貴方だけでも
最初に動き始めたのはアリサだった。
それに伴うようにアルトが斜め後ろに付きサポートに回る。
「ふっ!」
気迫の籠った音がアリサの口から漏れる。
受けに回ってはあっさり負けると判断したアリサは攻めを責めを絶やさない。
アリサの攻撃後に出来る隙はアルトがカバーし全力でサポートに回る。
「ッチ! うざってねえなッ!」
Aランク冒険者以上の実力を持つフードの男に対してアリサとアルトは圧倒的な連携力で攻め立てる。
二人の強さの真骨頂はやはりその連携力にある。
幼い頃から常に共に行動し、剣の修行の相手も常に互いだった二人にとって、お互いの次の一手が無意識に分かるほどまでになっていた。
1人ずつ戦えば既に二人とも殺されていたであろう。
しかし、二人の連携力は格上相手にも通用する。
相手が強いほどその強さが明確に顕著になっていく。
「蒼き氷よ、我が手に宿れ。鋭き槍となりて敵を貫け。氷結旋槍!」
しかし男もまた強者であった。
二人の隙のない怒涛の連撃を受け流しながら高速詠唱で魔法を完成させる。
「ぐっアルト!」
「やっと離れたさせたぜえ!!」
氷の槍が数本飛んでくると、あまりに早い詠唱から発動までにアリサとアルトは同時に避けるが左右に別れてしまった。
「まずはてめえだッ!」
男がアルトに一直線に向かい真っ先に殺しにかかる。
アリサが直ぐに体勢を立て直し、すぐに援護に向かおうと走り出した瞬間に男は指を口に咥えて音を鳴らした。
フィイイイイ!っと言う音がダンジョン内に響き渡る。
「何を・・・・・・っ」
数秒後、周辺から一気に狼が現れアリサへ向かって飛びかかってくる!
「っ!? 地龍だけじゃなかったのね!」
地を蹴り高く跳躍して噛み付いてくる狼を一刀両断にしながらアリサは理解する。
男が操れるモンスターは地龍だけではなかったと、そしてここまで逃げてきたのはこの階層に他のモンスターを待機させていたからだと言うことを。
「くっ邪魔よッ!!」
アリサは焦る。
首輪の付いた狼の群れと対峙しながらチラチラと視界の奥に見える逃げ惑うアルトの劣勢の姿。
速く速くと焦るばかりに剣の太刀筋が雑になっていき一撃で仕留められるはずの狼相手に数手かかり余計に時間がかかる。
それによってさらに自身への苛立ちが湧き冷静な判断が取れなくなっている。
「うっ、いっ・・・たいわね!」
そしてついに剣を持っていない方の腕を噛み付かれてしまった。
狼の鋭い牙が腕に深く突き刺さりアリサは顔を顰めながらもなんとか引き剥がし斬り殺す!
「はぁ、はぁ、アルト!」
狼の群れを全滅させた時にはアリサは息があっており肩で息をしていたがすぐに駆け出す。
「ぁぁ」
アルトは力なく倒れ膝が地面に着く。
全身は切り傷だらけで一部は深く深刻な状態になっている。
既に自力で動けるだけの力は残ってなく隙だらけだった。
「死ねッ!」
男もあまり余裕はなく、すぐに決着をつけようと膝をついて動かなくなったアルトに剣を伸ばすが、横から飛んできた物体に吹き飛ばされてしまう。
「ぐおおおッ!? っ痛えな!」
横に吹っ飛び一回転しながら着地し体勢を立て直し確認すると飛んできたのは狼の死体だった。
「あのクソ女がっ!」
「アルト! しっかりしなさい!」
アリサは自分の足じゃ間に合わないと考え思いっきり狼の死体を投げ飛ばし見事男に命中した。
すぐにアルトの元へ駆け寄りポーションをかけて声をかけ続ける。
「立ちなさい! このままじゃ死ぬわよ!」
「おらああああ!!」
「くっ! アルト早く立ちなさい!」
男が怒って声を荒らげながらアリサに斬り掛かる!
アリサは咄嗟に反応し受け流しながらもアルトの意識を落とさせないために声をかける。
「ぅ、ぁ、ぐっはぁ、はぁ」
アルトの傷が少しずつ癒えていき、アリサの声に叩き起されるように意識を保ち気合いを入れて足に力を入れて立ち上がる。
そして視界の先で自分を庇うように戦っているアリサを見て彼は思う。
ああ、また足を引っ張ってしまっている。
自分が居なければアリサはもっと戦えたのではないかと。
そんなネガティブな考えばかりが頭の中を支配してしまう。
「アルトっ・・・・・・!」
そしてアリサは一瞬視界に入ったアルトを見て気付く。
アルトはもう既に戦意を喪失していると。
体も精神も限界を迎えて戦えない。
動けない。
「ッチ!」
大きく舌打ちをして男の剣を上手く受け流せず太ももや腕に傷が増えていく。
「逃げなさい!」
「・・・・・・ぇ?」
アリサは意識を切り替える。
勝つためにロアク達の到着を待つのではなく、アルトを逃がすために時間を稼ぐ。
自分の命を犠牲にしてでも。
「・・・・・・」
アルトはアリサの言葉に動きが固まり何も言えなかった。
やはり自分は不要だった。
アリサに邪魔と思われているだけだった。
アレスはそんな事ないって言っていたけど、行動で示してくれるって言っていたけど。
やはり自分は役に立たないのか。
そんな考えが、さらにアルトの足を重くしていき思考が沼にハマっていく。
アリサの想いと、アルトの気持ちは交わらない。
「てめえの心配をした方がいいんじゃねえか!」
「っ! はっ! そこ!」
男の大振りな一撃を見極めてチャンスを逃さないとカウンター覚悟の一撃を決める!
「がはっ!? ぶおおっ!?」
アリサの渾身の袈裟斬りが命中し大ダメージ与え、さらに蹴り飛ばして距離稼ぐ。
「くっ・・・・・・」
しかしアリサも直撃ではないが腹を突かれて鎧ごと一部が貫通し血が大量に流れ落ちていた。
「・・・・・・」
霞む視界の奥、腹を貫かれながらも格上相手に大打撃を与えたアリサが堂々と立つ姿が見える。
そして彼女は少しだけ後ろを向いて言った。
「アルト、行きなさい」
いつもとは違った覇気の籠っていない、その代わりに優しさだけが籠った落ち着いた声でそう言って、その表情はとても優しく小さな笑みを浮かべていた。
「っ・・・・・・くっ!」
アルトは走り出す。
後ろを振り返らず、必死に上層を目指して。
最後に見せたアリサの表情は優しさの中に、自分の生を諦めているようにも見えた。




