第14章 敵の襲来
「サイを見なかったか?」
カイは尋ねた。
「どうした?」
ラジ兄は答えた。
二人はゴールド・オーガニゼーション本部の廊下で出会った。
「サイに聞きたいことがあるんだ。でも、今朝から姿が見えない。」
カイは言った。
「あいつなら外へ出た。仕事を探しに行くと言っていた。」
ラジ兄は答えた。
「仕事?何のために?」
カイは尋ねた。
「知らない。」
ラジ兄はそう言うと、そのままカイの横を通り過ぎた。
「おい!待てよ!」
カイは呼び止めた。
「まだ何かあるのか?」
ラジ兄は面倒そうに言った。
「お前にも聞きたいことがある。」
「じゃあ、聞け。」
「敵が襲撃してきたら、いつもお前も戦いに行くよな?」
カイは尋ねた。
ラジ兄は黙ってうなずいた。
「ずっと不思議だったんだ。」
「どうして俺だけ、いつも敵と戦わせてもらえないんだ?」
カイは言った。
「どういう意味だ?」
ラジ兄は尋ねる。
「ロッキーさんは何度も俺をここから遠くへ連れて行った。」
「戻って来た時には町はもうめちゃくちゃになっていた。」
「それが何度もあったんだ。」
カイは言った。
「どうして急にそんなことを聞く?」
ラジ兄は言った。
「つまりさ……。」
「みんな、俺を敵と戦わせたくないみたいなんだ。」
「俺ってそんなに弱いのか?」
カイは悔しそうに言った。
ラジ兄は驚いたような表情を浮かべた。
まるで答えを知っているかのようだった。
(違っていてほしい……。)
(でも、嫌な予感がする。)
カイは心の中で思った。
「ラジ兄!」
「カイ兄!」
突然、声が聞こえた。
二人が声のする方を見ると、サイと二人の友達が走って来た。
三人は二人の前で立ち止まる。
「サイ?」
「どうした、お前たち?」
ラジ兄は尋ねた。
「兄ちゃん!兄ちゃん!」
「大変なんだ!」
サイはもう一度駆け寄る。
「おい!そんなに急ぐな!」
ルイスが言った。
「ドサッ!」
また三人は転んでしまった。
カイは吹き出して笑う。
「ははは!」
「お前たち、何してるんだ?」
そう言いながら近寄った。
サイたちは立ち上がる。
「兄ちゃん!」
「大変なんだ!」
サイは言った。
「何があった?」
「早く話せ。」
ラジ兄は言った。
その間、カイは三人を縛っているロープをほどこうとしていた。
「さっき悪い奴に会ったんだ!」
ルイスは言った。
「それで?」
「何があった?」
ラジ兄は再び尋ねた。
「ちゃんと話して!」
「話が飛び飛びだよ!」
ミシェルは言った。
「お前たち、どうしたんだよ。」
カイはまだ後ろでしゃがみながら言った。
「さっきの悪い奴が……。」
「俺たちを襲撃するって言ってた!」
サイは言った。
「何だって!?」
ラジ兄とカイは驚いた。
「そ、そんなはずない!」
「きっと遊んでるだけだろ。」
カイは信じようとしなかった。
「嘘じゃない!」
「俺たちはあいつらに襲われたんだ!」
サイは縄をほどかれながら言った。
「本当なのか?」
カイは立ち上がった 。
「サイが嘘をつくはずがない。」
ラジ兄は言った。
「カイ!」
「早くロッキーさんに報告しろ!」
「わ、分かった!」
カイはすぐにその場を走り去った。
「住民をすぐ避難させないと。」
ラジ兄は歩き出した。
「僕も行くよ、兄ちゃん!」
サイは言った。
「駄目だ!」
「お前と新しく合格した者たちは、ここから出てはいけない!」
ラジ兄は言った。
「で……でも……。」
「見て!」
突然ルイスが窓の外を指差した。
全員が窓へ駆け寄る。
空には数機の戦闘機が、ゴールド・オーガニゼーション本部へ向かって飛んで来るのがはっきり見えた。
(まずい……。)
ラジ兄は心の中でつぶやく。
「お前たちはここにいろ。」
「俺が外へ行って、あいつらと話してくる。」
そう言うと、ラジ兄は走り去った。
「兄ちゃん、どこへ行くの?」
サイは尋ねた。
「もし本当に俺たちを壊滅させるつもりなら、町から遠ざける。」
そう言い残し、走って行った。
「ラジ兄は、あいつらをどこへ連れて行くつもりなんだ?」
サイは尋ねた。
「たぶん、この町の外れにある空き地だ。」
ルイスは答えた。
「今、一番近い場所はそこしかない。」
ルイスは続けた。
「でも、どうしてラジが一人で敵のところへ行ったの?」
サイは不思議そうに尋ねた。
カイはサイのほうを見た。
「この組織では、それが基本なんだ。」
「もし部隊が到着する前に、一人の隊員だけで対処できる問題なら、その隊員が先に対応する。」
「さっきラジが敵のところへ向かったのも、そのためだ。」
「もちろん、無理だと判断したらすぐに仲間へ知らせる。」
「でも、一人で解決できるなら、そのまま解決する。」
カイは説明した。
「なるほど……。」
サイは小さくうなずいた。
「敵は危ないの?」
サイは尋ねた。
「ものすごく危険だ。」
「最初の二回の襲撃では、敵もゴールド・オーガニゼーションも、さっきルイスが言った場所で戦うことに同意していた。」
ミシェルは言った。
「どうしてそんなことを知ってるんだ?」
「あの頃、まだ僕たちは生まれてなかっただろ?」
ルイスは尋ねた。
「私は情報を集めたの。」
「でも三回目と四回目の襲撃では、敵は何の知らせもなく突然現れた。」
「そのせいで、この町で戦いが始まってしまった。」
ミシェルは説明した。
「そして、その被害を受けたのが私たちの町だった。」
ミシェルは続けた。
「だから、さっきのお医者さんのお兄さんは、もう二度と町を危険にさらしたくなかったんだと思う。」
「だから敵を町の外へ連れて行こうとしたんだ。」
ミシェルは言った。
「みんな、その戦いを見に行きたいと思わない?」
サイは尋ねた。
「お前も戦うつもりなのか?」
ミシェルは聞き返した。
「いや、見るだけだよ。」
サイは答えた。
「何のために?」
「死にたいのか?」
ルイスは言った。
「なんだか面白そう。」
「行ってみようよ。」
ミシェルは突然言った。
「行こう!」
「でも、どうやって行くの?」
サイは尋ねた。
ルイスはため息をついた。
「分かったよ。」
「運転手に頼んで、僕たちの分のスケートボードを買ってきてもらう。」
***
ラジ兄はゴールド・オーガニゼーション本部の正門へ向かって歩いていた。
その表情は変わらず無表情で、まっすぐ前だけを見つめている。
門の前には、きちんとした服装の集団が立っていた。
彼らはラジ兄が近づいて来るのを待っていた。
ラジ兄は彼らの前で立ち止まる。
一人ひとりを鋭い目で見渡した。
しかし相手は、一人でやって来た少年を見て、見下すように笑っていた。
一人の男が鼻で笑う。
「何だこれは?」
「子ども一人が来るとはな。」
男は言った。
「何の用だ。」
ラジ兄は冷たく尋ねた。
「お前たちのリーダーはどこだ?」
男たちは尋ねた。
「ここにはいない。」
ラジ兄は答えた。
「何だと?」
「こんな時にいないのか?」
白い服を着た男があざ笑うように言った。
彼は仲間二人と同じ白い服を着ており、後ろにいる部下たちは黒い服を着ていた。
「それがどうした。 」
ラジ兄は冷たく言った。
「まず自己紹介をしよう。」
「俺の名前はケンだ。」
男はそう言ってラジ兄へ手を差し出した。
ラジ兄は何も言わない。
ただ鋭い目でケンを見つめるだけで、その手を握ろうとはしなかった。
「握手する気はないようだな。」
ケンはそう言って手を引っ込めた。
「生意気なガキだな。」
仲間の一人が言った。
「それがどうした。」
ラジ兄は言い返した。
「子どものくせに、いい度胸じゃないか。」
その男はラジ兄へ近づく。
そして腰から剣を抜いた。
「死ね!」
***
「ロッキーさん!」
「何をしているんですか!?」
カイは戸惑いながら叫んだ。
彼は指導員室に閉じ込められていた。
両手は後ろで壁につながれた手錠で拘束され、床に座ることしかできない。
ほかの指導員たちは、その様子を見ているだけだった。
「お前はここから出てはいけない。」
ロッキーは言った。
「どうしてですか!?」
「俺、何か悪いことをしましたか?」
「どうして拘束するんですか!?」
カイは叫ぶ。
「お前を俺たちと一緒にあいつらと戦わせるつもりはない。」
ロッキーは静かに答えた。
「どうしてですか!?」
「どうして俺だけ戦わせてもらえないんですか!?」
カイは納得できなかった。
「その理由を、お前が知る必要はない。」
「状況が落ち着くまで、ここで大人しくしていろ。」
そう言ってロッキーは部屋を出て行こうとした。
「そんなの納得できません!」
「レオンさん!」
「助けてください!」
カイはレオンへ叫んだ。
「俺に頼む相手を間違えたな。」
レオンはそう言うと、指導員室を出て行った。
「な、何なんですか!?」
「誰も助けてくれないんですか!?」
カイは叫ぶ。
「急ごう。」
「早く現場へ向かわないと。」
オーロラは言った。
「先生!」
「お願いです!」
「俺はきっと役に立てます!」
「だからここから出してください!」
カイは必死に頼んだ。
オーロラは首を横に振る。
「あなたを助けるつもりはない。」
そう言い残して去って行った。
残る希望はソフィアだけだった。
ソフィアは笑いをこらえながらカイを見つめている。
「ソフィアさん……。」
「あなたも助けてくれないんですか?」
カイは情けない声で言った。
ソフィアは微笑む。
「ごめんね、カイ。」
「でも、私にも無理なの。」
そう言って軽く手を振り、その場を去った。
「俺も行く。」
ロッキーも仲間たちの後を追って部屋を出る。
「ロッキーさん!」
「お願いです!」
「外してください!」
カイは最後に叫んだ。
しかしロッキーは振り返らない。
もう部屋から去っていた。
カイは本当に困り果てていた。
まだその場に拘束されたままだった。
「どうすればいいんだ……。」
「誰か俺を助けてくれ……。」
カイはつぶやいた。
***
「うあああっ!」
男は全身を駆け巡る電流によって身動きが取れなくなった。
仲間たちは驚き、稲妻のように放たれる強い光に顔を照らされ、思わず目を細める。
男は何もできず、苦しみながら叫び続けることしかできなかった。
ラジ兄は男の胸から手を引き離した。
男はその場へ倒れ込み、仲間たちはさらに驚いた。
「死んだのか?」
一人が思わず口にする。
「いや……。」
「まだ息はある。」
別の男が答えた。
ケンも驚きを隠せなかった。
信じられないという表情でラジ兄を見つめる。
一方のラジ兄は、鋭い視線を向けたまま何も言わない。
「な、なかなかやるじゃないか。」
ケンは口元をゆがめて笑った。
ラジ兄は返事をしない。
相変わらず冷たい目で彼らを見つめ続ける。
「どうやら機嫌が悪いようだな。」
「まあ、俺たちは引き下がるつもりはないが――」
ケンが言いかけた。
「もう行けるか。」
ラジ兄は冷たく言った。
ケンは再び黙り込む。
どうやらラジ兄には世間話など通じないようだった。
「……分かった。」
「それがお前の望みなら。」
ケンは言った。
全員が背を向け、それぞれの飛行機の横を通り過ぎながら歩いて行く。
そのうち数人だけが飛行機へ乗り込み、ラジ兄が指定した場所へ向かう準備を始めた。
ラジ兄も彼らの後を追って、その場を離れた。
***
ロッキーは数百人の隊員とともに、ゴールド・オーガニゼーション本部を出た。
大勢の隊員たちは乗り物が並ぶ場所へ向かって歩いて行く 。
「指定した場所へ急ぐぞ。」
「全員、準備はいいか!」
ロッキーが言った。
「はい!」
隊員たちは一斉に返事をした。
その一方で、サイ、ルイス、ミシェルの三人は、ロッキーたちの様子を物陰から見ていた。
「本当に行くのか?」
ルイスは尋ねた。
「もちろん。」
「行かない理由なんてないよ。」
サイは答えた。
「分かった。」
「じゃあ、このスケートボードを使おう。」
ルイスは言った。
「スケートボードなんて持ってたんだ。」
サイは驚いた。
「前までは持ってなかった。」
「さっき運転手に頼んで買ってきてもらったんだ。」
ルイスは答えた。
「値段は聞かないでおくよ。」
サイは言った。
「どうして?」
ミシェルは尋ねる。
「サイは僕の持ち物の値段を聞くたびに驚くんだ。」
「これもたった三億八千七百万ルピアだから。」
ルイスは平然と言った。
「それを『たった』って言うの!?」
ミシェルは目を丸くした。
「お前、本当に感覚がおかしいぞ!」
「ボカッ!」
サイは腹を立て、そのままルイスの頭を殴った。
「それじゃ、これから現場へ向かう!」
「急いで車に乗れ!」
ロッキーが命令した。
「はい!」
隊員たちは一斉に車へ向かって走り出し、次々と乗り込んでいく。
「よくやった、ラジ。」
「敵を町から引き離すことができたな。」
ロッキーはそう言うと、自分も一台の車へ乗り込んだ。
「出発するみたい。」
サイは車列を見ながら言った。
「いてて……。」
「仕方ない、俺たちも追いかける準備をしよう。」
ルイスは頭をさすりながら言った。
「でも、そのスケートボードで追いつけるの?」
ミシェルは尋ねた。
「あっ!」
「ジェットターボ機能付きのスケートボードを注文するのを忘れてた。」
ルイスは思い出したように言った。
「もういいよ。」
「君の金銭感覚には十分驚かされた。」
サイはそう言って、ミシェルのほうを見る。
「あっ、そうだ、ミシェル。」
「ロープダートは使える?」
サイは尋ねた。
「何のため?」
ミシェルは聞き返す。
その頃、すべての車が本部を出発し、ゴールド・オーガニゼーション本部を離れて走り去っていく。
サイは最後尾の車が本部の敷地を出るまで、その様子を見つめていた。
三人はすでに一枚のスケートボードの上へ立っている。
先頭がミシェル、真ん中がサイ、そして後ろがルイスだった。
「今だ!」
サイは叫んだ。
ミシェルはロープダートを大きく振り回し、そのまま投げる。
ロープダートは最後尾の車のナンバープレートへしっかりと引っ掛かった。
「よし!」
「出発だーー!」




