お前……。」
レオンさんは驚いて言った。
「その通り。」
「今、この女は俺の支配下だ。」
男は不気味に笑う。
そしてソフィア姉を操り、
レオンさんのほうへ歩かせた。
「お前には勝てそうにない。」
「だったら、この女を相手にしたらどうだ?」
男は笑った。
ソフィア姉は迷いなくレオンさんへ斬りかかった。
レオンさんは慌てて身をかわす。
ソフィア姉は追撃をやめない。
何度も扇で突きを放ち、
レオンさんを追い詰めていく。
「ソフィア!」
「目を覚ませ!」
レオンさんは攻撃を避けながら叫んだ。
「無駄だ。」
「こいつは目を覚まさない。」
男は笑う。
「お前は若い教官たちを、自分の子どものように思っているんだろ?」
「だから攻撃できない。」
男は言った。
レオンさんは何も答えなかった。
ソフィア姉の攻撃をかわすだけで精一杯だった。
「さて……。」
「ここから戦況をひっくり返す方法を考えないとな。」
男は周囲を見渡した。
自分たちの部隊は追い詰められている。
「何か使えるものは……。」
そう呟きながら視線を動かす。
そして、
一番大きな飛行機が目に入った。
しかも、
男のすぐ近くに止まっていた。
「……あった。」
男は邪悪な笑みを浮かべた。
男はソフィア姉の動きを止めた。
その様子を見て、
レオンさんは戸惑う。
「ついて来い。」
男は命令した。
ソフィア姉はくるりと向きを変え、
その男の後を追って走り出す。
「おい!」
「今度は何をする気だ!?」
レオンさんは叫んだ。
男はソフィア姉を連れて、
飛行機の後ろまで走って行く。
そして、
巨大な飛行機を見つめながら、
邪悪な笑みを浮かべた。
「早く扇を使え。」
男は命令した。
ソフィア姉は無言でうなずく。
そして、
扇を大きく開いた。
それを見たレオンさんは、
突然目を見開く。
「まさか……!」
彼は何が起ころうとしているのか悟った。
次の瞬間、
ソフィア姉は勢いよく扇をあおぐ。
巨大な突風が飛行機を押し出し、
飛行機は猛スピードで前へ動き始めた。
「まずい!」
レオンさんは慌てて横へ飛び退く。
飛行機にひかれる寸前だった。
しかし、
勢いよく地面へ倒れ込み、
頭を近くの岩へ強くぶつけてしまう。
ラジ兄はその飛行機を見て、
思わず注意が逸れた。
「馬鹿め!」
「よそ見をするな!」
ラジ兄の相手は叫んだ。
その瞬間――
ラジ兄の体が激しく震えた。
まるで電撃を受けたように、
その場へ倒れ込む。
白い服の男は、
スタンガンを握りながら、
邪悪な笑みを浮かべていた。
「油断したな。」
「集中を切らしたお前じゃ、自分に襲いかかる電気を制御できないだろう?」
男は笑った。
ラジ兄は苦しそうに顔をしかめ、
男をにらみつける。
(意識を失うわけにはいかない……。)
ラジ兄は激しい痛みに耐えながら、
必死に意識を保とうとしていた。
オーロラ先生は、
飛行機の方へ視線を向けた。
しかし、
避ける暇はなかった。
「きゃあっ!」
飛行機はオーロラ先生に激突し、
そのまま地面を引きずっていく。
その場にいた全員が、
必死に逃げ始めた。
しかし残念なことに、
ゴールド・オーガニゼーションの隊員たちは
逃げ切ることができなかった。
多くの隊員が、
オーロラ先生と同じように
飛行機にはね飛ばされ、
ある者は巻き込まれ、
ある者は地面を引きずられていった。
飛行機は止まることなく、
前方にある大きな岩へ向かって突き進む。
「ドオオオオン!!」
激しい衝突音が辺り一帯に響き渡った。
かなり離れた場所に隠れていた
サイ、ルイス、ミシェルでさえ、
あまりの大きな音に思わず耳を塞いだ。
戦場の状況は一気に悪化した。
ゴールド・オーガニゼーションの隊員たちの大半が、
その攻撃によって倒れてしまった。




