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卒業アルバム

 渡貫(とつら) (よう)は、I高校の校門から少し離れた所で登校する生徒を見ているらしい若い男に気がついた。年の頃は25歳前後で、中肉中背。ジャンパーにジーパンのラフな格好をして学校の 中を覗き込むその男は、不審者と言って良い。 渡貫は男に近づくと声を掛けた。


「何を見てるんだ」


 男は意外に落ち着いた声で返事を返した。


「駐車場に止まっている車を見てるんです。自動車通勤される先生方がどんな車に乗ってるかと思って」


「どんな車に乗っていようがあんたに何の関係が?」


「先生が乗る車だから、お堅いのばかりかと思ってましたが、如何にもレジャー用のルーフボックス載せたのとか乗ってるんですね」


「教師だって休みにはレジャーぐらいする」


「あのルーフボックスを載せたパジェロはあなたのですか?」


「それが何か? あんまり変な事言うと不審者として警察に通報するぞ」


「通報される前に退散しますよ。センセ」


 そう言うと渡貫に背を向け、去って行く男。渡貫の左の頬が神経質そうにピクピクと痙攣(けいれん)した。


 I高校から少し離れた路地に停まっていた軽自動車に男が乗り込むと、運転席の女性が声を掛けた。


「渡貫先生はどうでした?柳さん」


「渡貫先生にパジェロはあなたの車かと聞くと不審者は警察に通報すると言われましたよ。普通だったら生徒に興味がありそうだったら不審者と咎めるんじゃないんですかね? 誰の車か聞いたら不審者って言いますか」


「渡貫先生は私がI高校に通っていた頃からパジェロに乗ってます」


「それは昨日もお聞きしました。取りあえず、こちらは一応終了なので、次に向ってください」


 そう大輔に言われた上月瑠璃は昨日の事を思い起こしていた。



「それで、私は何をすれば良いんです?」


「高校の卒業アルバムか何かを見せていただけますか?」


「少し待っててください」


 そう言うと瑠璃は応接室から出て行った。しばらくして戻ってきた瑠璃が手にしていた大型の本の背表紙には「200X年度 I高校卒業アルバム」の文字があった。


 応接セットのテーブルの上にアルバムとノートを開いて、アルバムの方のページを順にめくる瑠璃。

大輔は向かい側からアルバムを覗き込みながら、時々ノートの方にも目を向けた。


「先生の中でちょっと前のクロカン4WDって感じの車に乗ってる人はいましたか?パジェロとか、ランクルとか」


「私たちの担任だった渡貫先生が旧型のパジェロに乗ってましたね。私たちが3年になった頃乗り換えたのがまたパジェロでした」


『渡貫先生は若くて格好良いんだよ。スポーツマンって感じ』


「渡貫先生は若くて格好良かったんですけどね、当時は。もう十年も経ってますからね」と瑠璃は訂正する。


「その渡貫先生の旧型の方のパジェロにはカンガルーバーは付いてましたか?」


「私たちが入学した時にはついてたんですが、私たちが1年のうちに外しましたよ。福岡で飲酒運転で追突されて子供が3人亡くなった事故が世間をにぎわしていたでしょう? 被害者の車にカンガルーバーが付いていたせいで欄干突き破って転落したとか言う噂が流れて、それで外したとか言ってましたね。」


「渡貫先生ってどの人です?」


「修学旅行の集合写真があったと思いますが……これです。この男の人が渡貫先生です」


 集合写真の隅に写っていたその教師は、20代位で、身長も高く如何にもスポーツマンと言う感じの男性だった。


「渡貫先生は体育の先生なんですか?」


「大学ではバレーボールの選手だったらしいですが、教科は物理です」


『この写真みさきちゃんがいないよ。修学旅行に行かなかったの?』


「みさきちゃんって?」


「私達の同級生だった山久手みさきさんですね。彼女は夏休み明けから、病気だとかで休学して、結局復学出来ずに2年で退学しました。」


「あんまり関係ないですが、実は、彼女、駆け落ちしたって噂が流れたんですよ。」


『みさきちゃんが駆け落ちなんてあり得ないよ。だって……』


「取りあえず、明日もう一度I高校に行ってみます。当時とは違うかもしれませんが、I高校の先生方がどんな車に乗ってるか、傾向だけでも見ておきたいんです。」


『みさきちゃんの所にも行ってよ。それで、どうして休学したか確かめてよ』


「いや、俺はその山久手みさきさんとは何の接点もないから、いきなり押しかけてもそれこそ不審者だと思われるだろ。」


「明日だったらお店が休みだからご一緒しますよ。今度クラスで同窓会するので、退学したけど出て欲しいと言えば理由になるでしょう」


「それでは明日ご一緒願えますか。実は私まだ車持ってないんですよ。前住んでた所では車は必要なかったので」


 瑠璃は少し驚いたような表情をしたが、何も無かったように話を続けた。


「登校時間に行けば、校門で渡貫先生に会えるかも知れませんね。相変わらず校門に立っていたらですけど」


「でしたら、申し訳ないですが車出していただけますか? 先生方は上月さんの事知っておられるでしょうから、I高校の近くで停車して校門には私だけ行ってみます。それから山久手さんの所を訪問しましょう。」



 瑠璃の軽自動車はI市の住宅街の中の二階建ての立派な家の前で停車した。瑠璃と大輔は車を降りて、

瑠璃を先頭にその家の門に向かい、瑠璃が門についているインターホンを押した。


「どなたでしょう」


「山久手みさきさんと高校で同級だった上月瑠璃と申します」


 暫くして家から品の良い服を着た50歳ぐらいの女性が出てきた。


「上月瑠璃と申します。実はもう直ぐ高校の同級生で同窓会をしようと言う事になりまして、山久手みさきさんは途中で退学されたのですが、もしよろしければ出ていただけないかと。」


「……実は、みさきは10年前に家出して、その後どうしてるかは私達も分からないのです。」

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