駆け落ち
瑠璃と大輔は山久手みさきの母親に案内されて応接間に通された。
「先ほど言いましたように、みさきは10年前に家出して、未だに連絡も取れません。」
「では、休学されたのは家出したからですか?」
「そうです。」
山久手みさきの母親は少し間をあけてから続けた。
「学校と相談して、あの子が帰って来る事も考えて2学期から休学という事にしたんですけど、結局戻ってこなくて、2年で退学と言う事に。」
「失礼ですけど、どうして家出だって分かったんですか?」と大輔は聞いた。
「あの年の7月29日にバレー部の3日間の合宿に行くと言って出かけたんですが、3日経っても戻ってこなくって。担任でバレー部の顧問だった渡貫先生に聞いたら、バレー部の合宿は8月入ってからだと言うのです。調べてみたらあの子の机の引き出しの中に置手紙で『駆け落ちします』と。後で分かったんですが、あの子妊娠してたみたいなんです。産婦人科の病院にかかってたみたいで。」
「家出が分かってから警察には?」
「置手紙を見つけた時、捜索願いを出しましたが、本人の意思で家出したのは明らかだからとあまり調べてもらえませんでした。」
女性はそこで一息つくと、思い切ったように続けた。
「明日は帰ってくるか、連絡があるかと待ち続けてもう十年近くになります。あの子にとっても恥になることですから、これまであまり大っぴらにして来なかったのですが、そんな事は言っておれません。同窓会をされるのでしたら、どなたか少しでも手がかりになる事をお知りでないか聞いていただけないでしょうか?」
「出来るだけの事をいたします。」と瑠璃は答えた。
山久手家を後にして、二人は瑠璃の家に向った。駐車場に車を止め、瑠璃の家の前に来ると、長身でハンサムな男性が入口の前で仁王立ちしていた。
「瑠璃、こいつは何だ。まさか浮気してたんじゃあ」
「違うわよ」
「じゃあ何だ。二人で車に乗って何処に行っていたんだ?」
「この人は柳大輔さん。以前あきちゃんの住んでたアパートに最近越してきて……」
「言い訳するな」
男が瑠璃に詰め寄ろうとすると、男と瑠璃の間でバキバキっと特大のラップ音がし、男は一瞬あっけにとられた。
「兎に角、家に入って。説明するわ」
と瑠璃は、男と大輔を家に招きいれ応接間に通した。
「柳さん、ノート出してもらえます」
大輔が鞄からノートを取り出して開くと
『健二君の馬鹿。見損なったわ』
と大きな文字が現れた。
「何これ」
「あきちゃんから健二へのメッセージ」
「マジで」
「マジで」
「私、柳大輔と言います。先ほど上月さんが言われたように、数日前に近くのアパートに引っ越して来ました。そこでこのノートを見つけたんです。見られたように平宮晶子さんからのメッセージが現れるようです、このノートに 」
「つまり……」
「そういう事になりますね。この部屋にいるのは3人だけじゃないと言う事です」
「うーん」
そう言うと『健二君』は黙り込んでしまった。
「それで、柳さんはあきちゃんを轢いた犯人を捜そうとしてくれてるのよ」
「でも警察でも十年近く掛かってひき逃げ犯を見つけられないのに」
「それが、ただのひき逃げじゃなくて、あきちゃんを狙って轢いたみたいなの」
「何だって」
「警察による衝突位置の推定とあきちゃんの証言とを合わせると、どうも狙ってやったみたいなの。警察の中にもそう考えてる人もいるみたい」
大輔は衝突状況の図のページを開いて説明した。
「警察によると、平宮晶子さんと車がぶつかったのはこの位置だそうですが、平宮さんは車に気づかず歩き続けてたとのことです。つまり、車が車線変更し始めた時にはもっと手前、この辺にいたと思われます。つまり平宮さんに向ってきたという事です。」
「衝突時の推定速度は時速40kmと遅いですが、ブレーキ痕はありません。故意に狙ったのなら、この辺に停めていて、平宮さんが渡り始めたのを見て発進したのではないかと私は思ってます」
「時速40kmとはいえ、ぶつかれば車も破損して遺留品がありそうですが、警察発表では犯人側の遺留品はありません。可能性の一つとして考えたのがカンガルーバンパーです」
「カンガルーバンパーは野生動物と衝突した時の車体の損傷を防ぐための物です。もし犯行車がカンガルーバンパーを装着していたのならと思ったのですが……」
「渡貫先生のパジェロは事故の前の年にカンガルーバンパー外してたのよね」
「はあ? 何で渡貫先生?」
「もし犯人が平宮さんを待ち伏せしていたのなら、平宮さんがその日ペルセウス座流星群の観測会から帰ってきて、零時近くにその交差点を通ることを知ってたと思われます。可能性が高いのは生徒か先生その他学校関係者。4輪使った犯行なので、生徒よりは教職員の方が可能性が高いかと」
「だから柳さんはカンガルーバーを装着しそうな車に乗ってた先生が誰かいるかって聞いたの。渡貫先生の車は少なくとも以前はカンガルーバーつけてたよね。」
「それで二人で渡貫先生の事調べに行ってたのか?」
「それだけじゃないけどね。直接は関係ないけど山久手みさきさんも夏休み明けから休学して、結局退学したでしょ。あきちゃんが彼女の事調べて欲しいって言うの。だから彼女の家にも、行ってみたの。そしたらビックリ仰天」
「山久手みさきさんのお母さんが言うには、彼女は駆け落ちしたらしいです。その何と言うか、彼女妊娠してたらしいくて、それで、バレー部の合宿と言って家を出て……」
「3日と言ってたのに、3日経っても戻ってこないから、バレー部の顧問の渡貫先生に聞いたらバレー部の合宿は8月に入ってからだって。それで調べてみたら『駆け落ちします』と言う書置きがあったんだって。今度の同窓会で皆に何か知ってないか聞いてくれって頼まれちゃったよ。」
突然大きなラップ音がしたかと思うとノートに特大の文字が現れた。
『絶対違う。みさきちゃんが駆け落ちしたはず無いよ』




