第12章 アルバイト
(思っていたような試験結果ではなかった。)
(だから僕は、仕事を探すことにした。)
(ゴールド・オーガニゼーション本部に特別に住む許可をもらった。)
(でも、だからといって何もしないでいるわけにはいかないよね。 )
「人手は欲しい。だが、お前をここで雇うつもりはない!」
店の男はきっぱりと言った。
「何でもします。」
「どうか仕事をさせてもらえませんか?」
サイは尋ねた。
「子どもを働かせる店があると思うか?」
「さっさと帰れ!」
男は言った。
「……分かりました。」
サイはしょんぼりした様子で、その場を後にした。
サイはリュックを持ったまま歩き続ける。
右を見ても左を見ても、町は多くの人でにぎわっていた。
「ほかにどこで仕事を探そうかな。」
「今まで誰も僕を雇ってくれなかった。」
サイはつぶやく。
「でも、それも仕方ないよね。」
「僕はまだ子どもだから。」
「おーーい! サイーー!」
誰かがサイを呼ぶ声が聞こえた。
サイは声のしたほうを振り向く。
「ルイス!」
サイも声を返した。
ルイスは長銃身のピストルを持ちながら走ってきた。
「やあ!」
「こんなところで何をしてるんだ?」
ルイスは尋ねた。
「え?」
「またそのピストルを持ってるの?」
サイは尋ねた。
「これ?」
「これは昨日のじゃない。」
「昨日、お母さんがまた新しく買ってくれたんだ。」
そう言いながら、道端に置かれていたドラム缶へピストルを向けた。
「まさか、昨日のより高いんじゃないよね。」
サイは言った。
「高くないよ。」
「たった二千万だ。」
「二千万!?」
「どんなピストルがおもちゃで二千万もするの!?」
サイは驚いて叫んだ。
「パン!」
ルイスが引き金を引く。
ドラム缶は弾き飛ばされた。
「え?」
「それ、本物のピストルなの?」
サイは尋ねた。
「まさか。」
「本物そっくりのおもちゃを頼んだんだ。」
「昨日の君の吹き矢みたいに、僕もすごいおもちゃが欲しかったから。」
ルイスは答えた。
「吹き矢って、おもちゃなのかな?」
サイは昨日の吹き矢を思い浮かべた。
「大事なのは、自分たちの武器で好きなように遊べることだよ。」
ルイスは言った。
「この国では武器を持つことは認められていても、だからといって勝手に使っていいわけじゃないよ。」
「それに、僕たちはまだ未成年なんだから。」
サイは言った。
「それで、ここで何をしてたの?」
ルイスはピストルを折りたたみながら尋ねた。
「わあ!」
「そのピストル、折りたためるの?」
サイは感心した。
「うん。」
「それも高い理由の一つかもしれないね。」
ルイスはそう言って、ピストルを上着の中へしまった。
「どこへ行くんだ?」
「さっきから聞いてるだろ。」
ルイスは言った。
「町を歩きながら、仕事を探してたんだ。」
サイは頭をかきながら答えた。
「仕事?」
「何のために働くんだ?」
「まだ子どもなのに。」
ルイスは言った。
「うーん、どう説明したらいいかな。」
サイは困ったように言った。
「お父さんとお母さんは?」
「どうして働くことを許してるの?」
ルイスは尋ねた。
「それは……。」
サイが答えようとした、その時だった。
「分かった。」
「本当に仕事を探してるなら、いつも行くカフェへ連れて行ってあげる。」
ルイスはサイの肩を組み、そのまま歩き出した。
「カフェ?」
サイは言った。
「そう。」
「掃除はできる?」
「それとも料理は?」
ルイスは尋ねた。
「料理なら結構得意だよ。」
「前はよくお母さんの手伝いをしてたから。」
サイは答えた。
「それならよかった!」
「きっと採用してもらえるよ。」
---
「着いたよ。」
ルイスは店の前で足を止めた。
「ここ。」
サイは店を見上げる。
「ここ?」
「そう。」
「カプチーノが一番人気なんだ。」
「コーヒーは作れる?」
ルイスは店へ向かって歩きながら尋ねた。
「いや、あまり……。」
サイは答えた。
「でも、料理は得意なんだろ?」
「だったら、パンやほかの料理を作ればいい。」
ルイスは言った。
「でも、採用してもらえるか分からないよ。」
「なぜか分からないけど、この町の人たちは僕のことを好きじゃない気がするんだ。」
サイは言った。
「どうしてそう思うんだ?」
ルイスは尋ねる。
「分からない。」
「僕にも理由は分からないんだ。」
サイは首を横に振る。
「やってみなきゃ分からないよ。」
「ほら、入ろう!」
ルイスはそう言うと、サイの腕を引いて店の中へ入っていった。
「こんにちは!」
ルイスは店の若い店主へ声をかけた。
「やあ、ルイス。」
「今日はどうしたんだ?」
店主は尋ねる。
「今、人を募集してる?」
ルイスは聞いた。
「ちょうどホール係を一人募集しているけど。」
「どうしてだ?」
店主は答えた。
「じゃあ、この子を雇ってくれない?」
ルイスはサイを指差した。
店主はぎこちなく笑うサイを見る。
「この子を?」
「ほかに誰かいなかったのか?」
店主は言った。
「え?」
「どうして?」
ルイスは不思議そうに尋ねる。
「見てみろ。」
「まだ子どもじゃないか。」
「何ができるんだ。」
「それに……。」
「こいつだけは雇いたくない。」
店主は小さな声でつぶやいた。
「え?」
「何て言ったの?」
ルイスは聞き返した。
「い、いや。」
「何でもない。」
「でも、この子をここで働かせる気はない。」
店主は言った。
「どうして?」
「料理もできるのに。」
ルイスは言う。
「大丈夫だよ。」
「もし募集していないなら、僕は行くから。」
サイは申し訳なさそうに言った。
「残念だなあ。」
ルイスは肩を落とした。
「じゃあ行こう。」
「ほかの店を探そう。」
ルイスは言った。
「どうして食べ物のお店ばかりなの?」
サイは尋ねる。
「だって、君に会いに来た時、ご飯も食べられるだろ?」
「だから、ここにはあまり来なくなるかもしれない。」
ルイスは答えた。
「ま、待って、ルイス!」
店主は慌てて呼び止めた。
「どうしたの?」
ルイスは振り返る。
(しまった……。)
(この子を雇わなかったら、ルイスが来なくなるじゃないか……。)
店主は心の中でつぶやく。
「や、やっぱり考え直した。」
「君の友達をここで雇おう。」
店主は言った。
「本当!?」
二人は同時に声を上げた。
「ああ。」
「明日から来てくれ。」
店主はうなずく。
「やったー!」
「成功だ!」
二人は飛び跳ねながらハイタッチした。
「ありがとう!」
二人は笑顔で言った。
「ああ、どういたしまして。」
店主は答えた。
「それじゃあ、明日働く前に遊びに行こう!」
ルイスはそう言うと、サイと一緒に店を飛び出していった。
「はあ……。」
「店が暇にならないといいけど。」
店主はため息をついた。
「それで、今からどこへ行く?」
サイは尋ねる。
「どこだろう。」
「僕も分からない。」
ルイスは答えた。
「じゃあ、何して遊ぶ?」
サイは聞いた。
---
「もうすぐ新しい隊員たちを指導する時期ね。」
「気づけば、ずいぶんたくさんの新人を教えてきたわ。」
ソフィアはそう言いながら、一杯の紅茶を入れていた。
メンターたちはメンター室に集まり、それぞれ椅子に座っていた。
「でも、私とカイのところには、医師階級へ昇格したいという隊員の報告はまだ来ていません。」
オーロラが言った。
「みんな、昇格するよりシニアとして残るほうに興味があるのかもしれないわ。」
「それとも、このまま残るか昇格するか、まだ考えている最中なのかもしれないわね。」
ソフィアは言った。
「合格者はそれほど多くないのに、お前たちは大勢の教え子を期待しているんだな。」
レオンは言った。
「試験自体はそんなに難しくないのに、どうしてあんなに不合格者が多いんでしょう。」
カイは首をかしげる。
「私たちには簡単でも、受験者にとっては違うもの。」
ソフィアは椅子に座りながら答えた。
「私は団長と話をしてきた。」
ロッキーが口を開く。
「何についてですか?」
オーロラが尋ねた。
「組織は新しい受験者に対して少し甘すぎるという意見が出てな。」
「だから、いくつか試験内容を変更することになった。」
ロッキーは答えた。
「どんな変更ですか?」
カイが尋ねる。
「一つ目だ。」
「ウィルダネスの森でキノコを探す試験では、これからは俺たちが陰から見守ることはしない。」
「つまり、受験者を助けるために待機する者はいない。」
その言葉に、その場の全員が驚いた。
「本当にそれでいいんですか?」
「あの時だって私が見張っていたのに、多くの受験者が命を落としました。」
「それなのに、誰も見守らないなんて……。」
カイは言った。
あの時、奇妙な生物に追われるサイの姿を見たことを思い出す。
そして森の奥で、血まみれになった無残な遺体を目にした光景も脳裏によみがえった。
「命が懸かっているからこそ、受験者は全力を尽くす。」
「それだけの実力がある者だけを、正式な隊員として迎え入れるべきだ。」
レオンは言った。
(まずい……。)
(今までは危険になれば、俺たちがすぐ助けていたから死人は出なかった。)
(でも、これからは……。)
カイは不安そうに考える。
(このままじゃ、来年の試験でサイはもっと苦労するかもしれない。)
「二つ目だ。」
「試験で最も重要視するものは、もう社交性ではない。」
ロッキーが続ける。
「社交性じゃないんですか?」
( それはよかった。)
(サイは今年、社交性が足りなくて落ちたんです。 )
カイは安心したように言った。
「では、一番重要になるのは何ですか?」
カイは尋ねる。
「特にない。」
「最も重要なのは試験の点数だ。」
「社交性でも、それ以外でもない。」
ロッキーは答えた。
「私は二つ目の変更には賛成です。」
「点数以外を最優先にするのは難しいと思います。」
オーロラは言った。
「ええ。」
「それでは公平とは言えません。」
「特に社交性は、誰にでも簡単に身につくものではありませんから。」
「人見知りの子には難しいでしょう。」
ソフィアも言った。
「変更点は以上だ。」
「そんなに多くはないだろう。」
ロッキーは言った。
「多くないどころか、一つ目が重すぎますよ!」
カイは納得できない様子だった。
「今まで組織は、命を危険にさらすようなことはしませんでした。」
そう言う。
「誰がそんなことを言った?」
「ボランティアになると決めた時点で、災害や危険な現場では命を懸ける覚悟が必要だ。」
レオンは静かに言った。
「そ、それはそうですけど……。」
カイは苦笑した。
「いずれにしても、これは私とアグラタ団長が決めたことだ。」
「変更するつもりはない。」
ロッキーはきっぱりと言った。
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「僕の家に遊びに来ない?」
ルイスが誘った。
「君の家?」
サイが尋ねる。
「うん!」
「うちの家族専用の庭で遊べるし、お菓子も食べられるよ。」
ルイスは笑顔で言った。
(行かないほうがよさそうだ……。)
サイはそう思い、どうにも納得できない気持ちになった。
「君のご両親はすごいんだね。」
「生活にも困っていなさそうだ。」
サイは言った。
「まあね。」
ルイスは答える。
「護衛までいるし。」
「護衛?」
「昨日のあの人のこと?」
ルイスが尋ねた。
サイはうなずく。
「あの人は護衛じゃないよ。」
「ただの運転手。」
ルイスは答えた。
「それに、僕は護衛なんてほしくない。」
「いたら、あれも駄目、これも駄目って言われるし、自由に遊べなくなるから。」
そう言いながら、ルイスは長銃身のピストルを開いた。
「そうなんだ。」
サイは答えた。
「それじゃあ、おしゃべりばかりしてないで遊ぼう。」
ルイスはそう言うと、草原に立つ一本の木へピストルを向けた。
その時になって初めて、サイは昨日来た草原を通っていることに気付いた。
「リンゴを撃ってみるよ。」
ルイスが言う。
「待って。」
サイが止めた。
「どうしたの?」
ルイスが尋ねる。
「持ち主が怒るかもしれないよ。」
サイは言った。
「どうしてそんなこと考えるの?」
「誰にも分からないよ。」
ルイスは答えた。
「でも昨日、ここで会った男の子が、実は……。」
「女の子だった?」
ルイスが言う。
「ど、どうして知ってるの!?」
サイは驚いた。
「その子なら知ってるよ。」
「名前はミシェル。」
ルイスは答えた。
「ミシェルっていうんだ。」
「そういえば、お母さんもそう呼んでた。」
サイは言った。
「そんなことより、僕の射撃を見てて。」
ルイスは再び木へ向かってピストルを構えた。
二人は気付かないうちに、道の真ん中近くまで出てしまっていた。
「プップー!」
一台のバイクが二人へ向かって走ってくる。
「おい!」
「危ない!」
バイクの運転手が叫んだ。
「ルイス!」
「バイクだ!」
サイも慌てて叫ぶ。
しかし、二人が避けるよりも早く、バイクが二人に接触した。
その衝撃で、ルイスのピストルは手から離れて飛ばされてしまう。
バイクは少し先で止まった。
「遊ぶなら安全な場所で遊べ!」
運転手はそう言った。
「すみません!」
サイとルイスは慌てて謝る。
運転手は不機嫌そうな表情を浮かべると、そのまま再び走り去っていった。
「やっぱり、ここで遊ぶべきじゃなかったね、ルイス。」
サイは言った。
ルイスは草原のほうを見つめる。
飛ばされたピストルを探していた。
「まずい……。」
ルイスは小さくつぶやく。
サイはルイスを見る。
「どうしたの?」
尋ねた。
「ピストルがミシェルの庭に落ちちゃった。」
ルイスは青ざめながら言う。
サイはルイスが指さした方向を見る。
「じゃあ……。」
「取りに行くの?」
サイは少し怖そうに尋ねた。
「もちろんだ!」
「行こう!」
ルイスは勇気を出して言う。
「ど、どうして僕まで行かなきゃいけないの?」
サイは困ったように言った。
ルイスは答えない。
そのまま草の斜面を滑り降りていく。
「ねえ!」
「待ってよ!」
サイも慌てて後を追った。
二人は草原へきれいに着地する。
ルイスはすぐにピストルが落ちた場所へ走っていく。
サイも後を追った。
ルイスは無事にピストルを拾い上げる。
「よかった。」
「壊れてない。」
ルイスは安心しながらピストルを確認した。
「早く!」
「ミシェルに見つかる前にここを出よう!」
サイは急いで言った。
「どうして?」
突然、後ろから声が聞こえた。
二人は驚いて固まる。
ゆっくりと声のしたほうを振り向いた。
「ミシェル!」
二人は同時に叫ぶ。
「い、いつからいたの?」
帽子をかぶったミシェルを見て、ルイスは青ざめながら尋ねた。
ミシェルは何も答えない。
ただ静かにサイとルイスの足元へ視線を向ける。
二人は不思議そうな顔をしてから、自分たちの足元を見る。
「しまった!」
二人は同時に叫んだ。
二人はようやく、自分たちが畑の野菜を踏んでしまっていたことに気付く。
「いつの間にこんなところに野菜が!?」
サイは驚いた。
「ここはもともとミシェルの畑なんだ。」
ルイスは言った。
「お前たち……。」
ミシェルは怒り始める。
その雰囲気はとても恐ろしかった。
「逃げよう!」
ルイスは叫び、そのまま走り出した。
サイも急いで後を追う。
「戻ってこーい!!」
ミシェルの怒鳴り声が草原中に響き渡った。




